「かたかた片想い」エピローグ

新たな私たちの1ページ――。

『え!?付き合ってないの?』
「うん」

 葵と花火を見た夜。“大事なもの”を撮った私と葵はその後手を繋ぎがら黙ってただ花火を見ていた。花火大会が終わって、そのまま葵は家まで送ってくれた。いつもと変わらない会話だけしていて、それが幸せだった。家に帰ると晴琉から着信があったから、今折り返したところだ。

『何で!?』
「レギュラーになるまで待ってって」
『何それ!?真面目すぎるでしょ!』
「ね。でもいいんだ」
『なに嬉しそうな声して~』
「えへへ。わかる?」
『円歌が元気そうで良かったよ』

 そう、結局葵とはまだ付き合っていない。でもいいのだ。これからゆっくり進んでいけばいい。そうそう、志希先輩が退部届を顧問の先生から強奪したらしく、葵の退部騒動は未遂に終わった。

「晴琉と葵がレギュラーで揃う日が楽しみだなぁ」
『……円歌、良かったね』
「うん。晴琉もありがと、心配かけてごめんね」
『葵と付き合っても私とも遊んでよね』
「もちろん」

 夏休みももうすぐ終わる。私は目まぐるしい恋模様に気を取られ、宿題が全く進んでないことを思い出した。残りわずかの夏休み、葵と晴琉を度々呼び出しては一緒に勉強をするだけの日々が続いた。夏休みを満喫してて宿題を忘れていた晴琉と二人、葵に呆れられながら過ごす日々は、何よりも楽しかった。

 そして新学期――。

「円歌ちゃぁああん!」

 登校してすぐ、朝練終わりの志希先輩に捕まった。抱き着かれそうになる前に距離を取るけど、ぐいぐいと近づいてくる。相変わらず先輩の距離感はバグっている。

「何ですか!もう抱き着くのはダメです!」
「えぇ?でも付き合ってないんでしょ?フリーでしょ?なら先輩もフリーダムで行くよ!」

「先輩。離れないとぶっ飛ばしますよ?」
「あ、葵」

 同じく朝練終わりの葵がいた。無表情だけど、語気が強い。あ、めっちゃキレてる。

「え~?ヘタレの葵ちゃんに出来るかなぁ?」

 煽る志希先輩。あれだけ手の込んだ舞台をセッティングしてやったのに付き合わないなんてありえない!と先輩はあれから葵を煽りに煽っているらしい。

「先輩!やり過ぎると私も怒りますよ!」
「あ、晴琉ちゃん。だって~。円歌ちゃんも葵ちゃんもかわいいんだもん」

 ちょうどいいところで晴琉が仲裁してくれて助かった。志希先輩はそれはもう私たちのことを面白がっている。厄介な人に目を付けられたものだ。まぁ、この人のおかげで葵と上手くいったのだけれど。
 先輩は晴琉の言葉で私から離れると葵の元へ近づいた。

「……っと。じゃあそろそろ戻るねぇ」

 志希先輩は葵に何か囁くと颯爽と身を翻し、自分の教室へと先輩は帰って行った。

「……先輩のこといつか本当に殴ってしまいそう」
「何言われたの?」
「ひみつ」
「え~教えてよ~」
「教えない。晴琉もそんな顔してもだぁめ。ほら行くよ、二人とも」
「「うん!」」

 昇降口から1年生の教室がある廊下へ向かって葵と晴琉と一緒に歩き出す。今はまだ、三人とも仲良く並んだまま――。

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