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生きることの本質を問うファンタジー

私は、家族、他の方々へコロナを感染させたりすることがないように、今は外出はできるだけ避けており、家で過ごすことが多くなっています。

しかし、家にいてもやることはいっぱいあるのが実情です。

手が抜けるとこといえば、今の時期は、実験的に作っている私の畑は、虫は来ないし、雑草も生えて来ないし、だから、野菜の成長は生命力に賭けるだけで、追肥する以外は、ほぼ放置です。

後の空いた時間は、私は映画を観たり、本を読んだり、裁縫したりしながら過ごしています。

先日、スーザン・プライス(イギリス人)が著した「ゴーストソング」という本を読了しました。

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この本は、ゴーストシリーズというファンタジーが全3巻あるうちの、第2巻目です。

第1巻目は、「ゴーストドラム」といって、私が小学生のときに読みました。かつて、日本で出版されたのは、本書だけでした。

ものすごいファンタジーで、生きることの本質を問う、決して簡単には物事を解決させてはくれない内容でした。

私は幼いときから、テレビドラマや推理小説、ファンタジー、アニメ等についてとても疑問を感じていました。必ずどれにも、物語を盛り上げるために、世にいう悪人が出てきます。どう考えても、そんななまっちょろい出来事では改心しないはずなのに、手のひらを返したように改心して、ハッピーエンドを迎えます。そのことに、子どもながらものすごく違和感を感じていました。

その違和感を初めて打ち砕いてくれたのが、このゴーストシリーズの第1巻の「ゴーストドラム」だけでした。

悪人は決して改心することはないし、勇気ある賢いヒロインでも、その難局を自分の命を懸けてでも乗り切ることはできない、というファンタジーです。

主人公は、死んでしまう。なのに、後味が全く悪くない、という不思議な感覚を少女のときに味わいました。

このファンタジーがすごいのは、ストーリーだけではありません。ロシアを舞台にしたと思われる冷たい寒い情景が、ありありと目に浮かぶのです。それは、翻訳者である、金原瑞人さんによるものが大きいと思います。

金原瑞人さんの翻訳された作品は、多分ほとんどの方が一度は読まれたことがあると思います。例えば、私が読んだ中で好きなものを挙げると、ウエストールの「ブラッカムの爆撃機」とか、モームの「月と六ペンス」とかがあり、翻訳家として、日本で最も有名な方の一人です。

その金原瑞人さんが、長年、3冊まとめての出版を諦められることがなく、クラウドファンディングを通じて出版されたのが本書です。

私は、1巻で終わったのだと思ってただけに、とても興奮してしまいました。

1巻と2巻は、コインの表裏、陰と陽の関係です。どちらが良い、ということもありません。

ゴーストシリーズは、あの世とこの世の、永遠に終わることのない、物語です。そして、各人が生により経験してきたことがそれぞれ違い、その経験により人格、能力等の差があるということがよく分かります。

だから、悪人も、何回もの生の経験をとおしてではないと、改心しないのだろう、とこのファンタジーをとおして私は納得しました。

悪人と思う相手であっても、自分の成長と経験値の向上を切り開いてくれる、道具にすぎないのだと思いました。たとえ、この世の生で、結果が残せなくても、あの世に持って帰れる、経験が全てなんだろうと思います。

1巻目「ゴーストドラム」は、魔女(チンギス)が主人公で、母性的な愛や利他愛を軸としたストーリーです。その愛を持ち合わせて生まれたがゆえに、自身の生を失ってまでも突き進んで行く魔女の姿が描かれます。そして、この魔女は、弟子を迎えるにしても、その弟子の資質に頓着しません。ただ、大きな愛情のみで道を開きます。

2巻目「ゴーストソング」は、1巻目のチンギスの宿敵である魔法使い(クズマ)が主人公です。こちらは、男性的な愛で、家族を守るための愛や、属する集団への愛が描かれますが、それよりももっと小さな自己愛や、人への執着のようなものも描かれています。そして、物事への執着が不幸をどんどん伝播していきます。最終的に、それらに執着する自身が可愛いゆえの愛は、あらゆる道を狭めていきます。だからといって、物事を好転させるための最善の答えは全くどこにもなく、宿命でもあるかのように堕ちるとこまでめいいっぱい墜ちて、その結果の僅かばかりの気づきと遺されるものがあるのだと、このファンタジーは教えてくれます。

1巻目、2巻目、どちらも生を失います。でも、どちらの失い方が良いか悪いかは単純には測れません。チンギスにしても、クズマにしても魂(ゴースト)の成長の過程にあるからです。

ただ、私は、1巻目の主人公の魔女、チンギスのような生を選びたいし、チンギスのような愛を持てる経験を積んでいきたいと深く思います。

このゴーストシリーズは、世の中が大きく揺らいでいて、何が正しいか分からないときにこそ、読んで頂きたい、最高のファンタジーです。

また、3巻目も読了したら、併せて紹介させて頂きます。




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