【第21話】園内研修だけじゃだめなんですか④
「良いアイデアだと思います。『実現性』が高いところに、この付箋が貼られているということは、ふりかえりの機会を確保することは実現可能だということですね?」
「可能だと思います。なので、私が主任になってから毎週クラス会議を行うことにしました。ただ、保育や書類の作成、行事の準備などがあるので、なかなか取り組む時間がないというのが現状です」
「なるほど。クラス会議という仕組みを作っても、職員が多忙のため十分な時間が取れていないということですね。私がヒアリングで感じたことですが、おそらく、職員の中では、クラス会議の優先順位が低いため、後回しになっているということが起こっているのでしょう。では、優先順位を上げるためには、何ができるでしょうか?」
栗田に問いかけられ、二人は考え込んでしまった。これまで、優先順位を上げるという発想をしたことがなかった。これまではとにかく、園の課題を解決するために、油井園長と水澄の二人で解決策を考え、職員に実行させてきた。職員の行動を促進するための仕組みや、動機づけに関しては考えたこともなかったのである。
順子はしばらく考えていたが、ふと、今日の研修での職員の姿が頭をよぎった。
「たとえば、保育をふりかえることの意義を実感できることが大事なのかなと思います。そこで、週に10分でよいので、クラス会議ができるように、人の配置を工夫できるのではないかと思いました」
「いいですね。職員に努力を強いるだけだと、自分ごととして取り組むことができないですからね」
「そうです。おそらくふりかえることの大切さを実感できれば、優先順位が上がってくるのではないかと」
「人の配置については、園長先生や水澄先生だけがマネジメントできる部分です。そのような取り組みは、管理者層やリーダーが組織やチームのメンバーに貢献しようとする態度を示すことにもなると思います」
「それでは3つ目の付箋について検討していきましょう。3つ目は園長先生の案ですね。えっと・・・『ドキュメンテーションをつくる』ですね。園長先生、ご面倒だと思いますが、この案についてもう一度説明をしていただけますか?」
「はい。前から取り組みたいと思っていたのですが、保育のドキュメンテーションを各クラスで作ってもらおうと思います。子どもの日常の様子を写真に撮って、それを保護者向けに掲示するのです。日常の保育の様子が保護者に伝わるので、他の園でも取り組んでいるのですが、うちの園でもぜひ取り組みたいと前々から考えていました」
「なるほど。そのドキュメンテーションに取り組むことと、『職員同士の相互理解が進み、積極的に対話しようとする姿勢』はどのようにつながるでしょうか?」
「そうなんですよね。それが難しいなと思っていて。いっそのこと、今回のこととは別にやってみようかしら・・・」と言って、油井園長は栗田の様子を伺った。
すると二人のやり取りを聞いていた順子が、良いアイデアを思いついたらしく少し興奮ぎみに大きな声を出した。
「あ!それなら、こんなやり方はどうですか?ドキュメンテーションを各クラスの保育者が対話をしながら協力して作るんです。そうすれば、保育をふりかえる時間にもなりますよね?」
順子は、自分でもどこにそんなアイデアが埋まっていたのかと思うくらいだった。
「なるほど、それは良いですね。ただ、先程の水澄先生のお話だと、保育のふりかえりができないくらい、職員の皆さんはお忙しいということでしたよね。・・・水澄先生が、人の配置を工夫することでその問題に対処するということでしたが、今回も同じように考える必要があると思います。今職員が抱えている業務の中から何かを減らす、無くすことで時間の余裕を生み出す必要がありますね」
順子が考え込んでいる間に、油井園長は栗田に尋ねた。
「では、どうしたら良いのでしょうか?」
「そうですね。何か良いアイデアはありますか?」
栗田は解決策についてアイデアがいくつかあったが、二人が自分で問題解決しようという姿勢を持つことを期待して、問い返した。
「ストーリーで読むファシリテーション 保育リーダーの挑戦」一覧はこちら
https://note.com/hoikufa/m/mdab778217cb1
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