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【第9話】はじめての参加・対話型園内研修④

先日、順子がサポートとして入った2歳児クラスの新任保育者、須天とペアになっていたのは、同じ2歳児クラス担当で乳児リーダーの滝本であった。じゃんけんの結果、まずは滝本がインタビューを受ける側になった。須天は滝本とペアになった瞬間からとても緊張している様子だった。滝本は後輩にはなるべく優しく接することを心がけている。そんな滝本が相手でもやはり先輩であれば気を遣う。

「滝本先生、よろしくお願いします」

「おねがいね」

「このインタビューシートの文章をそのまま読み上げれば良いのですよね・・・。では、まず、あなたが書いた①目指したい子どもの姿、②目指したい職員集団の姿を教えてください」

「そうね・・・。目指したい子どもの姿は、色々あるんだけど、一文で表現するなら、やっぱり『環境に主体的に関わり挑戦しようとする子ども』かな。で、目指したい職員集団の姿は、『お互いに支え合い率直に話し合える関係性』かな・・・」

「なるほど。分かりました」

「目指したい職員集団の姿なんて言葉にすることなかったから、難しかったし、自分の書いたものがこれで良いのかどうか分からなかった」

「そうですよね」

須天は滝本に言葉では同意を示したが、実は「目指したい職員集団の姿」の方が書きやすかった。それは大学で、保育現場のマネジメントについて研究をしている教授の研究室に所属していたためである。ただし、理想を描くということは、現状はそうではないことを認識することにもなる。須天は改めて今の園の職員間の課題について課題意識を持つことになった。


須天は続けて質問した。

「では『目指したい子どもの姿』は、なぜ『環境に主体的に関わり挑戦しようとする子ども』にしたのですか?これまでのあなたの保育経験(あるいは子どもと関わった経験)のなかで、子どもたちが『環境に主体的に関わり挑戦しようとする子ども』であった場面(エピソード)があれば一つ思い浮かべてお話ください」

「うーん。私が保育者になって5年目のことなんだけど・・・」

滝本は5年前に担当した5歳児クラスでの出来事を思い出していた。保育者になって初めて年長の担任になった。年長は保育園で育ちの集大成であり、小学校入学に向けての準備も始まる1年となる。年長は年下の見本ともなる。滝本は責任感が強いため、子どもの育ちという成果を追い求めていた。

10月の運動会に向けて、年長はホールでダンスの練習を毎日行っていた。滝本は普段は自由遊びの時間に子どもたちを集め、ダンスの練習を何度も行っていた。子どもたちはダンスの練習を嫌がる素振りは見せなかった。それは、滝本が感じているプレッシャーを敏感に感じ取っていたためでもった。実際には、家でダンスの練習が嫌だと親に話す子どももいたが、保護者も年長とはそういうものだと思って、担任の滝本には、子どもたちのダンスに対する後ろ向きな様子を伝えることはなかった。

そんな中で、9月に他園から転園してきた女の子がいた。千里(ちさと)といった。父親の仕事の都合で年度途中での転園となった。千里は引っ込み思案であったので、滝本も心配だったが、クラスの女の子たちから遊びに誘われて輪の中に入っていった。その様子を見て、滝本も安心していた。

最初にダンスの練習に参加した時、すでに他の子どもたちは振り付けも覚えていた。滝本は、千里に初回は皆のダンスを見るように促した。そして、次の日からダンスの輪に加わるように促したが、千里は頑なに参加しようとしなかった。何度も誘うが、うつむいてしまいその場を動こうとしないのだ。

まさか腕を引っ張って行って無理やり参加させるわけにはいかない。滝本は焦りを感じていた。そして徐々に、毎日誘っても一向に参加しようとしない千里に対してイライラするようになった。

「ストーリーで読むファシリテーション 保育リーダーの挑戦」一覧はこちら
https://note.com/hoikufa/m/mdab778217cb1

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