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アメリカで活躍する博士人材④岩月 猛泰さん Takehiro Iwatuski, Ph.D.

略歴

2022年- University of Hawaii at Hilo, Department of Kinesiology and Exercise Sciences, Assistant Professor
2018年-2022年 Pennsylvania State University, Department of Kinesiology, Assistant Professor
2015-2018年 University of Nevada-Las Vegas, Department of Kinesiology and Nutrition Science博士課程
2012-2014年 Springfield College, Department of Psychology 修士課程
2009-2011年 日本大学大学院 教育学 修士課程
2005-2009年 日本大学 文理学部 保健体育学科

留学準備

1.    米国での研究留学(就職)を志望した理由をお聞かせください。
最初にアメリカを意識し始めたのは今から10年前でした。日本大学在学中、自分の将来の進路を考えたとき、当時は自分には英語の語学力がほとんどなく、それが障害になっているのではないかと思いました。もしかしたら英語を身につければ、自分の可能性がもっと広がり、活動の場が海外にも広がるのではないかと思い、まずは英語の習得を考えました。さらに、私の専門であるスポーツ心理学の分野ではアメリカがトップでした。そこで、どうせ英語を勉強するのであればアメリカ現地の学校に通い、その後、アメリカでスポーツ心理学の分野で修士号、博士号を取得したい、という理由からアメリカ留学を志しました。

2.    米国での研究留学(就職)を考えた時、懸念点はありましたか?
当時の私は本当に英語ができず、TOEFLで23点しかないレベルでした。そのため、このままではアメリカに留学に出来ないと思いました。そこで取った手段は、まず日本にいる間にオンラインの英会話クラスを受講することでした。しかしそれだけでは足りず、アメリカの語学学校に入学し、半年間、みっちり英語を勉強しました。半年間全力で英語を勉強したおかげで、大学院入試をクリアするレベルの語学力が身につきました。

3.    米国留学以外の選択肢はありましたか? その場合、選択肢はどのようなものがありましたか。
国内での進学を含め、他にいくつか選択肢がありましたが、悩んだ結果、最終的に英語を習得し、アメリカで修士号、博士号を取得する道を選びました。ただ、当時の私に英語力がないことは両親も知っていたので、将来アメリカに行きたいことを両親に告げたときは、とても不安そうでした(笑)。

4.   いつ頃から留学の準備を開始し、どのようなアクションを取りましたか?
留学を意識し始めたのは渡米の半年前です。その頃から日本でオンラインの英語クラスを受講し、英語を勉強し始めました。また、Springfield大を受験する際、志望動機書、履歴書、推薦書、GRE、TOFLEスコアなどを提出しました。日大の修士課程を終えることもあり、英語のレベルが伸びたらという条件付き入学をもらうことが出来ました。その結果、Springfield大では最初は履修生として学部のクラスを受講し、その後正式に修士課程に入学することが出来ました。また、大学院の1学期を終えたところで、男子テニス部のアシスタントコーチとして雇ってもらうことで、学費免除になりました。

修士課程を経て博士課程に進学する準備を開始しましたが、博士課程は少し異なる領域で、しかも他の大学に進学することを志しました。それは、世界的に有名な教授のもとで研究すること、また大学を代わることでより良い環境で研究が行えることを期待しての選択でした。かといって、既に目ぼしい大学先があったわけでなかったので、「Directory of Graduate Programs in Applied Sport Psychology」という本を参考にして、可能性のある大学と指導教官名を全部リストアップしました。15箇所ほどリストアップし、全員にメールで打診したところ、ほぼ全員から返事がありました。ただ、そのうち好意的な返事を貰ったのは4〜5箇所でした。その中から、特に指導教官の良さ、また、将来的に自分のパブリケーションが増えることが期待できるラボということでネバダ大学を選択しました。博士課程のポジションを見つける課程で特に有効だったと思うのは、各PIとやり取りするなかで、自分が修士課程で研究していた内容やその成果をシェアしたことです。そういったやり取りを密に行うことで、より相手に興味を持ってもらうことが出来たと思います。

PhDを取得できる見込みが立ち始めた2年目頃から就職について考えるようになりました。日本にもいくつか応募はしましたが、ほぼアメリカ国内の大学に応募しました。最終的にアメリカだけで35のポジションに応募し、一次面接に呼ばれたのは11ヶ所でした。一次面接は電話かビデオ会議で行われ、30分で5人ぐらいの面接官(デパートメントのファカルテイー)と質疑応答をするというケースがほとんどでした。一次審査を通過し、オンサイトでの二次(最終)面接に呼ばれたのは5ヶ所でしたが、実際に訪問したのは2ヶ所だけでした。というのも、面接後にオファーを頂いた場合、頂いて一週間以内に返事をしなければならず、そのため先にオファーを頂いたポジションを優先することになりました。

5.    準備を始めてからオファーを受け取るまでにかかった期間はどれ位でしたか? また、その大学を選んだ理由はなんですか。
日本大学の修士課程に在学中、アメリカに留学したいことを指導教官の先生に相談したところ、Springfield大学の存在を教えてもらいました。調べてみたところ、スポーツ心理学の分野では世界でもトップ10に入るレベルだということが分かりました。自分の領域のトップレベルの大学で学びたいと思い、この大学を志望しました。

6.    留学先を探す際に参考にした情報はなんですか?
修士課程に入学したSpringfield大学は日本大学の指導教官の先生の紹介でした。その他にもウェブサイトなどの情報を参考にしました。また、博士課程進学の際には「Directory of Graduate Programs in Applied Sport Psychology」という本を参考にしました。

7.    情報収集する際、費用はかかりましたか?
特にかかっていません。

8.    就職活動の際に苦労したことはなんですか?
やはり、英語が全く話せなかったことでしょうか。しかし、英語さえクリアできればSpringfield大学に入れると思っていたので、そこからオンラインの英会話クラスを受講したり、アメリカの語学学校に入学して半年間英語を勉強したりしました。応募するための書類を、応募する大学の数だけ用意することや、面接への準備や模擬授業や研究発表などの用意をするのは時間がかかりました。また、オンサイトでの二次(最終)面接もあらゆるミーティングが設けられており、多くの方と話すための用意と準備に時間がかかりました。それが、博士論文の為の実験などと重なっているのもあり、非常に忙しかったのを覚えています。

9.    渡米前に想像していたことと違ったことはなんですか?
私は日本でも修士号を取り、アメリカでも修士号を取得しましたが、修士課程で受講するべき講義の数が全く違います。日本の修士課程ではあまり講義はなく、殆どの時間を研究に費やしていましたが、アメリカでは修士課程でも博士課程でも講義の数が多く、とても忙しいです。
また、社会全体においては、アメリカは個人の努力を見ている人がいる、つまり頑張っている人は努力が報われる社会であるということです。日本では実力よりも人間関係を重視する傾向がありますが、アメリカは完全に実力主義であると思います。


米国の研究環境

10.    現在の仕事はどんな内容ですか?
現在はUniversity of Hawaii at HiloのAssistant Professorとして運動学に関する研究を行っています。具体的には、被験者に様々な条件下でスポーツのタスクを与え、その結果をモニタリングします。例えば最近行った実験では、被験者にランニングマシンを走ってもらい、その際にモニターから出る映像を見ながら走ってもらいます。そこで、被験者が自由に映像を選べる場合と選べない場合を比較し、ランニングの効率を比較しました。その結果、被験者が自由に映像を選べる場合のほうが酸素消費量は少なく、結果運動のパフォーマンスが高くなるということが分かりました。研究論文としてもスポーツ科学では世界トップのJournal of Sports Scienceshttps://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/02640414.2018.1522939
)に掲載して頂いたのは非常に嬉しかったです。

11.    日米における研究環境の違いはなんですか?
日本の大学(大学院)だと、研究に関する講義というものがなく、研究室に配属されていきなり研究をはじめます。しかし研究というものを全く知らないのに急に研究室に配属されて、さぁ研究をやれと言うのは理に適っていないような気がします。一方で、アメリカの修士課程では「研究方法論」のクラスがあり、そこで研究における仮説の立て方、実証方法、考察方法などを学ぶことが出来ます。研究に関する予備知識があるのとないのでは研究の広げ方が全く違うと考えているので、是非日本の大学でも学部の授業でこういったクラスを取り入れていっていただきたいです。
あと、日本にいたときは指導教官より先に帰ることは気が引けてできませんでしたが、アメリカでは個人の時間が尊重され、また良い意味で周りにあまり気を使わないため、気にしなくて良くなりました。

12.    米国に来て良かったことはなんですか?
やはり英語を身に着けたことでその後の自分の可能性の幅が広がり、アメリカの大学のファカルティーポジションを得ることができたことです。また、Google社のメンタルパフォーマンスコンサルタントのアジア地域担当として日本人で初めて雇っていただけたらとことも非常に良かったです。

13.    米国に来て後悔したこと、苦い経験などはありますか?
これは良いことでもあり悪いことでもあるのですが、COVID-19によるパンデミック以降、研究活動がかなり制限されました。というのも、先にお話したように、私の研究は基本的に人間を対象にして行われるものなので、人と直接会ったりするといったことが制限されると、実験そのものが行えなくなります。その一方で、他の大学の研究者から共同研究や論文の共同執筆の依頼がここ一年でたくさん来るようになりました。
また、学修や研究とは関係ありませんが、車の運転中に他の車にぶつけられ、車が全壊する事故を起こしたことです。ぶつかってきた相手が100%悪かったのですが、裁判で判決が出るまでに一年かかり、当時の私はお金も余り持っていなかったため、その間新しい車を買うことが出来ず、一年間車がない生活を強いられました。また、判決が出るまでに一年もかかったということで保険会社も訴えました。結局、すべて解決するには二年もかかりましたが、このおかげ(?)で私の英語力や交渉力はかなり鍛えられたと思います。

14.    将来のキャリアパスの目標はなんですか?
現在はテニュアトラック期間なので、テニュア(終身雇用)をとるまではなんとか頑張りたいと思っています。今の職場の研究環境はとても良く順調に研究が進んでいるので、研究以外のこと、例えば現在YouTubeSNSを使って日本の若い学生向けの情報発信(https://hiroiwatsuki.com/)を行っていますが、この活動をどんどん広げていきたいと思っています。

これから米国を目指す若手博士人材へ

15.    これから米国を目指す若手博士人材へのアドバイスなどはありますか?
私もそうでしたが、やはり若い人にとって海外へのチャレンジには不安があります。留学後に起こるかもしれないネガティブなことを想像すればきりがありませんが、逆に留学によって得られるパワー、メリットなど、精神面でのプラスは非常に大きいと思います。そういったポジティブなこともたくさん考えて、留学を決めてほしいと思います。例えば、日本人以外の友人が増えることは、日本にいては得られない知識だけでなくものの見方や考え方が変わることは間違いなく、その後の人生を大きく変えることになると思います。


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