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#001 ハワイイで見つけたアジアっぽい書体について調べてみる

一つではほとんど気にならない。二つ目で少しひっかかる。でそれが三つ以上重なってくると、いよいよ無視できなくなる。
そういう観察案件が、これらの書体でした。
何年かに亘って撮りためた写真の中からピックアップします。

オアフ島ワイパフのフィリピン系スーパーマーケット(2023)
これまたワイパフ(2022)
ホノルルのチャイナタウンの Wo Fat ビルディング(2019)

共通するのは、くさび形の要素を用いてデザインされたアルファベットで、一見して漢字やアジアっぽさを想起させる点。
きちんと調べてみると、興味深いことが分かってきます。
ちなみに参考にしたのは、下記の二つの文献。

まず、ラテンアルファベットでありながら「こういう雰囲気」を装ったスタイルは、1800年代の終わり頃にその源流が認められるようです。

この時期、日本の開国とともに日本の文化、特に浮世絵や工芸品がヨーロッパの人々の注目を集め、ジャポニズムと呼ばれる日本文化趣味が広がりました。
その中で、「日本的な要素を類型的に用いた」もの、例えばフジヤマ・ゲイシャ式の表現が好まれ、それを強化するものとしてこのような書体もまた生み出され、それらは新奇なものとして、商業ポスターなどに使用されました。

いわゆるオリエンタリズムが欧米世界で流行する中、1883年にはアメリカの活字鋳造所が、この種の商業フォントをパテント登録しています。
それは「マンダリン(Mandarin)」と名付けられ、マンダリンが英語で「中国語の標準語」を指すワードであることから、以降、主に中国のイメージと一体化する形で認識されてきたようです。
とはいえ、中国も日本もそれほど明確に意識的な区別などはなく、なんとなくアジアっぽいものとして一緒くたにされていたのだろう・・・とは思いますが。

それから現在まで、マンダリンから派生した様々なバリエーションのフォントが作成されてきている中、それらをひとまとめに包含する代名詞的なものが、「チャプスイ(chop suey)」フォントです。
先に挙げた写真も、個別にはそれぞれ同一のフォントではありませんが、全体としてはそのようにカテゴライズすることができるのでしょう。

ちなみにチャプスイとは Wikipediaによりますと

モツまたは豚肉や鶏肉、タマネギ、シイタケ、モヤシなどを炒めてスープを加え煮た後に水溶き片栗粉でとろみをつけ、主菜としてそのままあるいは白飯や中華麺に掛けて食す

Wikiprdia

とのことで、アメリカ式中華料理の一種にして、その代表たる位置付けのものです。アメリカの映画とかドラマとかに出てくるあのテイクアウトのパッケージに入っているのがさしずめチャプスイ、だったりするんでしょうね。

という知識を得たうえで、往年のWo Fatビルディングの写真を改めて見直してみると、まさにチャプスイの文字が大書きされているじゃありませんか。

こうして私たちが目にするチャプスイフォントですが、アジア系アメリカ人の中には、好ましさを覚える人もいる一方、侮辱的、または人種差別的であると感じる人もいることは知っておきたい点です。実際、チャプスイフォントは過去にこのような場面とセットで使われてきています。

・1876年 白人が中国系移民排斥運動に使用
・19〜20世紀 黄禍論プロパガンダや大日本帝国バッシングで多用
・1980年代 日本企業排斥運動・日本人差別で多用
・2018年 韓国系アメリカ人議員を侮辱するビラで使用
・2020年 カナダのデザイナーが中国ヘイトに使用

@moa810氏によるX投稿

本件は「書体」という切り口で報告していますが、何であれ異文化に憧れを感じ、インスパイアされることそれ自体は決して悪いことではないものの、その雑な類型性に無自覚に乗ってしまうことは、それが抱え込んだ差別的な視点の再生産や強化に繋がってしまう場合もありますね。

異文化への接し方として、つとめて自覚的でありたいですし、こうして観察者の視点を持ち続けることが、その一助になるのかなと思う次第です。

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