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さよならは言わない〜スパリゾートプレジデント〜【サウナリーマン日記第41話】

孝行したいときに親はなし。

そんな言葉がある。
失いかけてその大切さに気づく。

Twitterで閉店の一報を聞いてから
ずっとソワソワである。
きっと土日は大混雑だろうから、
無理くり午後だけ有休を取った。

行きの電車でiPhoneから
流れてきた名曲。

もう終わりだね
君が小さくみえる
僕は思わず君を抱きしめたくなる
オフコース 「さよなら」より

小田和正のソロも好きだが、
今日はオフコースのバージョンの
音源を聴きたい気分である。

そんな曲がいまの自分の
頭から離れなくなるなんて。
どうしても感傷的になってしまう。

全国のサウナファンの皆様のなかでも、
もう来店ができず、残念がっている
人もいるだろう。
そんな人の思いも背負ってやってきた。

歴史を感じさせる佇まい


ラストサウナならぬラストプレジ。
ここはイオンウォーター900mlが
なんと170円で買えるのだ。
いつも即決である。

やはり平日でも多くのサウナーで賑わっていた。
段差を突破してくぐり抜けると、
アチアチのドライサウナ。

少し小さめのテレビの音量と
サウナストーブの稼働音が昭和を感じさせる。

誰一人喋るものなどいない。
群れるものなどいない。
ただ、誰もが残り少ない一緒に
過ごす時間を噛み締めている。

私は、
もともとスチームサウナのほうが
好きで、通っていた。
入り口の手前左に冷水の出る蛇口がある。

その蛇口を捻り、
ずっと冷水を浴びてでも居座りたい。
今日はそんな気分である。

あの場所の蒸気がどれだけ
世俗にまみれたくだらない自分を洗い
流してくれたか分からない。

蒸気に囲まれている時間は、
自分ですらない何者でもない自分。
もちろん何もかもが「からっぽ」になる。

だからその目で僕を見ないで 悲しくなるから 
多分君は僕の中にもう映らない  

忘れる事なんて出来ない僕が
今日もここに居るから 
君の影をいつもどこか探してる
ゆず 「からっぽ」より


あかん、ちっとも今日はからっぽに
なれない。私の未熟さが、脳内再生を
加速させる。

最後になるかもしれない。
いや最後だ。

黄色のプラスチックのうちわを 
片手に入場。
少し扇ぐだけでアツアツの風が
歓迎してくれる。

気のせいだろ。
多分そうだろう。
いや違う。
違う、きっと違う。

いつも以上に視界を遮る蒸気。

残り少ない命を悟り、そこに一瞬一瞬を
かけるようなスチーム。

視界を奪われ、何も見えない。
その理由は蒸気なのか、
涙のせいなのか。
もう知る必要はない。

その情熱に押されるように、
徐々に熱を帯びていく自分の身体。
別れのときはもうすぐである。

サウナは我慢比べではない。

自分なりのタイミングで出て
楽しめばいいだけ。

でも今日だけは違ったんだ。

もう少し、あと少し。

彼なのか彼女なのかそんなことは
どうでもいい。

最後まで手を抜かない
蒸気達に1秒でも長く寄り添いたかった。

階段を降りて
少し歩いたコンパクトな水風呂に入ると
まるで異次元の世界から舞い戻った感覚。
こんなことは今までなかった。

これで終わっちゃったんだ。
この日この場所でのととのいはもうやって
こない。

サウナは一期一会だと思っている。
今日認めなければならないのは、
「この場所」でのととのいは、
もう二度とやってこない。

僕が生きてサウナーである限り、
まだまだ見送る施設はでてくるのだろうか。

そんなことに耐えうるほどの
自分にいつなれるだろうか。 

あの最後に見せてくれたあの強烈なスチームを
僕は忘れない。最後の命を燃え尽くすように。

さよならは言わない。

ありがとう、スパリゾートプレジデント。

レジェンドもまたどこかで

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