VRC環境課 side:Yi Xiaoling 「墓守/Revive Heart」 Cp.6

目次
Cp.1
Cp.2
Cp.3
Cp.4
Cp.5
Cp.6 ここ
Cp.7
Cp.8

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「もう少し時間がかかると思っていたんだがな。どこから嗅ぎつけた。」
「速やかに小玲をこちらに引き渡してください。あなたに対して処罰を行う権限がこちらにあります。これは警告です。」
「従わない場合は――」フローロが言い切る前にライルが割り込む。
「返す?これは元々私の”杖”だ。それを勝手に使用していたのはそちらの方だろう。」
「杖を・・・使う?」
「何度も言わせるなよ環境課。これは私の所有物だ。これは私の作った”杖”だ。勘違いしているようだが、そもそも人ですらない、これは”道具”だ。紛失した仕事道具を元の所有者の元に返すことは自然な事だろう。どう扱おうが私の自由なのだよ。」
「ふざけている・・・あなたは自分のやっていることがなんなのかわかっているんですか。」
拳を握りしめ怒りの表情を浮かべるフローロに対して、ライルは挑発的に続ける。
「私にはわかるぞ、お前もそうなんだろう、被造物。」
「くッ・・・!」
フローロは無造作に並べられた機材を飛び越えライルに向かって一直線に向かう。
ライルは「ふん。」と鼻で笑うと指を鳴らす。
すると寝台に縛り付けられた小玲の額の御札が蒼く光を帯びる。拘束を軽々と引きちぎり、バネのように跳躍する。
ライルの目前まで迫った解体武装は、目の前に割り込んだ脚甲によって弾き上げられ、彼に届くことはなかった。
「丁度いい。本運転前に紛失したものでね。まだテストも終わっていないんだ。お前で使い心地を試させてもらおう。」
「やれ。」
短い合図と共に、小玲が爆発的な速度でフローロに迫る。
繰り出される蹴りに対して、解体武装で応戦する。今まで小玲と手合わせをしたことはあれど、これほどの俊敏性だったという記憶はない。
「小玲に・・・何をした!」
「何もおかしなことはしていないさ、これは本来の”これ”の使い方だ。私の振動フェルミオンを流し込めば、それを触媒として身体能力を増幅し、意図した通りに動かすことができる。」
その動きは既に人に為せるようなものではなく、戦闘用に高度な義体化が施された軍人や傭兵のそれであり、フローロは既に防戦一方になるほかなかった。
「ふむ・・・。増幅率と出力は上々だな。戦闘記憶も意図した通りに書き込みができているようだ。」
「小玲!目を覚ましてください!」
「無駄だ。既にこれに意思など存在しない。そもそもが私によって作られた物なのだからな。」
「それでも・・・!」
小玲の高速の上段蹴りが飛ぶ。回避が間に合わず、視界が意図に反して急速に移動する。
直撃を受け、散らばった機材に衝突するものの、すかさず体勢を整え迎え撃つ。
小玲の飛び蹴りを解体武装の切っ先が受け流す。フローロは武装の柄から手を放し、小玲を力いっぱいに抱きしめる。
「小玲!あなたのマスターは彼じゃない!思い出してください!」
二人は字面に転がり込む。フローロは自身が持てるすべての力で彼女を抱きしめながら小玲の額めがけて小さく頭突きをする。
「・・・・・・」
小玲は声は上げないものの、苦悶の表情で歯を食いしばり、ギリギリと音を立てている。
「環境課を!解体係を!皇純香を!私を!思い出して!」
「うぁっッ!!」
小玲の力はすさまじく、フローロの拘束はわずかな時間彼女を抑える程度にしかならなかった。
抱き込んだ腕を容易く引き剥がし、フローロを壁に向かってかって投げつけると、その場でうずくまり呻いている。
「チッ、この程度ならば容易に始末できると思っていたが、やはり定着が甘いか。」
「今一度重ねて命じる。そこにいる環境課を潰せぇッ!」
「うあああああぁぁぁっ!」
蒼く鈍い光が再び輝くと、小玲がさらに苦し気に暴れる。無造作に周囲に叩きつけられる拳や蹴りの威力が、彼女の力の強さを再確認させる。
小玲が暴れているうちに手放した解体武装を再び手に取ると、フローロはこの隙を逃すまいと、ライルに接近する。
「まさか私自身は戦えないとでも思っているんじゃないだろうな?」
「なっ!?」
ライルはスーツの袖から自らの右腕を露わにする。そこには小玲の額と同じく、蒼く鈍い光が滲む腕が現れた。
「すべては私が生命として新たなステージに立つための過程に過ぎない。」
フローロが振り下ろした刃は、ライルの腕に切り込みを入れることはなく、硬い金属音と共に通らなかった刃を弾いた。
「貴様らには、私の思想など、理解できんだろうさ!」
刃を退けた右腕はその形状を変化させ、幾何学的な図形を形成する。
図形は目まぐるしく姿を変え地面に投影されると、周囲に無造作に散らばっていた幾多の人形たちが接続部位を無視し歪に繋ぎ合わさっていく。
まるで蜘蛛のように、巨大な胴から幾多の足のように繋ぎ合わさった人形達が一つの意思をもってフローロを視界に捉える。
「遊びは終わりだ。これ以上手間をかけさせるなよ環境課ァッ!」
叫びと共に巨大な蜘蛛がフローロに飛び掛かった。

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