見出し画像

オーガニックスパイスは儲かる!?

3月のアーンドラ・プラデーシュ州は35度を超える日が続きます。私が滞在していたグントゥールという唐辛子の一大産地も、溶けるような暑さです。靴底が壊れてしまうのではないか?という程にアツアツのアスファルトの道を、地元の人たちはサンダルで日傘もささずに歩くのだから、感心してしまいます。

「今はまだ涼しい方で、5月になると45度になるの。」

そんな風に話してくれたのは、オーガニックショップのスタッフでした。

グントゥールのビドゥヤナガーという地区は、比較的富裕層が暮らすエリア。現地の人にとっては、東京でいう表参道みたいなイメージかもしれません。前回の記事で訪ねたITCのホテルがあるのも同エリア。そこにはオーガニック食材店がいくつかあり、野菜やフルーツ、穀物や豆に加えて、スパイスも取り扱っています。

お昼時になったので、「アタルルオーガニック」という、オーガニック食材店に併設されたお店でランチをすることに。すると、中は地元の人たちで満席でした。インドの人たちがオーガニックにここまで関心を持っているとは…。価格は普通のお店のミールスより10ルピー(16円)くらい割高かもしれませんが、どれも美味しく、使われている食材の種類の多さや、オーガニックであることを考えると、むしろ安く感じる程でした。

アタルルオーガニックのミールス。ダルの左のトーレンが美味しかったのですが、人気だったのか、これだけおかわりできませんでした。ブラウンライスも選べて嬉しい。

「グントゥールの都市近郊で育てている唐辛子のほとんどが、化学肥料や農薬を使用されている。」

そう聞いていたので、郊外のオーガニック農園に行ってみたいという想いが強くなってきました。

そこで最初に伺ったのは、グントゥールから車で1時間程度の郊外にある「ウナバ・ファーム」という農家さん。途中までバスで向かい、そこからオートで小さな村に向かうのですが、そのオートも滅多にいないほどの田舎にありました。ノンアポで伺ったにも関わらず、快く案内してくれたのは、オーナーのシッタヤさん。

現在2種類の唐辛子を育てているという彼は、父親のあとを継ぐ形で、4年前に農園を始めたそうです。まず最初に目に飛び込んできたのは牛舎。倉庫と住居の隣に、牛を飼っていました。日本と異なり、農家の人たちが牛を飼っている確率はかなり高く、オーガニック農園の人たちにとっては必須。ここでは牛糞と、EMとフードロスを使った液肥の2種類を使っています。近くには、収穫した唐辛子を乾燥させる場所もあり、最盛期を迎えて真っ赤に染まっていました。

EMとフードロスを使った液肥。思いのほか匂いは臭くありませんでした。
オーガニックで育てたグントゥールミルチ!(唐辛子のことを現地ではミルチといいます)

農園は上記の場所からバイクで2kmほど先にありました。途中からバイクで走る畦道もなくなり、コットン畑を横断。10名ほどが収穫作業をしている畑が見えると、目の前に透き通った綺麗な小川が流れていました。近くのダムから、飲めるほど綺麗な水が引かれていて、そのおかげでこの近辺では良い作物が育つのだとか。橋はないので、水に浸かりながら畑に向かいます。

インドの川はゴミや排水で汚染が激しいので、綺麗な川を見ると無条件に嬉しくなります。

畑の脇では小さな子どもたちが遊んでいて、これまでの唐辛子農園の様子とは違うように見えました。聞くと、労働者は隣のカルナータカ州から季節労働者として子どもたちと一緒にわざわざアーンドラプラデシュ州の農村まできているのだそうです。1日350ルピーというのは決して高額な給料ではないのですが、なぜ遥々ここまできているのか…。

さらに、これまで見た唐辛子農園と違う光景は他にもありました。唐辛子の間に、マリーゴールドや、他の植物が植っているのです。これは、トラップクロップスと言って、害虫対策のために植えているのだとか。シッタヤさんは現在、そうして育てられたオーガニック唐辛子を、ハイデラバードやバンガロールなどの取引先に卸しています。取引は市場を介さずに、直接メーカーにコンタクトしてサンプルを送り開拓したそうです。

マリーゴールドのほか、こんなトラップクロップスも。

シーズンには約100人の労働者を雇用して収穫をしているというシッタヤさん。敢えて、なぜオーガニックの唐辛子栽培を始めたのか聞いてみました。

「単純だよ、そのほうが利益が出るからさ。化学肥料や農薬を購入すると、シーズンで20ラークルピー(日本円で約32万円)がかかる。だからオーガニックにしたんだ。」

とシッタヤさん。収量が下がるから「オーガニックは儲からない」という話を所々で聞いていたので、目から鱗の回答でした。原油価格高騰や物価上昇によってランニングコストが上がっている中で、オーガニックの方が最終的に利益が出る、というのはとても良い事例だと思いました。

カルナータカ州から来ている労働者の人たち。オーナーに頼んで再訪問を試みましたが、結局彼らへのインタビューは叶わず…悔しいです。

続いて訪ねたのは、「アタルルオーガニック」の食材を生産していた、その名もアタルルという村。ここも車で1時間ほどの郊外にある小さな農村で、2018年からアタルルオーガニックは協会としてオーガニック農家との協働を始めました。

お話をしてくださったのは、協会の運営を仕切るアディナラヤナさん。コロナ禍の2021年までは規模は小さかったようですが、コロナが収束してから、多くの村の農家がオーガニックでの生産に取り組むようになったそうです。その理由は「良い価格で売れる」から。特に牛乳やカードといった乳製品が「健康にいいから」と人気が高まったのだとか。

そこから牛糞を使ってオーガニックの農作物を作るなど循環型の農業を増やしていきました。ここでもトラップクロップスを植えるなどをして、農薬を使わずに栽培をしています。10%〜20%の作物が虫に食べられるなどダメージを受けますが、この協会を通じてトラクターや耕運機の貸し出し、種やオーガニック農業のマニュアルなどのメリットを受けられることで、参画する農家が増えているそうです。

現在では近隣の他の村の農家も関心を持って、取り組みを始めていると語るアディナラヤナさん。さらにこの村で良い作物が育つ理由が、北を流れる「クリシュナ川」の恩恵であると語ってくれました。

施設には農家から運び込まれた農作物を選別・加工する場所がありました。そこで働く人たちはほぼ女性。単純作業をするだけでなく、加工品の生産管理などを行うリーダーも女性で、地域の女性の雇用を促進していました。

この日も地元の女性たちがせっせと野菜の出荷作業をしていました。

見学させてもらった加工の現場では、オーガニックの唐辛子を使ったアチャール(ピクルス)が何種類もありました。1ヶ月間熟成させ、瓶詰めされて店頭に並ぶほか、レストランでも使用されます。また、ピーナッツやゴマ、ブラッククミンシードなどの油も製造していて、その搾りかすは牛のエサとして余すところなく活用されます。

アチャールに使うグントゥールミルチ。辛そう…!

あいにく唐辛子の収穫は終わっていて、農園までは見学できませんでしたが、加工現場と取り組みを知ることができてラッキーでした。地元の人は施設に来て直接購入することもできて、この日来ていた若い女性が、ニンジンや豆などを購入していました。

「ここの野菜は美味しくてヘルシーで、うちからは少し遠いけどわざわざ買いに来るの。普通の野菜より5ルピー(8円)ほど高いくらいで、オーガニックの食材が手に入るんだから、助かるわ。」

と話してくれました。実際に私もグントゥールのお店でフルーツを買いましたが、予想外に手頃でびっくりしました。

“オーガニックの方が儲かる”

環境負荷云々を言って、オーガニック農家を増やすには限界がありますが、グントゥールで出会ったこの2つの事例が「儲かるならやってみよう」という農家が増える、ロールモデルになってくれたらと思います。

協会の運営を仕切るアディナラヤナさん。事業のポテンシャルを感じていて、規模の拡大を検討中だそう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?