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【第19話】園内研修だけじゃだめなんですか②

「では付箋を渡しますので、まずはこちらにアイデアを書き込んでください」

研修後のふりかえりの時間を1時間取ってあった理由がようやく理解できた。

栗田は7cm角の付箋紙の束を二人に渡して言った。

「一枚の付箋には、一つのアイデアを書き込むようにしてください。3つから5つほどアイデアを出してみてください」

順子と油井園長が付箋に書き込んでいる間、栗田は小さめの模造紙を机の上に広げた。そして、模造紙の上の部分に「職員同士の相互理解が進み、積極的に対話しようとする姿勢の促進のための仕組みとは?」とマジックペンを使い太字で書いた。


油井園長と順子が3〜4枚の付箋を書いたところで栗田が声をかけた。

「それでは付箋を、説明をしながらこちらの模造紙に貼ってください。順番に貼っていきますが、近い内容の付箋は近い場所に貼ってください。ではまず水澄先生からどうぞ」

促されて順子は3枚書いたうちの一枚「会話の機会をつくる」を持って読み上げ、模造紙の隅に貼った。次の付箋を貼ろうとすると、すかさず栗田が質問してきたので、順子の手が止まった。

「なるほど、それは職員間の会話ということですか?」

「そうです」

「なぜ会話の機会をつくることが重要だと考えたのか、理由を教えていただけますか?」

「今日の研修を通して、今までの園内研修や会議では職員がお互いに知り合う機会がなかったことに気づきました。それで、保育の質向上のための対話はもちろん必要ですけど、雑談のような会話の機会も大切だと思ったからです」

「なるほど。具体的には、どのような会話の機会を新たに作れそうですか?」

「うーん・・・そうですね。昔は職員同士で誘い合って食事に行くこともあったのですが、今はほとんどないですね。特に若い職員はそういうのは好きじゃないと思うし、無理に誘ったら悪いので。会話の機会は休憩時間くらいですね」

説明をしていて、順子は自分が主任になってからは、ほとんど休憩室で休憩していないことに気づいた。毎日やるべきことが多く、主任専用のデスクのある職員室で休憩を取っているので、休憩時間に職員が会話をしているのかどうか分からなかった。

ただ、職員各自のロッカーは休憩室にあるので、順子も自分の持ち物を取りに行くことがある。その時目にしたのは、職員がそれぞれ自分のスマートフォンをいじっている姿であった。ひょっとすると、今は昔と違って休憩室でお茶を飲みながら雑談するということがないのかもしれない、と順子は思った。


「では次は油井園長、いかがでしょうか」

「そうですね。私が書いたのは『保育について園の方針を伝える』です。やはり自分たちの保育について語れないというのは、私たちが園の保育方針についてしっかり伝えていないからだと思うんです。だから、会議の時間を削って、私から園の保育についての話をする時間をつくりたいと思います」

「なるほど。職員が園の保育方針について理解を深めることができれば、それが保育を語り合う基盤となるのではないかとお考えなのですね」

「そうです」


順子と油井園長は一枚ずつ付箋を説明しながら模造紙に貼っていった。栗田は、この場にいる三者で理解が共有できるように、二人が自分で説明を補えるように問いかけていった。すべての付箋を貼り終えると、栗田は言った。

「ありがとうございます。もう他にはアイデアはありませんか?もしあれば、余っている付箋を使っていただいても構いませんが、いかがでしょう?」

順子と油井園長はしばらく考えていたが、それ以上は何も出てこないようであった。


「それでは、これらのアイデアの中から、実際に試してみたいことを選んでみましょう。選ぶ基準は、『実現可能なものであるかどうか』と、『効果的であるかどうか』つまり目指したい職員集団の姿に近づくようなものであるかどうかです。そのような基準で付箋を眺めてみましょう」

栗田は模造紙に二本の矢印を描いた。そして、横軸の右の方に「実現性高」、左の方に「実現性低」を、また縦軸の上の方には「効果高」、下の方に「効果低」と書き足した。

「ストーリーで読むファシリテーション 保育リーダーの挑戦」一覧はこちら
https://note.com/hoikufa/m/mdab778217cb1

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