[オリジナル記事]EUに嵐は近づいているか——2017年、蘭・仏・独の選挙における反EU運動の影響予測

 昨年6月に英国で行われた国民投票の結果に、多くの人が動揺した。英国で働く非英国人はビザの問題を恐れ、英国に生産拠点を置くメーカーはヨーロッパ各地から輸入している部品にこれから高い関税がかけられるようになる可能性を恐れ、国内外の投資家はユーロ経済圏の先行きを恐れた。

 しかし影響の範囲はそれでも限られていた。英国は、域内の資本や労働力の移動の自由を保障する欧州連合(EU)には加盟していたが、域内移動中の出入国審査をなくすシェンゲン協定には参加しておらず、さらに単一通貨ユーロを導入していなかった。また歴史的に見ても、英国は、当初は、EUの起源である欧州経済共同体(ECC)に属しておらず、その対抗勢力である欧州自由貿易協定(EFTA)の加盟国だった。要するに、英国は、制度的にも歴史的にも、EUにどっぷり浸かりきっていたわけではない。

 そんな国でもEUから離脱するとなるとあれほどの動揺が広がった。では、制度的にも歴史的にもEUを作り上げる中心を担ってきた国々が、EUから離脱するとしたらどうか?

 その可能性について、少なくない人々が真剣に懸念を抱き始めている。なぜなら、まさにECCを創立した7カ国のうち、3カ国で重要な選挙がこれから行われるからだ。つまり、3月のオランダ議会第二院選挙、4-5月のフランス大統領選挙、9月のドイツ議会選挙のなかで、EU離脱を主張する政党や候補者が大勝した場合、EUの屋台骨が次々に失われて、ひいてはEUが崩壊するのではないかと懸念されているのだ。

 では、この懸念はどれほど現実的であるのか。

 現段階の結論を先に述べておくと、すぐにEU崩壊が起きるおそれはない。ただそれでも、将来的に混乱が生じる可能性はある。問題は、その可能性がオランダ、フランス、ドイツそれぞれでどれほど差し迫ってきているかということだ。

オランダ

 3月15日に実施されるオランダ議会第二院選挙については、選挙日が近いこともあって具体的な数字に基づく予想が出てきている。第二院は比例代表制であるため、票率が議席数に直結する。

 調査会社Kantar TNSから2月初めに発表された各層代表アンケート調査によると、排外主義とEU離脱を掲げる右翼ポピュリストのオランダ自由党(PVV)が、前回獲得票率8%から今回予想票率22%へと躍進し、第一党となる見込みだ。

 ただし、一党単独では組閣要件を満たす議席数には至らないため他党と連立政権を組む必要があるものの、その候補が乏しい。現在協力関係にある年金受給者政党プリュス50は、票率6〜11%しか獲得できそうにない。他にEUに批判的な姿勢を取っているのはオランダ社会党(PV)だが、現在の枠組みを問題視しているものの離脱を求めているわけではなく、また左派として極右政党PVVとは相容れない。中道右派の現首相マルク・ルッテ率いる自由民主国民党(VVD)は、前回獲得票率26.7%から今回予想14%まで支持を減らす見込みだが、EUを擁護している点ではやはりPVVと折り合えない。つまりPVVは、連立政権を樹立するためには何らかの妥協をしなければならないが、それは簡単ではない。

 連立政権を樹立できない場合はオランダの法に従って再選挙となるため、たとえPVVが現在の見通しどおりに勝利したとしてもオランダのEU離脱は容易ではない。

フランス

 4-5月のフランス大統領選挙は、オランダの選挙以上に市場からの注目を集めている。実際、クレディ・スイスのアナリストは1月9日の顧客向け文書のなかで仏大統領選を「EU存続に関わる最大のリスク」と呼んだ。

 とくに最近になって、排外主義とフランスのEU離脱を掲げる極右政党国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首が大統領選挙で勝利するのではないかという懸念が投資家の間で強まってきた。これは、昨年11月の米国大統領選でドナルド・トランプが事前の市場の予想を裏切って勝利したために、投資家が想定外の事態に身構えすぎているからばかりではない。1月下旬から2月上旬にかけて、最有力と目されていた中道右派統一候補フランソワ・フィヨン元首相が、下院議員時代に妻に対して不正に給与を支払っていたことが疑われたために、大きく支持を失ってしまったからでもある。ここから生じた投資家の不安を受けるかのように、JPモルガンのアナリストは2月3日の顧客向け文書で「(ルペン勝利の場合)ユーロは数週間にわたって1ユーロおよそ0.98ドルまで10%下落し、石油相場は5~10%下落する可能性がある」と予測した。

 それでも現段階ではルペン勝利の可能性は依然として低いと見られる。これは、フランス大統領選挙では二回の投票が行われるため、一回目の投票で敗退したフィヨン元首相や左派候補らの票の大部分が、二回目の投票でルペンにではなく左右両派から支持を集める中道独立候補エマニュエル・マクロン前経済相に流れると考えられるからだ。

ドイツ

 最後のドイツに関しては、現段階ではあまり心配されていない。確かにこれまで極右政党ドイツのための選択肢(AfD)はEU離脱を唱えてきており、また最近リベラル保守革新党(LKR)もユーロの使用停止を示唆し始めているが、それでも選挙戦は現在「大連立」で政権を構成している二大与党の争いになると見なされている。つまり、メルケル首相率いる中道右派のドイツキリスト教民主同盟(CDU)と、中道左派のドイツ社会民主党(SPD)だ。ただそれでも、オランダとフランスの状況しだいではその結果がドイツ国内の世論に何らかの影響を及ぼす可能性はないとは言えない。

 ここまで見てきたように、オランダ、フランス、ドイツのいずれにおいても、排外主義とEU離脱を掲げる政治勢力は多かれ少なかれ勢いづいてはいるが、今のところすぐにEU崩壊やユーロ危機を心配するには及ばない。それでも、各国内で貧困層が増大していき、政治家が有効な対策を講じなければ、EU崩壊は現実のものになるかもしれない。何しろ現状は、貧困の原因はEUの根本理念にあると声高に叫ぶチャンスが、排外主義者に与えられている状態だ。ヨーロッパ全体の発展を支えると期待されてきたEUの4つの自由、すなわち労働力・商品・資本・サービスの移動の自由は、排外主義者によって、いま、希望の的から攻撃の標的に変えられようとしている。

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