窪田健吾 / holo shirts.
服作りへの熱い想いを絶やさないために
見出し画像

服作りへの熱い想いを絶やさないために

窪田健吾 / holo shirts.

4連休明けの月曜日。薄曇り。
僕は杉並区の自宅から自転車で汗だくになりながら銀座にコートを買いに行った。
行ってよかった。本当に。

そして、ただコートを買うだけなら30分くらいで済みそうなものを、僕は結局そこに5時間いた。
それだけ見るものがたくさんあって、考えることが多かった。
服作りに携わる一人として、熱くならないわけがなかった。
これは、その熱い5時間の話。

10:00(道中)

わざわざこんな状況で、自転車を1時間以上こいで行くくらいだから、それが普通のコートではないことは察していただけると思う。
物も普通じゃないし、それが生まれるまでの背景も普通じゃない。

みなさんは三陽商会という会社をご存知だろうか。
1942年に創設されて、戦後すぐにレインコートを作るところから始まってもうすぐ80年、老舗のアパレル会社である。
数年前まで、国内でバーバリーを扱っていたのもここ。

妻がおばあちゃんから譲り受けて大事に着ているコートも三陽商会のもの(sanyo carat)で、長年愛される服を作っていることは、身近に感じていた。

そんな三陽商会のものづくりにおける縁の下の力持ち、それが「三陽商会技術部」である。
社内の服のパターン設計、サンプル制作などを担当する、服の設計のプロである。

今日の行き先は、そんな部隊が立ち上げたプロジェクトのポップアップストア。

11:00

汗だくで銀座に着く。三越の地下に自転車を停めて、会場まで歩く。
銀座は少し静かな気がした。
汗が噴き出す中、会場に入る。試着なんてできたもんじゃない。
でも、着いたらまず見ようと思っていたものがある。

「服の部分縫い見本」だ。

全部は到底見きれないほどの仕様見本が並んでいてため息が漏れた。
「うちに置いておきたい…」
これらを惜しげもなく無料で展示してくれていることに感謝しつつ、観察し続けた。シャツ作りに使える仕様ではないものでも、今見ておかなければいけない気がした。

もし外部のパタンナーに依頼をして服作りをしていたら、サンプル縫製を外部に委託していたら、、こんなアーカイブをまとめておくことはできないし、もし、もし、、三陽商会という会社に何かあった時には、これらはどうなってしまうんだろう。

昨今の状況から、そんな不安がよぎった。

12:00

やっと汗が引いてきた。
いざ試着。まずはパンツを。
…コートを買いに来たのは間違いないのだが、並ぶパンツにいてもたってもいられなかった。

ミリタリーをモチーフに、ユニセックス(一部レディースのみ)で着られるシルエットに調整されたこれらのパンツ、ありきたりな表現だけど本当にシルエットが綺麗。

会場にいるパタンナーが直々にフィッティングしてくれて、丈やウエスト寸法はもちろん、可能な範囲でシルエットの調整も相談に乗ってくれるというから驚いた。

贅沢すぎる。

13:00

パンツのオーダーを決めて(決めたのかよ)、ちょっと興奮していたので会場のカフェでひと息入れる。

珈琲を飲みながら、ふとこのプロジェクトの事が気になってくる。

三陽商会という老舗企業において、この展示を行うのになぜクラウドファンディングをしなければいけなかったのか。なぜ普段は表に出る事がない設計のプロたちが接客をしているのか。

アパレル産業は斜陽、なんて簡単に言いたくないけど、明るくない不安なニュースが多いのも事実。三陽商会だって、会場となったビルを売却した事がニュースになっていた。(会場のTIMELESS 8は8月末で閉店予定)

過去の栄光にすがってとか、大きくなり過ぎたとか、生活様式の変化だとか、色々理由はあるのかもしれないけど、規模の大小に関わらず「1着1着大切に届ける気持ち」が薄れてしまったのではないかと個人的には思っている。

服を届ける過程ではたくさんの人が関わるが、全員がこの気持ちを持って仕事をしていればこうはならなかった。というのは綺麗事か。

どの企業でも、そこは組織だからその中のどこかの誰かに対して疑問を持っている人はいると思う。
いいところを活かせてる?無駄はない?それ本当に楽しい?儲かる?

いろんな意見をすり合わせているうちに、すり減って丸くなって面白くないことになることだってあると思う。

そんな時に、近い考え持った数人のチームが「えい!」と動き出すことがある。

幸い、パタンナーの一人とじっくりお話する事ができて、いろんな葛藤の中から生まれてきた、そんなプロジェクトなんだという事がわかった。

作るところから届けるとこまで責任を持って、直接反応がもらえる形。
組織が大きくなればなるほど責任転嫁も簡単になるし、顔が見える反応も得られなくなる。そんなもどかしさを吹き飛ばすようなプロジェクトが、服を設計する集団の中から生まれたというのが熱すぎる。

考え抜かれた美しい服をコミュニケーションツールに「服作りに熱意を傾ける人たち、服が好きな人たちが集まって意見を交わす場を作りたかった。」

「服作りを諦めてない人たちが集まってきてくれていて、希望をもてた。」

その言葉が印象的だった。

14:00

会話は続き、パターンの話に。
「ここのパターンはこんな風になっていて…」
「シャツだとこの部分どうしてます?」
「ここはこうなってますか…!」
本当に貴重な情報交換ができて、研究熱がメラメラと燃えるのがわかった。

そろそろ試着しているはずが、そのパタンナーさんのミリタリー古着のコレクション展示を見たり、パターンの事を考えたりで行ったり来たり。頭フル回転で1時間が過ぎていった。

15:00

機は熟した。
いざコート選び。
パターンのお話をたくさん聞いて、頭でっかちになった状態での試着はどうかと思ったけど、羽織って漏れた一言が

「いいわ…」

これだけ。

素材、パターンのこだわり、芯の使い方など仕様の工夫、縫製の美しさ、どれも理解した上で、出てきたのが「いいわ…」の一言。

どれが欠けても「ぱっと見のかっこよさ」は生まれない。
それを体で感じられて本当によかった。
コートを手に入れるという事以上に、服作りへの熱い想いと、その想いが形になったものを同時に味わう体験ができて、ありがたかった。

そして、普段自分がお客様にしてもらっている素材選びをさんざん悩んで(楽しんで)、納得のいくオーダーができた。

16:00(帰路)

今、僕自身は、オーダーを受けて、作って、届けて、反応をいただいて、再会して、、こんな形でシャツを届けることができている。
これがこの先どんな規模になろうとも、全ての工程に目を配って責任を持つ形を崩したくはない。

作って届けたその先に、そのシャツを着て嬉しそうにしている人がいる。それがわかるから続けていられる。
そんな情熱の中心を銀座のビルの9階で再確認した。


『SANYO ENJIN POP UP』
7/23〜8/3
11:00〜20:00(8/2、3は〜19:00)
GINZA TIMELESS 8 9階 TIMELESS Lounge



この記事が参加している募集

イベントレポ

買ってよかったもの

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
窪田健吾 / holo shirts.

オーダーという業態を選んだ時点で「無駄なものを作らない」が頭にありました。これまでもこれからも、ちゃんと袖を通して着倒してもらえるシャツ作りを続けていきたいと思います。

窪田健吾 / holo shirts.
オーダー専門のシャツ屋『ホーローシャツ』を主宰しています。都内でjwaveを聴きながらミシンを踏んでいます。毎日の珈琲と納豆は欠かせません。焼き鳥が美味しいお店に誘ってもらえると喜びます。今年は散歩の時間を増やしたいです。