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アメリカで活躍する博士人材②高久 誉大さん Motoki TAKAKU, Ph.D.

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略歴

2019年- Assistant Professor. School of Medicine and Health Science, University of North Dakota
2013-2019年 Visiting fellow, NIEHS
2010-2013年 早稲田大学大学院 電気・情報生命工学科 助手(助教) 
2007-2010年 早稲田大学大学院 電気・情報生命工学科 博士課程
2005-2007年 早稲田大学大学院 電気・情報生命工学科 修士課程
2001-2005年 早稲田大学 電気電子情報工学科 

留学の準備

1. 米国での研究留学を志望した理由をお聞かせください。
早稲田大学の博士課程在学時に所属していたラボの先生がアメリカのことに詳しく、アメリカでの生活や研究環境の事を聞いているうちに次第に自分もアメリカに行きたいと思うようになりました。実際には、周りの同級生が修士課程を終えて就職する人が多く、自分も修士課程1年のときに製薬企業を中心に就職活動をしていた時期がありました。自分の理想と現実のギャップを知り、希望する会社からも相手にされず、それなら博士を取ってアメリカに行こうと決意しました。博士号を修得しればアメリカに行けると指導教員に教わり、同ラボで研究を続けることにしました。

2. 米国での研究留学(就職)を考えた時、懸念点はありましたか?
やはり英語に対する不安がありました。また、異国の地で生活できるのかという心配もありました。ただ、自分は楽観的なので、なんとかなるだろうという思いでこれまで生き残って来たと思います。家族の反応ですが、妻にはアメリカに行きたいことは前々から伝えていたので、特に反対されることはありませんでした。

3. 米国留学以外の選択肢はありましたか? その場合、選択肢はどのようなものがありましたか。
早稲田大学で非常勤のポジションはありましたが、有期雇用でした。

4. いつ頃から留学の準備を開始し、どのようなアクションを取りましたか?
留学先のPIと早稲田大学の指導教官が知り合いで、日本で開催された国際学会で講演を聞いたり直接お話する機会があり、研究内容に非常に興味を持ちました。それが渡米2年前のことです。その後、PIにメールを送り、ポスドクとして雇ってもらえるかどうか打診しましたが、空きポジションがないと言われました。そこで、自分で予算をとってくれば受け入れてくれるだろうと思い、日本学術振興会の海外特別研究員に応募し、採用されました。海外特別研究員は応募する過程で、採用後に受け入れ可能か事前に留学先から承諾を得る必要があります。
自分や周りの仲間の経験から分かったことですが、自分の指導教官などを通じてポジションを探すとオファー(少なくともメールに対しての返事)をもらえる確率が高いと思います。特に応募者が多く、競争率の高いラボになるとなおさらです。また、私のように学振などに応募して、自分でお金を持っていけばより確率は高くなります。ただし、競争率の高いラボは、学振を持っているだけでは受け入れてもらえないこともあるので注意が必要です(予算の問題ではなく、研究室のキャパシティや応募者のクオリティがより重要視される。)。志望するラボのPIと直接コミュニケーションをとることでより良い返事がもらえる可能性が高まります。

5. 準備を始めてからオファーを受け取るまでにかかった期間はどれぐらいでしたか? また、その研究室を選んだ理由はなんですか。
オファーをもらうまでには二年かかりました。このラボを選んだ理由は、まず第一に研究内容が自分の興味に合っていたことです。特に癌におけるクロマチンリモデリングに興味がありました。また、当時私は生化学系の研究者だったのですが、生物学的実験系を学びたいと思っており、そのラボでは生物学的実験系を使って研究していたので自分の希望にマッチしました。また、そのラボはトップジャーナルにいくつも論文を出しており、自分もそのラボで研究して良いジャーナルに論文を出したいと思いました。

6. 留学先を探す際に参考にした情報はなんですか?
留学先を最初から一つに絞っていたので特に留学先を探すという作業はしていませんが、留学先を決めるにあたっては指導教員の意見を聞いたり、学会で直接話をしたり、論文を読むなどしました。

7. 情報収集する際、費用はかかりましたか?
国際学会の参加費ぐらいで、特にかかっていません。

8. 就職活動の際に苦労したことはなんですか?
最初にポスドクのポジションについて打診した時に、ポジションがないと言われた時に他のラボを探すか悩みました。しかし、学振があれば受け入れてもらえると思い、学振を取ることで結果的にポジションを獲得することが出来ました。

9. 渡米前に想像していたことと違ったことはなんですか?
日本にいたときは自分の英語力に全く自信がありませんでしたが、アメリカに行けばなんとかなると思っていました。ところが実際は、自分で思っていたほど英語が上達しませんでした。しかも、同じラボの中で自分は英語力が一番劣っており、それが研究の進度にも影響を及ぼすことに気づきました。自分の英語が初めの段階から流暢だったら、もっと人脈の幅も仕事効率も高めることができたと思うので、ちゃんと英語の準備をしておけばよかったと思っています。実際、渡米直後に活躍している人は準備をちゃんとしており、英語でのコミュニケーション能力が結果につながることは事実だと考えています。

米国の研究環境

10. 現在の仕事はどんな内容ですか?
PIとして研究室を運営しています。研究内容は、乳がんにおいて細胞が変化する課程でのクロマチンの変化を調べています。また転写因子や外部からの刺激などの影響についても調べています。

11. 日米における研究環境の違いはなんですか?
研究のスピード自体は日本で所属していたラボのほうが早かったと思います。しかし、アメリカのほうが効率良く研究できる環境が整っていると感じます。また小さい研究室でも、大学全体の環境が良く、Core facilityやAnimal facilityには専属のスタッフが付いているのでシステマティックに研究を行うことが出来ます。さらにラボ同士の垣根が低く、実験機器や試薬の貸し借りがしやすいという点もあります。私はNIEHSからNorth Dakota大に移りましたが、アメリカの地方の大学でも研究設備の充実という点ではNIEHSに劣っていないと思います。
また、PI、学生、ポスドクが非常に親密で、とても話しやすい雰囲気があります。実際私もポスドク時代やNorth DakotaでPIになりたてでも、大御所の先生方が私の話を真剣に聞いてくれるのでとても刺激的な研究ライフを送ることができています。反対に、彼らから研究について話を聞くと、彼らの知識の深さや幅の広さに驚かされ、大変勉強になります。こうしたオープンなディスカッションができる環境が、アメリカの科学研究の創造性の高さと密接に関わっていると考えます。

12. 米国に来て良かったことはなんですか?
大学や研究所の環境が整っていて、自分の実験に集中できます。自分のアイデア次第で好きな実験ができ、研究設備も充実しています。また、研究費も充実しているので最新の試薬もすぐに試すことができます。またCore facilityが充実しているため、実験の準備に費やす時間も少なくて済むというメリットがあります。

13. 米国に来て後悔したこと、苦い経験などはありますか?
後悔はないですが、やはり渡米した当初は自分の英語力のなさに気付かされ、色々苦い経験をしました。伝えたいことを思うように伝えられないことはとてもストレスで、実力を認めてもらえるまでに時間を費やしました。

14. 将来のキャリアパスの目標はなんですか?
常に人生を楽しむことができるように全力を尽くすことがモットーです。研究者としては、自分の研究室で大きな発見をして、その成果をトップジャーナルに出すことです。自分の研究分野でより多くの人に知ってもらえる存在になりたいです。

これから米国を目指す若手博士人材へ

15. これから米国を目指す若手博士人材へのアドバイスなどはありますか?将来的に海外でのキャリアを望む人も望まない人もアメリカに来て異国の文化を体感してみることはおすすめです。人としての成長が実感でき、人生の彩りをより豊かにできると思います。アメリカンライフを楽しむためにも、英語の準備はできる限りすることはお勧めします。特にプライベート面での充実は留学生活において重要ですが、コミュニケーション能力が高ければできることの幅も広がります。自分が望む研究室への切符を手に入れるためには、国際学会などに積極的に参加して、直接話す機会を作ることがおすすめです。特に今はコロナの影響でオンライン開催している学会も多いので、海外の学会に気軽に参加できるチャンスです。
研究室選びの際に重要なことは、研究内容だけではなく、留学先の先生や研究スタイルと自分との相性です。留学前に留学先の先生の人間性を知ることは簡単ではありませんが、学会で直接話をしたり、研究室の人から話を聞いたり、周りの人から間接的にでも情報収集することで、なんとなく研究室の雰囲気が見えてくると思います。学生からの評判はどうか、海外からの留学生はいるか、卒業生の就職先はどこか、英語が苦手でも話を聞いてくれるかなど、具体的なことを聞くことで、より有益な情報が得られます。例えば自分は比較的小さい研究室に留学したため、ボスとの距離も近く、頻繁にディスカッションすることができ、細かいことでも相談しやすいという利点がありました。逆に多くの人が在籍する人気の研究室では、世界中から一流のポスドクが集まってくるため、ラボミーティングの質も高く、ポスドク同士で行われる日々のディスカッションもとても刺激的です。その反面、ボスと直接ディスカッションできる時間が少なかったり、研究室内での競争が激しかったりすることもあります。留学先の選定はとても難しいですが、自分が留学先で得たいものが何なのか、自分の将来のキャリアをじっくり見据えながら、留学先の先生の人間性や研究スタイルも考慮して選ぶのが良いのではないかと思います。 

色々と偉そうに語ってきましたが、自分は留学前にそこまで深く考えていませんでしたし、英語も含めて留学の準備ができていたとは思いません。留学してからもアメリカで研究室を始めるとは夢にも思っていませんでした。そんな行き当たりばったりなスタイルでも、自分にあった環境を見つけることができれば楽しい留学生活を送ることができます。アメリカだけでなくヨーロッパでも、多くの知人が留学生活をエンジョイしています。まずは勇気を持って飛び出して見てください。困った時はいつでも相談に乗りますので。

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