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【第4回:白隠慧鶴】おしえてトーハク松嶋さん!

おしえて北斎!-THE ANIMATION-」は、絵師になることを夢見るダメダメ女子高生の前に、歴史上のスーパー絵師たちが次々と登場し、絵が巧くなるコツと夢を叶えるためのヒントを伝授していく、“日本美術”と“人生哲学”をゆるく楽しく学べるショートアニメーションです。

監督は、原作の著者にして生粋の日本美術マニアでもある”いわきりなおと”。そして、本作の日本美術監修をされたのが、東京国立博物館(トーハク)研究員の”松嶋雅人”さん。このお二人が、本作に登場するスーパー絵師たちについて語るロングインタビューを8回に分けてお届けします。

第4回目は、第4話に登場するスター絵師”白隠慧鶴”(1686年~1769年)。江戸中期の禅僧で、禅の教えを表した絵を数多く描いたことで知られる。

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白隠ココがすごい!
監督:「なんかいいを大切に」がテーマでした。デッサンやパース(遠近法)が上手く描けているものが良い絵とされがちですけど、面白い絵を描いている人もいるんですよ、ということで白隠さんに登場していただきました。彼の魅力は、勢いで描いてるというか…素人絵風の面白さでしょうか。絵は習ってないようですけど、書道はやっていたと思います。

松嶋さん:「達磨図」など白隠の絵には強烈なインパクトがあります。上手いか下手かというよりは、何これ?的な印象を受けますよね。それこそ、第2話で登場した高橋由一作「豆腐」をいきなり見せられると、えっと思うじゃないですか。伊藤若冲の「仔犬に箒図」も同じようなインパクトがあります。
いわきりさんがおっしゃったような、目で見えるものを写実的に描くのは西洋絵画の技法でありますが、日本人も、写実的な技法についてある程度の知識があれば、絵が上手いかどうかの判断ができます。逆にそれがないと、絵画の良し悪しの基準がわからず、絵画を鑑賞するのはしんどいと感じてしまいます。でもそれは前提が間違っていて、日本絵画はもともとリアリズムや写実ではなく、違う次元から発展してきた絵画形態です。そのために、白隠の絵も鑑賞に慣れてしまえば、その面白さに気づくはずです。

達磨大師図RR

白隠は、日本各地を回って布教活動していた江戸時代の禅宗(臨済宗)のお坊さんです。鎌倉時代、臨済宗は凄まじい権力を持っていたのですが、江戸時代になると政治から切り離されてその力は弱まるんですね。そんな中で、白隠は臨済宗の中興の祖と称されています。
禅僧の絵師では、白隠のほかに仙厓が有名ですが、彼らが絵を描く目的は布教です。仏教の真髄というのは言葉では説明できないので、絵という手段を取って「禅の精神」を伝えようとしています。そのために、表現自体が、物体の形ではなく、精神性を伝えるという方法になる。だからとても深いんです。白隠は絵でもって「禅の精神」を伝えることを優先しているので、狩野永徳らがやってきたような正式な枠組みを逸脱し、その枠組みの外からものをみるというアプローチをとっています。それって、実はすごく高度な精神性を表現しているんですね。脱構築しているといっても良いかもしれません。修行して訓練して何かを得るというのではなく、枠の外から何かをつかむという思いもよらぬ方法論を示しています。

ちなみに、白隠の絵は、布教のためにやっているので、売物ではないんです。タダであげるんですね。もちろんその時、お布施はお渡しすると思いますが、、もらった人はありがたやと保管していたそうです。

Q.なぜ、アニメでは白隠をテレビプロデューサー風に?
監督:原作では、何かを伝えるという意を込めてラッパーの姿にしていました。袈裟は着ていますけど、テレビプロデューサーにしたのは見た目の面白さを狙いました。本人がアニメのようにチャラくて軽い人だったかはわからないですが、面白いお坊さんだったとは思います。ちなみに3話に登場する狩野永徳はゼネコンの社長だからスーツです。

【白隠・裏話】
監督:白隠や狩野永徳らの絵師たちは、格としてはお坊さん扱いになるんですよね?

松嶋さん:絵師や芸能人はこの時代だと通常の人ではなくなるんですね。階級で身分が決まるので、そこから逸脱するとはぐれ者になり、人と相手ができなくなってしまう。でも、お坊さんは埒外の人になるのでどこでも行ける。将軍や天皇にも会える。だから絵師はお坊さんになるんです。社会的な枠組みの中で芸能を持った人は、そういう扱いにしないと高貴な人の前に出れないんです。絵画にも登場しますが、本来埒外の人は高貴な人の横に立っていたりする。白隠はちゃんとしたお坊さんです。

★第1回:尾形光琳はこちらから
★第2回:高橋由一はこちらから
★第3回:狩野永徳はこちらから

次回、第5回は4月2日(金)更新予定です。


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