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アメリカで活躍する博士人材⑤清水 鈴菜さん Rena SHIMIZU, Ph.D.

略歴

2019年- K-I CHEMICAL U.S.A.Inc., Registration Manager
2017-2019年 Technology Partnership of Nagoya University, Senior Associate
2016-2017年 CALPIS AMERICA Inc. R&D Project Manager
2014-2015年 InstantLabs, R&D Scientist
2003-2011年 Cornell University, Department of Plant Biology, Postdoctoral Fellow
2002-2003年 University of Kentucky, College of Agriculture, Postdoctoral Fellow
1999-2001年 University of Oregon, Department of Botany (博士課程在籍中)
1999-2002年 岡山大学 農学研究科 博士課程
1997-1999年 岡山大学 農学研究科 修士課程
1993-1997年 岡山大学 農学部

留学準備

1.    米国での研究留学(就職)を志望した理由をお聞かせください。
学部生の時に一ヶ月ほどオーストラリアに短期語学留学をしたことがありました。また、バックパッカーとして海外を旅行することが好きでした。そんななか将来はアメリカで研究をしてみたいという思いが芽生え、海外留学を志すようになりました。また、研究だけでなく英語力も上げたいという思いがありました。
実際に留学してからは研究も生活も楽しかったので、その後もアメリカに残ることを希望しました。それ以降、アメリカに残るにはどうしたらいいかを考えるようになり、色んな人に相談しました。ただ、アカデミアに残りたいとかは考えていませんでした。

2.     米国での研究留学(就職)を考えた時、懸念点はありましたか?
短期留学を経験していたものの、自分の英語力には自信がありませんでした。オレゴンに着いた際、受け入れ先の先生が空港まで迎えに来てくださったのですが、先生の喋っていることが全く分からず、不安になりました。その先生とは学会などでお話をする機会はあったのですが、いざ日常会話となると全く聞き取れず、最初はとても苦労しました。しかし半年も経つと次第に英語にも慣れてきて、先生の話していることが理解できるようになりました。周りにいた友達が私の英語の勉強を助けてくれたことが英語の上達に役立ちました。

3.     米国留学以外の選択肢はありましたか? その場合、選択肢はどのようなものがありましたか。
実は、当初は博士課程に進学することは考えておらず、修士課程を終えたら日本の民間企業に就職するつもりでいました。しかし、指導教官に海外留学のことを相談してから半年後にはオファーを頂いたので、海外留学をすることに決めました。

4.     いつ頃から留学の準備を開始し、またどのようなアクションを取りましたか?
岡山大学の博士課程に進学した直後、指導教官に相談しました。その先生は過去にUniversity of Californiaに留学経験があり、色々相談に乗っていただきました。その先生の知り合いがUniversity of Oregonにいるということでその研究室を受け入れ先として紹介していただきました。
University of Oregonには二年間在籍し、その後岡山大学に戻ってからはオレゴンでの研究成果を論文にする作業をしました。次の進路を考えた時、やはりもう一度アメリカに戻りたいと思いました。そこでCornell Universityに受け入れの了解を頂いた上で学術振興会の海外特別研究員に応募しました。その一方で他のポスドクのポジションも探していて、某科学雑誌の求人欄を見て興味のあるラボに応募しました。University of Kentuckyから返事がありったのですが、ジョブインタビューなどはせず、メールのやりとりだけでオファーをもらうことができました。それが12月末のことだったのですが、学振の結果がまだ出ていなかったため、University of Kentuckyに留学することにしました。
University of Kentuckyに来てから学術振興会の海外特別研究員に通ったとの知らせを受けました。失効まで1年間の猶予期間があったので、University of Kentuckyでの契約更新が切れるタイミングで、海外特別研究員として受け入れの了解を頂いていたCornell Universityに移りました。

5.     準備を始めてからオファーを受け取るまでにかかった期間はどれ位でしたか? また、その研究室を選んだ理由はなんですか。
University of Oregonへの留学は、指導教官に海外留学のことを相談してから半年後にはオファーを頂きました。そのラボを選んだ理由は、留学先が指導教官の知り合いであるということ以外、特別な理由はありませんでした。
ポスドクの留学先はポジションを探し始めてから3ヶ月程で決まりましたが、そのラボを選んだ理由としては、そのラボが興味のある研究をやっていたこと、潤沢なグラントを持っていたこと、企業とのコラボレーションを積極的に行っていたことなどが挙げられます。民間企業もいくつか経験しましたが、いずれもリクルーターからの紹介でした。

6.    留学先を探す際に参考にした情報はなんですか?
指導教官に相談したくらいで、その他の情報収集はほとんどしていません。

7.    情報収集する際、費用はかかりましたか?
特にかかりませんでした。

8.     就職活動の際に苦労したことはなんですか? 
University of Oregonでの2年間の留学を終えて日本に戻ってきた時、留学を後押ししてくださった先生がご病気であったため、次の留学を相談する人がいなかったことです。
また、Cornell Universityに在籍中に民間企業への就職活動を開始し、業界のネットワーキングイベントに積極的に参加しましたが、民間企業の採用担当者がポスドクの採用に積極的でなかったこと、また特に農業系の研究者に対してはその傾向が強かったことです。そういった現実を目にしたことで、自分のこれまでやってきた研究が社会的に認められていないことを実感し、自分の研究の将来性や社会貢献度が低いことに落胆しました。また、周りにアカデミアから民間企業への転職について相談できる人がいなかったことも就職活動を厳しくさせた要因の一つだと思います。
また、就職活動をするなかで米国籍でないことが不利に働くという経験から、現在は米国籍を取得しています。

9.    渡米前に想像していたことと違ったことはなんですか?
アメリカでのアカデミアの世界はやはり厳しく、ポスドクを何年続けても精神的に楽になることがありませんでした。その頃から自分のキャリアとして民間企業へのキャリアチェンジを考えるようになりました。当時はH-1Bビザでしたが、民間企業に就職するにはグリーンカード(永住権)を取得していたほうが有利だということをポスドク委員会の先生にアドバイスして頂き、グリーンカードを申請することになりました。他の方の話を聞いてもアメリカの大学でポスドクのグリーンカード申請をサポート(申請費用含め)してくれるところは聞いたことないのですが、Cornell Universityの私が所属していたデパートメントではサポートするシステムが有りました。
良かったこととしては、良い指導教官に恵まれたお陰で様々な面でサポートしていただきました。特に次のポジションを探していることを相談したときには、一緒になってポジションを探してくれるなど協力してくださいました。研究室を出ていく人間にも関わらずとても親身になって頂き、懐の大きさに感動しました。
また、アメリカ国内でも複数の州を経験しましたが、州によって物価の差がとても大きいことにびっくりしました。

米国の研究環境

10.     現在の仕事はどんな内容ですか?
現在は化学品メーカーに勤務しています。ここではレジストレーション・マネージャーとして、EPAなどアメリカ政府機関に我々の商品の安全性を示すデータを提出したりする登録申請やレギュレーションに関わる業務をしています。現在は世界的な緑化戦略が行われており、現在使われている農薬を50%削減しようとする動きが出ています。農薬に代わるものとして微生物農薬、すなわち生物製剤の開発が進んでおり、これまでの自分の経験を生かして、大学の技術をR&D部門へ紹介するなどのサポートもしています。

11.    日米における研究環境の違いはなんですか?
指導教官の学生に対する指導の仕方が一番の違いだと思います。日本の研究室では、研究室配属時にはすでにテーマが決まっていて、学生がそのテーマをもとに実験を始めると思いますが、アメリカでは研究テーマを探すところからが学生の仕事で、指導教官は学生やポスドクの研究にはあまり口出しをすることはなく、自由です。ただし自由度が高い分、責任も大きくなります。

12.    将来のキャリアパスの目標はなんですか?
現在携わっているレギュレーションの仕事は、私自身経験がなく、同僚に助けて頂くことが多いのですが、いずれは独立して、人に教える立場になりたいというのが当面の目標です。また、私は米国アカデミアでの経験がありますが、会社の中には同じようなバックグラウンドを持つ人がいないので、会社とアカデミアとの架け橋になるような役割を担うことができれば嬉しいです。

これから米国を目指す若手博士人材へ

13.    これから米国を目指す若手博士人材へのアドバイスなどはありますか?
私も今の会社で、長年この業界で経験を積んだ先輩から色々アドバイスを貰いますが、「失敗してもいいからやってみなさい。」とよく言われます。特にまだ若い人たちには失敗を恐れずどんどんチャレンジしてほしいと思っています。また、私の同級生達は論文の数も多く(実績がある)、日本の大学で教員職に就いている人もいるので、同年代の中で遅れを取っていると焦ったこともありましたが、長い目でみて私は私のやり方で自分の道を進もうと思っています。

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