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ほけんの壁(前編)


▶緊張し、そして充実を感じる瞬間

「百聞は一見にしかず」ということわざがあります。知識としてはよく知っていても、経験してみないとわからないことは、たしかに多いですね。生命保険の仕事でいえば、保険事故への対応、つまり保険金を受取人に支払うということが、その代表例です。お客様が病気で入院したり、亡くなったりというケースです。医療関係の方は別として、日常で何度も経験するようなことではありません。
 
生命保険の営業をしているとき、少し緊張する瞬間がありました。それは、保険に加入しているお客様から「こんど入院することになった」とか、「手術をすることになった」という電話をいただいた場合です(もっと重たいケースとして、ご家族からお亡くなりになった旨の連絡もあります)。その時にまず頭に浮かぶのは、「どんな保険に入っていたかな?」ということです。お客様の保険の内容はだいたい覚えているのですが、細かいことまでは確信を持てません。だから「大丈夫かな?」とちょっと心配になるのです。けれども、そのような心配はだいたい杞憂に終わります。たいていの場合、お客様に何らかのかたちで役立つだけの保険金をお渡しすることはできます。お客様がお亡くなりになったときは、悲しみのほうが強いのですが、お客様の治療に役立つお金を渡せたときは、自分の役割を果たせたかなと、少しだけ充実感があります。では、保険金を受け取ったお客様はどのように感じるのでしょうか?

▶保険金を受け取ったお客様の反応

「特定疾病保障保険」という保険があります。がん、脳卒中、心筋梗塞などの大きな病気をしたときに、一時金を受け取れる保険です。ここで、あなたに質問です。この保険に加入していたお客様にがんが見つかりました。お客様は500万円の保険金を受け取ります。さて、保険金を受け取ったお客様は何と言うでしょうか?少し考えてみてください。「保険に入っていてよかったな~」と言うでしょうか、それとも違うことでしょうか? 

▶保険の本当の価値を知る

ほとんどのお客様が同じことをおっしゃいます。
「もっと保険に入っておけばよかった…」
例外はほとんどありません。判で押したように、みなさん同じことをおっしゃいます。
「この保険をすすめてくれてありがとう」と言われたことはありません(汗)感謝されるのかというと、そうではないということです(笑)
 
けれども、お客様が保険に入るときに、「もっと入りたい」と希望されて、私の方でブレーキをかけたなんてことは、一度もありません。お客様は慎重に検討し、私がさらに説明して、やっと折り合える内容で加入されることがほとんどです。では、なぜこんなことをおっしゃるのでしょうか?
 
それは、保険に対する価値が変わったからです。病気という経験をすることで、そのお客様にとって保険の価値が高まりました。お客様は「保険の本当の価値」に気づいたのです。健康な人にとって、保険の価値はなかなか実感できるものではありません。健康が本当に大事だと気づいたときに、保険の価値もよくわかるということなのでしょう。 

▶お金を出しても買えないもの

「本当の価値」を知ることは、人生を豊かにしてくれます。私は美術館で絵を見るのが好きなのですが、その絵を描いた人物や書かれた背景がわかると、トクしたという気分になります(特に山田五郎さんの「大人の教養講座」にはお世話になっています)。保険についても同じです。「本当の価値」を知ると、それまで当たり前だったことが、実はそうではないと気づきます。
 
では、「保険の本当の価値」を知った人に何ができるのでしょうか?
残念なことに、できることはあまりありません。病気をすると、保険に入るのは難しくなります。もちろん絶対に入れないということはありません。病歴があっても一定の条件を満たせば保険に入れることはありますし、加入条件をゆるやかにした緩和型の保険というのもあります。しかし、一般的には、がんのような大きな病気をすると、普通の保険に入るのはかなり難しくなります。保険に入りたいのに、入れないということです。
 
あなたは買い物をしています。欲しいものが見つけました。値段が安ければ、ためらうことなく買いますよね。もし値段が高ければ、どうでしょう?なんとか買えないか、頭を悩ませます。問題はお金を出せるかどうかです。ほとんどのものは、お金があれば買うことができます。しかし、保険の場合は、その法則が当てはまらないときがあります。お金を出しても、買えないこともあるのです。 

▶ほけんの壁

「買いたいときに買えない、買いたくないときに買える」
これが「ほけんの壁」です(命名者:山口哲生)。
 

ほけんの壁(イメージ)

健康なときは保険の価値に気づいていないので、保険に入る必要性は感じない。けれども、健康なときでないと保険には入れない。これが「買いたいときに買えない」です。一方、病気になって保険の価値に気づくと、保険の必要性を強く感じるようになる。しかし、保険に入るのは難しい。これが「買いたいときに買えない」という現象です。
 
生命保険に対する印象は、その人が壁のどちら側にいるのかによって、大きく変わります。その壁を越えていない人にとって、生命保険は無駄なものに見えるでしょう。しかし、壁を越えた人は、保険に対する見方が大きく変わります。この壁の特徴は、壁のこちら側から向こう側は、一方通行だということ。一度越えたら、後戻りはできません。そのため、生命保険の世界では、ちょっとややこしく、ちょっとおかしなことが毎日起きています。
(次回に続く)

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