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利用者さんから物をもらう保健師の話

「患者さんや利用者さんから物をもらってはいけません」
看護師や保健師の学生時代にはこのようなことを言われる。

利用者さんの中には、「いつも来てくれて申し訳ない」「いつも自分に良くしてくれて本当に感謝している」といった気持ちでお菓子などをわざわざ買ってきてくれる方もいる。
こちらとしては、利用者さんの支援をすることが仕事であり、報酬としてきちんと会社から給料が出ている。
無償のボランティアではないので、利用者さんが申し訳なく思う必要は全くない。
利用者さんから物をもらうことは不正に利益を得たことになってしまうのだ。
なので、学生時代から、「働くようになっても患者さんや利用者さんからは絶対に物をもらってはいけない」と教え込まれる。

とはいいつつも、実際に地域包括支援センターの保健師として働いていると、理想論ばかり言ってられないというのが黒井の持論。
黒井の勤務しているよつば地域包括支援センターの地区では、訪問の終わりに職員にお土産を持たせようとしてくれる人が多かった。
どのような物を出されるかというと…
・自宅の畑でとれた野菜や果物(袋や段ボール箱いっぱいに詰めて)
・近所のスーパーで買ってきたお菓子
・お中元やお歳暮でもらったと思わしきお菓子や海苔の箱
・親戚から届いたお菓子  などなど
基本的には色々な文言を使って3回くらいは断る。
3回くらい断れば、「あらそう?いつもありがとね」と引っ込めてくれる人が多い。

だが、高齢者の方はさすが人生経験豊富。色んな方法で対抗してくる。
黒井が「お孫さんが来た時にあげてくださいよ」と言えば「孫が来るときはまた買うから大丈夫!」と言われる。
黒井が「いただけない決まりになっているんですよ」と言えば、「会社に黙っとけば大丈夫だから!」と言われる。
黒井が「次の訪問もあるので、野菜が悪くなってしまいます」と言えば「この野菜はちょっとくらい車に置いておいても大丈夫だから」と言われる。
黒井が「みなさんのお手伝いをするのは私の仕事で、会社からちゃんとお給料出ているので、それ以上はいただけないです」と言えば、「介護業界、頑張っている割にお給料少ないんでしょ。職場のみんなで召し上がって」と言われる。
なるほど、なかなか言い返せない。

あまりに断り続けると「私の気持ちが受け取れないって言うの!?」という雰囲気になってくる。
何回断っても引き下がらない方の場合、関係性を壊さないためにも、それほど高くない食べ物系であればもらってよい、というのがよつば地域包括支援センターの共通認識となっていた。

よつば地域包括支援センターの管轄地区では、冬場になるとなぜかどこの家でも、はっさくやぶんたんのような柑橘系の果実が大量にあり、お土産にいただくことが多かった。包括職員だけでは食べきれないほど大量にいただいていた。
なので、毎年冬になると事務所の入り口にご自由にどうぞと柑橘系コーナーが設置される。そのコーナーには時々大根や白菜なども置かれる。
季節ごとに野菜や果物の種類が変わっていくのが面白い。

委託型の地域包括支援センターだったので、物の享受に関しては比較的甘いルールだった。
しかし、役所の職員は本当に厳格に物をもらわない。
時々役所の職員と一緒に利用者さん宅に訪問することがあるのだが、どの職員であっても、出されたお茶すら絶対に飲まない。
これくらい厳格なのがあるべき姿だよな…とちょっと反省するけれど、利用者さんとの距離感が包括よりも遠い存在だからこそできることかもな…とも思う黒井であった。

何が正解ということはないけれど、黒井から言えることは一つ。
物をもらったから贔屓する、物をもらわないから邪険に扱う、ということは絶対にありません。ということ。

基本的には訪問時にお茶も出さなくて良いですし、ましてやお土産を持たせる必要もありません。
介護や高齢者関連のお話は、なんでもお気軽に地域包括支援センターに聞いてみてくださいね。

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