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クミン砂漠・ジョードプル

3月下旬、私はとにかく焦っていました。

その原因は2つ。1つ目は、インドのeビザが1年間で180日しか滞在できないというルールに変更されたこと。元々は延べ1年間まるっとインドに滞在し、スパイスの探求をする予定だったので、計画を変更せざるを得なくなったのです。

2つ目は、この旅で特にしっかりリサーチをしたかった、クミンシードの収穫のシーズンが終わりに近づいていたから。2月から3月にかけて収穫されると聞いていたので、前の旅先のアーンド・ラプラデーシュ州での予定を早めに切り上げて、一路ラジャスタン州ジョードプルへと向かいました。

スパイスに夢中な私を、観光気分にさせてしまうジョードプル。ゲストハウスのルーフトップから毎日この景色を拝んでました。もっとゆっくりしたかったぁ😭

夕方空港からオートでゲストハウスに向かい、荷物を降ろすなり近くのスパイスマーケットへと急ぎます。青い壁の家が立ち並ぶ旧市街地「ブルーシティー」で知られるジョードプル。シンボリックなクロックタワーの周辺は、スパイス以外に野菜やフルーツ、服や雑貨などのマーケットで日夜賑わっています。忙しそうな店員の顔色を伺いつつ、

「このクミンはどこの村で収穫されていますか?」

と、1軒ずつ訪ね歩きます。なかなかコレという情報に辿り着けずにいたら、スパイスショップが連なる通りの最後の一角にある、老舗のジテンダーさんが、とても丁寧にクミンに関する情報を教えてくれたのです。

「まず、ジーラ・マンディというマーケットに最初に行くといいよ。ラジャスタン中の農家がクミンを売りに来て、バイヤーが買い付けに来る。それから、CAZRIというリサーチセンターにも行ってみるといい。彼らはスパイスの研究もしているから。」

ジテンダーさんはこのスパイスショップの3代目。彼もスパイスの勉強をしていて独自で情報収集していました!少量の計り売りもしてくれて、ゲストハウスで料理をするときに助かりました🙏

週明け、早速ジーラ・マンディに向かっていると、それらしき建物の数十メートル先から、既にクミンの香りが。コの字に大きな屋根があるその敷地に、クミンの入った袋が山積みされたトラックが吸い込まれていきます。そのトラックを追うように入っていくと、砂山のようなものがいくつもありました。そう、それが全てクミンなのです。

夢中で写真を撮りながら、来ていたバイヤーや農家に話を聞きました。数人に声をかけましたが、彼らは口を揃えて、

「今年のクミンは異常に高い。特に、先週季節外れの雨がひどかったせいで、収穫に影響が出ているんだ。」

確かに、その前日夕方から深夜にかけて、長く激しい雨が続きました。ジョードプルの宿や周辺地域も数時間にわたり停電をしていましたが、その雨がクミンに大きな被害をもたらしているとは、その時には気がつきませんでした。

「クミンの収穫を見れないかもしれない。」

私は一層焦りました。

そこで、何より先に、まだ収穫が終わっていない農家を探すことにしました。農家は英語が話せない方が多いので、翻訳ツール片手にブースごとに訪ね歩きます。すると、コロナという村から来た白い伝統衣装を身に纏った男性たちが、まだ収穫中であることを教えてくれました。しかも一人は英語が少し話せる方だったので、連絡先を交換して、後日農園を見学させてもらうことにしました。

もはや砂にしか見えないジーラ・マンディのクミンの山。クオリティ別に山積みされています。
その名も「コロナ」という村からやってきた農家。まだ収穫が終わっていないエリアがあるというのだけれども、果たして間に合うか…!?

そんな始終を見て話しかけてくる男性が。その男性はソニーさんと言って、クミンの製造販売をしている企業の代表でした。私がクミンの生産から流通を学びに日本から来たと伝えると、とても喜んでこう言いました。

「我々はクミン最大の産地、ラジャスタンならではの、クミン専門のスパイスの製造販売業者なんだ。インド国内はもちろん、海外はバングラデシュやネパールに輸出している。そうだ、今日からちょうど「Rajasthan International Expo Jodhpur」というエキスポが開催されるのだけど、我々も出店していて、他にもスパイスのブースがあるから、行ってみるといい。」

「Rajasthan International Expo Jodhpur」の会場。

私はジーラ・マンディを後にして、そこから車で30分程のところにあるエキスポの会場へと向かいました。欧米をはじめ様々な国のバイヤーたちが集い、ラジャスタンの美しいテキスタイルや家具、そしてスパイスを品定めしています。スパイスのブースは数カ所あり、オーガニックをアピールするブランドや、産地らしくクミン推しのブランドも。その中に、ソニーさんの「Shree Shyam International」のブースもありました。

「これらは私たちのブランドのクミンで、グレード別になっています。ダイヤモンドが最上クオリティで、順番でいうと、ダイヤモンド>セブンスター>タカタク>アザードになります。」

数字の順にクオリティが高いそうです。写真で違いがわかるかなぁ…?

そう説明してくれたのは、なんとジーラ・マンディで会ったソニーさんの息子さんでした。そこで、それぞれのグレードのクミンの違いについて聞いてみると、

「一番の違いは大きさ、そして色です。黒ずんでいるものはグレードが下がります。また、油分があることも重要です。」

と説明してくれました。また、Shree Shyam Internationalは現在Tataグループにもクミンを卸しているほか、IPM(総合的病害虫管理)を行ったクミンを日本に輸出したいと考えていることも教えてくれたのです。

Tataグループにもクミンを卸しているというソニーさんの工場を見学させてもらえないか。図々しい私は、思い切ってお願いしてみました。そして、クミンの出荷で繁忙期を迎えているにも関わらず、特別に中を拝見させていただけることに。

Shree Shyam Internationalのブース。ソニーさんの息子さんは若手ながらも次期社長候補だけに知識も豊富な様子でした。

Shree Shyam Internationalの工場はジーラ・マンディからわずか10km程の距離にあり、量にして一日20トンものクミンを出荷しているそうです。買い付けで競り落とした段階でグレーディング(等級分け)は決まるので、グレードごとに分けて、大型の機械で2回クリーニングしていきます。この過程で軸の部分などのダスト、規格外の小さなクミンシードを、それぞれふるい分けます。

さらに工場の中では、砂山のようなクミンを、バケツでザクザク捌いていました。恐らく、脱穀などの加工の摩擦で茎の部分などがパウダー状になったものが紛れているのですが、この作業を通じてそのパウダーを取り除いているようでした。

クミンのクリーニングマシン。こちらは1回目の様子。
もう一度言いますが、砂ではなくクミンです。

日本で目にするクミンは、とてもきれいな状態で届くので想像もできないかもしれませんが、実際に目にしてみないと分からない、意外なプロセスがあるなと実感しました。

このようにして出荷状態になったクミンは、ダイアモンドのグレードで1kgあたり650ルピー(約1,040円)の値段が付きます。買い付けの段階では400ルピー(640円)程なので、粗利で考えてもかなりの金額の売り上げです。ただその合間に、機械への投資やかなりの手間がかかることも理解できました。

工場には、農家の人たちの休憩所も設置されていました。遠いところでは数百キロ先からトラックで納品に来るので、そうした農家への配慮がされています。また、IPMのクミンはジーラ・マンディでは取引されないので、そうした農家との連携も進んでいるようでした。

残念ながら、提携しているIPMの農家は全て収穫が終わってしまったそうで、見学をすることができませんでしたが、マーケットと加工プロセスを学ぶことができて、クミンの奥深さを改めて感じました。

果たして、無事クミンの収穫を体験することができるのか…?次回へと続きます!

パッケージングは手作業で女性が行っていました。
工場の責任者のマンガレーさん。ヒンドゥー語が喋れない私と根気よく会話してくださいました🙏


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