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【第6回:岸田劉生】おしえてトーハク松嶋さん!

おしえて北斎!-THE ANIMATION-」は、絵師になることを夢見るダメダメ女子高生の前に、歴史上のスーパー絵師たちが次々と登場し、絵が巧くなるコツと夢を叶えるためのヒントを伝授していく、“日本美術”と“人生哲学”をゆるく楽しく学べるショートアニメーションです。

監督は、原作の著者にして生粋の日本美術マニアでもある”いわきりなおと”。そして、本作の日本美術監修をされたのが、東京国立博物館(トーハク)研究員の”松嶋雅人”さん。このお二人が、本作に登場するスーパー絵師たちについて語るロングインタビューを8回に分けてお届けします。

第6回目は、第6話に登場するスター絵師”岸田劉生”(1891年~1929年)。大正から昭和初期に活躍した洋画家。わが子をモデルにした麗子像シリーズが有名。

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岸田劉生ここがすごい!
監督:「内なる美」がテーマ。見たままを描いている絵が必ずしも良い絵ではないというのを明確に提示しているのが岸田劉生です。でも実は彼、見たままを描ける人なんですよ。めちゃくちゃ絵が上手くて、写実力があると思います。そんな劉生が愛娘を描いた「麗子像」は不気味で怖い。この絵の本質は、見たままを描くより、内面から溢れる美を描くということなんです。ちなみにアニメのデザインは麗子ちゃん好きをアピールした法被を着ていて、アイドルオタクのイメージになっていますね。顔つきは本人に似せています。

松嶋さん:劉生が当初描いた絵は、見たままを再現できた高橋由一的な絵だといえます。それがなぜ「麗子像」のようなスタイルに変容をしたかには理由があります。まず、劉生はヨーロッパ留学をせずに、印刷物である図版でアルブレヒト・デューラー作品やレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」を見て勉強して、西洋の人物画の表現を取り入れています。そして、ちょっと怖かったり醜かったりするのは、京都画壇(明治以降の京都美術界のこと)の影響だと思います。当時の女性像とは、美しくやわらかに優しく可愛く描くもの。それは西洋も一緒で、男性が望む理想像だったんですが、大正期の京都ではその真逆で、一見、醜悪な絵がいっぱい出てきます。近代画家たちが舞妓さんを描くときに、あえて不気味なように描くんです。劉生はそれらを「デロリ」という言葉で表現し、本人も「デロリ」とした絵に惹かれていくという流れです。そこに内面の精神性を見たのかもしれません。
麗子さんは、写真で見るともちろん不気味ではないのですが、あれだけのバリエーションを描いているのは色々試しているということか、あるいはその日その日に麗子さんを見て感じたことを表現しているのかもしれないですね。

麗子微笑


劉生は時代的に、高橋由一、黒田清輝の後の人。先輩らは一生懸命技術を習得し、その技術を縦横無尽に使える方法論を使うことが大事だったのですが、次代の人たちは学ぶことですぐ乗り越えられるものなので、次は何かを表現するという「中身」の表現の段階になるんです。その次の世代として登場したのが劉生です。どの分野でもそうですが、明治に西洋の文明が入ってきた時は、まずそれを取り入れて、次の時代(大正期)に花開くという流れがあると思います。政治的な変化もあって自由な気質が大正期にどの分野にも現れる。大正は今以上に自由だった面もあったと思います。

岸田劉生・裏話
監督:岸田劉生はめちゃくちゃ影響を受けやすい人かなと思います。時代によって絵がどんどん変わる。
松嶋さん:だからすごいビビッドさがあって、すごく感情が高まっちゃうんですよね。
監督:若い時は、日本美術・絵画にあまり興味を持たなかったようですが、最後そっちに戻って行く。浮世絵もマニアになるくらいになって、専門書も書くようになりますからね。
松嶋さん:劉生は感性の塊だったのかもしれないですね。表現する人は、自分の頭の中にあるものがそのままアウトプットできているかどうか、また自分では出せていると思っても周りが理解しているかどうか、という「内と外のバランス」がどうしても齟齬が生じやすいのです。一致するのってなかなか難しいんですよ。「俺にとっては完璧な作品だ!」と思っていても、周りが同じ思いかはわからないですからね。
監督:ちなみに、麗子さんも絵を描きますし、麗子さんの娘さんも絵を描いていたようですね。
松嶋さん:劉生の感性が、代々受け継がれていったのかも知れませんね。

★第1回:尾形光琳はこちらから
★第2回:高橋由一はこちらから
★第3回:狩野永徳はこちらから
★第4回:白隠慧鶴はこちらから
★第5回:歌川国芳はこちらから

次回、第7回は4月16日(金)更新予定です。

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