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【第7回:上村松園】おしえてトーハク松嶋さん!

おしえて北斎!-THE ANIMATION-」は、絵師になることを夢見るダメダメ女子高生の前に、歴史上のスーパー絵師たちが次々と登場し、絵が巧くなるコツと夢を叶えるためのヒントを伝授していく、“日本美術”と“人生哲学”をゆるく楽しく学べるショートアニメーションです。

監督は、原作の著者にして生粋の日本美術マニアでもある”いわきりなおと”。そして、本作の日本美術監修をされたのが、東京国立博物館(トーハク)研究員の”松嶋雅人”さん。このお二人が、本作に登場するスーパー絵師たちについて語るロングインタビューを8回に分けてお届けします。

第7回目は、第7話に登場するスター絵師”上村松園”(1875年~1949年)。京都生まれ。明治後期から昭和初期に活躍した日本画家。幼い頃より才能を発揮し、京に天才少女ありと注目された。

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上村松園ここがすごい!
監督:「おしえて北斎!-THE ANIMATION-」に登場する有名絵師の中で、唯一の女性絵師が上村松園です。松園は、僕からみると厳しい人というイメージ。自宅の二階で絵を描いていて、自分の子供を仕事場へ決して上げなかったという逸話があります。第7話で、主人公の岡倉てんこりんではなく、ライバルとなる優等生の狩野カノンがスランプに陥った時に登場します。カノンは天才デッサン少女として注目され、めちゃくちゃ絵が上手いんですが、周りから上手いだけじゃないかと言われ、落ち込んでしまう。実は松園も、自分の作品について「綺麗なだけの絵じゃないか」みたいな事を言われたエピソードがあって、カノンの状況と重なる部分があったので、松園に登場してもらいました。テーマは「スランプの時ほど逃げてはいけない」という内容です。

松嶋さん:松園は情熱的な一面もあったと思いますが、「序の舞」という松園の絵画と同名の小説や映画のモデルにもなりました。当時、松園のような女性画家は極めて珍しく、スキャンダラスに取り上げられるような環境に身をおいていました。いわきりさんがおっしゃったように「厳しさ」というのは絵にも表れていて、当時の社会でいう良き女性、良き母親というイメージの美人画が大変多い。彼女の中で、女性をこう描かなくてはならない、女性はこうあるべきだという強い固定観念があって、その反面、理想と現実の間で感情のバランスがうまく取れずにいたのではないかと推測します。実際、官展に作品を発表していない時期があって、スランプに陥っていたという見方があります。その時期に発表した作品が「焔」です。「源氏物語」に登場する六条御息所の生霊を下敷きにしている作品で、松園自身、なぜ描いたか自分でも分からないと言っていますが、自分の内なる感情を絵にぶつけたように感じます。

焔


また、大正時代に、京都画壇(明治以降の京都美術界のこと)の男性の日本画家たちが、女性の内面を描こうとあえて醜悪な美人画を描き始めるのですが、それに影響を受けて、私でも描けるか?ということで「焔」を描いたとも考えられます。「焔」の他に、継体天皇に寵愛された女性が、別離の悲しみから狂ったように能を舞うという謡曲「花筐」をもとに描いた「花がたみ」という絵がありますが、それ以外のほとんどが清く、そして凛とした美しい女性を描いています。「焔」は上村松園の作品の中でも本当に異質な絵画なんです。ちなみに松園が描いた「序の舞」は重要文化財ですが、「焔」は未指定です。50年後、重要文化財、いや国宝になっているのではないでしょうか。

上村松園・裏話
松嶋さん:トーハクの本館で、16、17室と順番に回ってきて、18室という近代絵画の展示部屋に入った時、正面に「老猿」(高村光雲作)、ちょうど後ろに「焔」が展示してあることがあったんです。皆、何か感じるのか「え?」と振り向くんですね(笑)。見ていないのに何かを背後から感じて振り向く。オカルトじゃないけどそういうこともあるみたいですよ。

★第1回:尾形光琳はこちらから
★第2回:高橋由一はこちらから
★第3回:狩野永徳はこちらから
★第4回:白隠慧鶴はこちらから
★第5回:歌川国芳はこちらから
★第6回:岸田劉生はこちらから

最終回となる次回、第8回は4月23日(金)更新予定です。

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