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アメリカで活躍する博士人材⑥金城 智章さん Tomoaki KINJO, MD. Ph.D.

右から2番目が金城さん

略歴

2020年– ノースカロライナ大学チャペルヒル校 生化学・生物物理学部 博士研究員
2016–2020年 京都大学大学院・医学研究科 画像診断学・核医学/病態生物医学 博士課程
2014–2016年 大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院 放射線診断科
2012–2014年 京都大学医学部付属病院 初期臨床研修医
2006–2012年 金沢大学 医学部

留学準備

1.  米国での研究留学を志望した理由をお聞かせください。
自分にとって魅力的な研究は米国発のものが多かったので、いつかは米国に留学して研究したいと漠然と思っていました。実際に留学先を探す際には米国以外も検討しましたが、結果的に行きたい研究室は米国の研究室でした。

2.    米国での研究留学を考えた時、懸念点はありましたか?
英語は大丈夫か、留学すると帰国後に日本で職が見つからないのではないか、といった懸念はありました。実際に留学してみると、英語については最低限の準備をしていればなんとかなるように思います。
留学後の職探しについては未経験のため伝聞になりますが、しっかりした業績を出していれば日本国内のポストは以前より探しやすくなっていると聞きます。ただし、帰国後すぐにPIポジションを得る人は限られる印象です。留学後に日本のアカデミアに戻る予定の方は、日本の指導教官や学会との繋がりはできる限り維持しておいたほうがよいかと思います。米国のアカデミアのPIポジションについても近年競争は激化しており、相当な業績・コネ・運が必要になるようです。
日本企業への就職についてはあまり状況を把握できておりませんが、米国の製薬やバイオテック関連企業に関しては、データサイエンス寄りの領域であれば、ポスドク後もかなりの求人がある印象です。近年のバイオ系領域では、mRNAワクチンやタンパク質構造予測ソフト「AlphaFold」など、企業主導の革新的研究も増加の一途をたどっており、自分のやりたい研究がアカデミアでしかできないものでなければ、企業での就職も良い選択肢になるのではないかと思います。

3.    米国留学以外の選択肢はありましたか? その場合、選択肢はどのようなものがありましたか。
海外留学以外は考えていませんでした。興味ある研究室があれば米国以外の選択肢もありえました。

4.    いつ頃から留学の準備を開始し、どのようなアクションを取りましたか?
現在所属している研究室には、博士課程の4年次(医学系のため4年制)の6月頃にコンタクトを開始しました。求人情報などは確認せず、研究内容から行きたい研究室を3つほどに絞り、「今度米国の学会に参加する予定があるので、その前後でジョブインタビューをお願いしたい」との旨のメールを、CVや興味ある研究内容と一緒に送りました(参考1–7)。メールを送っても数週間返事が来ず、指導教官 (留学先PIとは面識なし) にお願いしてアプライ先にコンタクトを取ってもらったらすぐ返事が来たケースもありました。毎日大量のアプリケーションが来る研究室も多いので、しばらく経っても返事が来ないときはリマインドしてもよいと思います。幸い2か所の研究室から返事を頂き、学会前後にインタビューに伺いました。そのうち一つの研究室からオファーを頂き、その研究室に行くことを決めました。

幸い行きたい研究室からオファーを頂けたものの、留学後に色んな人の話を聞き今にして思うと、応募時には(参考7)にあるような、2ページくらいの簡易研究計画書のようなものを作っておくべきでした。時間と手間がかかるので毎回作るのは難しいかもしれませんが、どうしても行きたい研究室がある場合には、計画書を添えてメールを送ると返事をもらいやすくなるかもしれません。最近ではDeepL、Grammarly、Wordtuneなど支援ソフトも充実しているので、上手く使えば準備の時間を大分短縮できるのではないかと思います。

また、応募時期に関しても、4年次(3年制博士課程なら3年次)の6月だと海外学振などのフェローシップの出願に間に合わないので、もっと早く探し始めたほうがよいかと思います。論文がないと就活がしにくいジレンマもありますが、行きたい研究室が決まっている場合は、論文投稿前後くらいから動いたほうがいいと思います。指導教官と相談して原稿をPIに送ったり、bioRxivに投稿することもできますし、仮に断られても論文が受理されたらまたアプライすればよいかと思います。

フェローシップは海外のものも含めて出来る限り出したほうがよいと思います。獲得できた際の金銭・業績的なメリットはもちろん、留学前からPIと研究について詳細な議論ができ、書類添削をしてもらえるだけでも、かけた時間に見合うリターンは得られると思います。そもそもフェローシップが採用の前提になる研究室もあります。博士取得後の年数制限が厳しいものもあるので、応募時期や条件を早めに確認することをお勧めします(参考8–12)。

5.    準備を始めてからオファーを受け取るまでにかかった期間はどれ位でしたか? また、その研究室を選んだ理由はなんですか。
現在所属している研究室にメールしてからオファーを受け取るまでは二か月でした。ただ、その約1年前、興味のある別の先生が日本に来た際に留学の打診をしたことがあり、CV等の書類は一通り作成していました。
研究室を選んだ理由としては、先輩方の体験談なども参考に、以下を重視しました。
①    自分のやりたい研究ができるか・学びたい技術を学べる研究室か?
大学院までは分子・細胞生物学、顕微鏡学、核医学など、様々な形で癌を理解するための研究をしてきましたが、がん治療薬を作りたいという思いもあり、近年発展が著しいタンパク質の計算機設計の分野に興味を持ちました。当時の指導教官が領域横断的な研究で道を開いていたこともあり、大学院修了後は研究分野を変えることにしました。分野変更はリスクもありますが、新しい分野に移ることで得られるものはとても多いと感じています。
②    その分野で独自の技術を持ち、影響力と潤沢な研究費がある研究室か?
自分が将来やりたい研究に役立つ独自技術を持ち、その分野で面白くて質の高い論文を多数輩出している研究室を探しました。ただ、過去10年分くらいの論文を調べて方向性が分かったつもりでも、現在は方針が大きく変わっていることも多いので、インタビューの際にPIに確認することをお勧めします。
また、近年のバイオ研究はお金がかかりますので、潤沢なグラントも一つの基準としました。ポスドクは研究室の財政によって雇用が左右されますし、研究費があれば時間を大幅に節約できる状況も多々ありますので、ある程度の研究費をコンスタントに獲得しているというのは重要な判断材料かと思います。米国のバイオ系研究室であれば、NIH、NSF、DoD、HHMIなどからグラントをもらっていることが多いかと思いますので、機関のウェブサイト(参考13–16)などで調べれば大まかな予算規模などはわかるかと思います。
③    PIの指導方針、人柄、自分との相性など
PIの指導方針 (放置系か管理型か、など) や人柄も重要な要素だと思います。幸い私自身は寛大なボスに恵まれましたが、そうでないケースを耳にすることもありますので、できる限りの情報収集をしたほうがよいと思います。PI本人と話してもわからないことも多いので、下記など比較的客観的な情報から判断するのがよいかと思います。
・  過去の論文の量や内容が在籍人数に対して妥当か、co-firstが多すぎないかを確認する。
・  過去の在籍メンバーが筆頭で論文を出しているか、進路が自分の目標と近いかを確認する。
・  過去に在籍した日本人がいるか確認する。いれば、面識がなくてもメールで色々尋ねる。
・  全体カンファレンスや、大学院生/ポスドクの個別ミーティングの頻度を確認する。
・  インタビューの際にラボメンバーにPIの指導方針や人柄などを(オブラートに)聞く。
・  現在ラボで進行中のテーマの内容や、自分がやりたい研究をさせてもらえるかをPIに確認する。
・  ラボに所属するポスドクの大半が、大学に正式に雇用されているポジションかどうかを確認する。
・  ポスドクがフェローシップに応募することに問題はないかを確認する(たまにダメなラボがある)。
また、大御所のラボか若手のラボかの議論はよく耳にするので個人的にも悩みましたが、結局はPIの方針に大きく依存するため、結論としてはどちらが良いかよく分かりません。人づての話などから思う個人的な印象としては、大御所のラボのほうが、最悪PIと相性が合わなくてもなんとかなる確率が高いような気がしています。現在所属している研究室のPIの年齢はちょうど50代に入ったくらいですが、既に研究者として確立しつつも新しい方向性を模索しており、大御所と若手のいいところを合わせた感じのよい環境だと思っています。

6.    留学先を探す際に参考にした情報はなんですか?
論文を見て自分の興味のある分野の研究室を探しました。留学経験のある指導教員・先輩等への相談、書籍やウェブサイトでの情報収集もしました。幸い希望のラボからオファーをいただけたのでポスドク求人情報などは確認しませんでしたが、候補の研究室に断られた場合はポスドク求人情報(参考17–21)や、指導教官の知り合いの研究室などから候補を探す予定でいました。参考になったサイト等は文末にまとめて記載しています。

7.    情報収集する際、費用はかかりましたか?
本を数冊買った程度で費用はあまりかかっていません。下記などは参考になるかと思います。
・        研究留学のすゝめ! [LINK]
・        できる研究者になるための留学術 アメリカ大学院留学のススメ [LINK]

8.    就職活動の際に苦労したことはなんですか?
CV等の書類を揃えるのが意外に大変でした。また、メールを送っても返信が来なかったりして、なかなか予定通り進まないので、余裕をもって就職活動を始めたほうがよいと思います。

9.    渡米前に想像していたことと違ったことはなんですか?
COVID-19の影響でオンサイトの学会にまだ参加できていないので、せっかく米国に来ても研究室内や周辺研究室以外で人と関わることがなく、ネットワークが広がりにくいのは少し残念です。

米国の研究環境

10.    現在の仕事はどんな内容ですか?
博士研究員としてタンパク質計算機設計の研究をしています。主に抗体やT細胞受容体などの医療応用を目指しています。いわゆるドライとウェットの比率が3:7くらいだと思います。

11.    日米における研究環境の違いはなんですか?
分野に大きく依存すると思うので一概には言えませんが、現在私がいる分野では、組織をまたいでのソフトウェアの共同開発、slackでの情報交換、初学者向け講習会、学生向けのインターンや金銭的支援などが積極的に行われており、このようなコミュニティは日本では少ないように思います。アカデミアとインダストリーの垣根もかなり低いと感じます。
各研究室で使用できる機器などは日本の研究室とあまり変わらない印象ですが、こちらもかなり研究室に依存すると思います。一方で、大学のコアファシリティは日本に比べてかなり充実しており、専門外の実験でもコアファシリティの方の指導のもと習得できるのはとてもよいと思います。また、米国が本社のバイオテクノロジー企業が多いためか、試薬や合成DNA等が届く速度は日本よりかなり速く、研究のスピードが底上げされているように思います。

12.    米国に来て良かったことはなんですか?
現在の研究室に来なければ習得出来なかった新しい技術を習得でき、自分の発案した研究をさせてくれているのは大変ありがたく思っています。ただこれは米国というよりはPIの性格によるものだと思います。また、分野にもよるとは思いますが、ポスドク後にアカデミアだけでなく企業に就職する選択肢も増えるのは、精神安定上よいと思います。また、英語は研究や生活を通じて多少は上手くなりますが、本当に英語を上達させたければ、普段から積極的に色んな人に話しかけ、動画やオンライン英会話などを使った自主学習も淡々と続ける必要があるように思います。

13.    米国に来て後悔したこと、苦い経験などはありますか?
今のところ特に苦い経験はありません。しいて言えば外食が高いので、もともと自炊頻度が少なくエンゲル係数の高い自分には時々つらいものがあります。ノースカロライナは物価が比較的安いですが、ニューヨークやカリフォルニアなどの大都市圏だと、生活費が高くて大変という話も聞きます。

14.    将来のキャリアパスの目標はなんですか?
がん治療薬を開発することが目標です。基本的にはアカデミアで研究したいと思っていますが、自分のサイエンスにとって良い環境なら企業に行く選択肢も考えるかと思います。下記などは参考になるかと思います(参考22–24)。

これから米国を目指す若手博士人材へ

15.    これから米国を目指す若手博士人材へのアドバイスなどはありますか?
先達の先生方の努力のおかげで今は日本でも最先端の研究ができますし、オンラインで海外の大学講義も簡単に受けることができる時代ですので、正直なところ昔と比べて留学の意義は薄れているように感じます。また、COVID-19のパンデミック、米国の物価上昇、各々の家庭の事情などを鑑みた場合に、留学がすべての人にとってよい選択肢になるわけではないかと思います。
一方で、自分がやりたい研究・仕事を探すにあたって、世界に目を向けると日本国内だけで考えるより圧倒的に多くの選択肢がありますし、今後日本においても益々国際的な研究・仕事が重視される時代になるであろうことを考えると、長い人生のうちで一時期でも海外で過ごすことはよい経験になるかと思っています。
 
最後に、ここまで個人的な内容を書き連ねましたが、留学する理由は研究や仕事に限らず、外国の文化に触れてみたいとか、住みたい街があるとか、正直何でもよいかと思います。各々目的に応じて必要な準備が異なると思いますので、いずれにせよ、自分はなぜ留学したいかをはっきりさせ、後悔のないようしっかり情報収集をして決めることが、充実した留学生活を送るための第一歩ではないかと思います。私の経験談が留学を考える方への一助になれば幸いです。

(参考)
研究留学のポータルサイト
1.    一般社団法人 海外日本人研究者ネットワーク [LINK]
 
CV・カバーレター関連
2.    NIH GRANTS & FUNDING [LINK]
(ex. Postdoctoral Fellowship biosketch sample)
3.    NIH Office of Intramural Training & Education [LINK]
4.    ULTRABEM [LINK]
5.    生命科学をハックする [LINK]
6.    基礎研究者のブログ [LINK]
7.    The Secret to Getting the Postdoc You Want [LINK]
 
留学フェローシップに関する情報
8.    UJA海外留学支援制度データベース[LINK]
9.    ケイロン・イニシアチブ [LINK]
10. Luck Is What Happens When Preparation Meets Opportunity (fellowship関連) [LINK]
11. Weill Cornell Medicine Postdoctoral Affairs [LINK]
12. ECR central [LINK]
 
米国の研究費獲得状況に関する情報
13. NIH reporter [LINK]
14. NSF Awards Simple Search [LINK]
15. DoD Grant Awards [LINK]
16. HHMI [LINK]
 
ポスドク求人など
17. Nature Careers [LINK]
18. Science Careers [LINK]
19. Postdoc Jobs [LINK]
20. jobRxiv [LINK]
21. Twitter [LINK]
 
ポスドク後の進路に関して
22. Making the Right Moves (HHMI) [LINK]
23. Luck Is What Happens When Preparation Meets Opportunity [LINK]
24. Kei Igarashi Lab@UC Irvine [LINK]

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