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連載「『公共』と法のつながり」第6回 消費者契約と「公共」の授業

筆者 

大正大学名誉教授 吉田俊弘(よしだ・としひろ)
【略歴】
東京都立高校教諭(公民科)、筑波大学附属駒場中高等学校教諭(社会科・公民科)、大正大学教授を経て、現在は早稲田大学、東京大学、東京都立大学、東京経済大学、法政大学において非常勤講師を務める。
近著は、横大道聡=吉田俊弘『憲法のリテラシー――問いから始める15のレッスン』(有斐閣、2022年)、文科省検定済教科書『公共』(教育図書、2023年)の監修・執筆にも携わる。


【1】はじめに:消費者トラブルと「公共」の授業

 今回は、若者と消費生活に関わる問題について取り組んでみましょう。
 2022年度に寄せられた若者(18歳・19歳)の消費者トラブルの相談件数は9,907件です(国民生活センター発表https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20230531_1.pdf)。
 では、早速、問題です。

 18歳・19歳の商品・サービスに関する相談件数(9,907件)のうち、最も相談件数の多かったものはどれでしょうか。次の4つから選択をしてください。

ア 脱毛エステ
イ 出会い系サイト・アプリ  
ウ コンサート
エ インターネットゲーム

 このデータは、2022年4月1日の成年年齢引下げから1年が経過した時点で寄せられた、18歳・19歳の消費者トラブルの状況を国民生活センターがまとめたものです。18歳・19歳の消費者トラブルの相談件数のうち最も多かったのは、脱毛エステで1,222件でした。その他の選択肢でいえば、出会い系サイト・アプリは522件、コンサートは147件、インターネットゲームは128件となっていました。なので、もちろん、問いの答えは、アです。

 国民生活センターの分析によると、近年は脱毛エステに代表されるような「美(び)」に関する相談が増えており、「広告で興味を持ち、体験のために脱毛エステ店に出向いたが、通い放題プランを勧められ分割払いで契約。支払いが大変なので解約したい」(10歳代男性)などの相談が寄せられた、とのことです。脱毛エステが消費者トラブルの相談件数のトップになる、というのは私には意外な結果であったのですが、皆さんの予想はいかがでしたでしょうか。

 さて、このような消費者トラブルを「公共」の授業の導入に取り上げるとすれば、次にどのような学習を位置づけるかは大きな課題になるところです。1つ考えられるのは、消費者トラブルへの対処法など、契約に関わる実用的な知識を徹底的に教えていくというプランです。ここでは、クーリング・オフに関する知識を身に付けたり、苦情相談窓口を紹介したりするような学習が位置づけられることになるでしょう。

 もちろん、これとは異なるアイデアで授業を構想することもできます。本連載第1回で紹介した千葉県立小金高校の岡本慎先生の「消費者の権利と責任」は、そのような取り組みの1つです。岡本先生の授業は、高校生にも関心の高い脱毛エステに関連する消費者トラブルを取り上げ、いくつもの事例を読み解き、その原因を明らかにすることに焦点が当てられていました。これは、消費者トラブルへの対処法を視野に入れつつも、消費者トラブルの実態を構造的に捉えることができる能力を育む授業になっているということができるでしょう。このような能力を身に付けることができれば、脱毛エステだけでなく、他のさまざまな消費者契約の問題点を見抜いていくことが期待できる、つまり他の問題に対処するうえでも転移が可能な汎用的な力を育むことが目指されているということができます。

 あらためて、岡本先生の授業の特長をあげるとすれば、第1に、高校生にとって最も関心の高い美(び)に関わる消費者トラブルが取り上げられており、自分の問題として興味を持って学習に取り組むことができる、第2に、実際に起こった事例から消費者トラブルの原因を分析することでトラブルの中身を構造的に捉えることができる、第3に、このような学習によって将来自身に降りかかるかもしれない未知の問題に対しても応用が利くような技能を身に付けることができる、などのメリットを指摘することができます。

【2】消費者トラブルの特質と消費者法

 ところで、実際に授業で消費者トラブルの原因を事例に基づき分析してみると、事業者と消費者との間にある格差の存在に気づくことになるでしょう。脱毛エステなどの美容関連サービスにおける消費者トラブルは、消費者の不安をあおったり、美容医療に関する知識不足を利用したりすることで引き起こされるケースが多く、そこには明らかに事業者と消費者との間の情報力や交渉力の格差がみられます。契約締結当初は、1回程度で済むと思っていた施術が実際は数回から十数回の施術を必要とし、その費用も数万円から数十万円にも及ぶようなケースはその典型といえるでしょう。その金額は18歳くらいの若者にとって相当な負担になるのは間違いありません。また、美容関連サービスの消費者トラブルの場合、その被害は財産的な損害ばかりでなく、身体や健康上の被害が生じていることも多いのです。このような場合には、財産的な損害に比べ、原状回復が難しいという問題が残ります(註1)。

 したがって、このような被害を防止するためには、事業者と消費者との間に情報力や交渉力の格差が存在することを認識し、対策を考えなければなりません。民法は契約当事者双方をそれぞれ対等・平等な「ひと」として捉えてきましたが、同じ「ひと」として扱われていても、「事業者」と「消費者」との間には格差があることをふまえ、法の世界でも、民法の「契約自由の原則」を修正し、事業者と消費者との法律関係を定める特別法をつくって対処することが求められるようになったのです。こうして生まれたのが、「消費者法」と呼ばれる法分野の存在です。消費者法といっても実際に消費者法という名称の法律が存在するわけではありません。消費者基本法を中心に、消費者の利益を保護することに関連する様々な法令をまとめて消費者法というのです(註2)。そこで、「公共」の授業では、このような消費者法が社会にどのようなインパクトをもたらしたのか、事例を通して考えてみてはどうでしょうか。そこで、著名な事例を取り上げ、検討してみることにしましょう。

【3】消費者法の意義と「公共」の授業

それでは、次の事例を読み、原告Xの訴えが認められるかどうか、理由とともに考えてみてください。まずは、どんな事例か、しっかり分析してみましょう。

 受験生のXは、Y大学の一般入学試験に合格し、所定の期限までに学生納付金(入学金、授業料、施設費など)を納付して入学手続を行った。Xは、その後、別の大学にも合格したため、3月末にY大学に対して入学を辞退する旨を告げ、学生納付金の返還を求めた。Y大学の入試要項および入学手続要項には「入学金や授業料等の学生納付金を納付した場合、理由を問わず返還しない」とする不返還特約が記載されていた。

 ここに紹介した事例は、過去に起こされた学生納付金返還訴訟の内容をより一般的な形にしてまとめたものです。実際に、多くの私立大学は、従前から、合格者に対して所定の期限までに学生納付金を納めないと入学資格を失うこと、また、いったん納入された学生納付金はいかなる理由があっても返還しない、という条件を示してきました。しかし、このような不返還特約に対しては、授業料の一部を含む学生納付金が高額になることもあり、以前から大学入学時の学生納付金の返還を求める声が上がり、それが裁判で争われてきたのです。皆さんは、このようなケースにおいてXの主張は認められると思いますか。

 では、本事例を「公共」の授業において、どのように取り上げたらよいか、考えてみましょう(註3)。

 授業づくりの第1のポイントは、この事例を読んだときに、これが契約をめぐる問題であることに気付くかどうかが重要です。高校生がそのことに気付いてくれたら、すでに法的な感覚をはじめとするリテラシーは身についてきていると考えられます。もし契約の問題であることに気付かないようであれば、先生のほうから授業で考えるべき論点を設定してもよいでしょう。

 第2のポイントは、この契約をどのように認識するかという論点に関わります。1つの観点として、民法の「契約自由の原則」に基づき、契約の内容は基本的に当事者が自由に決めることができると考えるならば、自由な意思に基づいて契約を結んだ以上は当然に契約を守らなければならない、という見解が示されることになるでしょう。この事例にあてはめてみると、Xは、“学生納付金は「理由を問わず返還しない」”という条件を承知したうえで納付金を支払っているのであるから、後になってからY大学に入学しないことを理由に学生納付金の返還を求めることはできない、と考えるのが合理的であるということができます。また、この訴訟では、不返還特約の効力が認められるかどうかが争点になっていますから、大学側が不返還特約を設けている理由もあわせて検討しておきたいものです。この点について、大学側は、入学辞退によって大学が被る可能性のある授業料収入の逸失を回避したり、学力水準の高い入学予定者を早期に確保したりすることなどを理由としてあげていましたが、そのような理由付けの妥当性をめぐってはさらに吟味してみたいところです。
 ところが、このような民法の「契約自由の原則」にのっとった見解に対しては、以前より問題点を指摘する声が多数寄せられていたのです。もし授業を進める中で、高校生から上記のような見解に対して批判や違和感が表明されるようであれば、その理由をできるだけ言語化して述べるように励ましてあげてください。すると、高校生からは次のような批判的な意見や反論が出されてくるかもしれません。予想される意見を紹介します。

  • 受験生Xは第一志望の合否結果がわかるまえに学生納付金をやむなく納めざるを得ない状況におかれている。Y大学から示された不返還特約は、そのような受験生の弱みにつけ込んだ形で示されており、本当は第一志望校に合格したら返却してほしいというのがXの真意である。にもかかわらず、納付金を納めざるを得なかった受験生Xと大学Yの関係は決して対等・平等ではなく、そこには大きな格差が存在する

  • 授業を受けていない段階で入学を辞退したにもかかわらず、高額な授業料を払わざるを得ないことに対しては納得がいかない。このような不返還特約は社会的な常識にも反している。そうであれば、この特約は、民法90条の「公序良俗」に違反しており無効である。(「公序良俗」は本連載の第2回で取り上げました。)

 授業では、1人ひとりに考える時間を保証したのち、4~6人程度の小グループによる話し合いを行ってみると良いでしょう。高校生がそれぞれ自分たちの意見をつくることができたなら、そのうえで、過去においても、「理由を問わず返還しない」という不返還特約に納得できないとする人たちが裁判を起こし大学側と争ったことがあること、それにもかかわらず、ほとんどの裁判でこれらの契約は無効とはされなかったこと(註4)などを実例として紹介することもできます。つまり、従来の法体系の下ではXの訴えを認めることは難しかったということを確認するのです。しかし、このような説明を聞いた高校生からは、肯定的な意見だけでなく、批判的な意見を含む多様な見解が表明されるに違いありません。そこで、次のステップとして、いよいよ消費者契約法について学んでいくことになります。

 それが、授業づくりの第3のポイントとなる、消費者契約法の制定(2000年)とその意義の解明です。消費者契約法の目的は、消費者と事業者との間には、情報の質や量、交渉力の格差が存在することを踏まえ、消費者の利益の擁護を図ることにあります。教育サービスの購入者(受け手)を消費者という概念で認識し、その立場に立って民法の原則を修正する消費者契約法ができた(註5)ことは、学生納付金返還請求訴訟にも大きな影響を与えることなりました。そこで、この訴訟に対する最高裁判所の判断を紹介してみましょう。
 最高裁判所は、授業料等の不返還特約は消費者契約法9条1号にいう「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」(違約金条項)に当たると述べ、大学入学試験の合格者が消費者契約(在学契約のこと)を解除することにより大学に損害が生じるのは入学年度が始まる4月1日以降だと判断しました。そして、「在学契約」の解除の意思表示が3月31日までにされた場合には、大学に損害が発生したとは認められず、授業料等に係る部分は消費者契約法9条1号により無効であるから、大学は学生が納付した授業料等を返還しなければならないとの判断を示したのです。他方、入学金については、合格者が大学へ入学できる地位を得るための対価であり、大学側は返還義務を負わないと判断しました(註6)。

 この結論は、最高裁判所の統一的判断を示すものであり、実際にそのほかの在学契約に関する裁判にも大きな影響を及ぼすようになっていきます。最高裁判決のインパクトは大きかったのですね。これについて、民法や消費者法の研究者である坂東俊矢さん(京都産業大学教授)は、「授業料を常識的に考えれば、教育機関で授業を受けることの対価にほかなりません。その意味で、受けることのない授業の対価を大学が得ることができるとすることは、消費者の通常の意思に反します。……この事案は、消費者契約法の適用によって、契約のあり方を消費者の視点に基づくものに変化させた具体例としての意義があるのです」(註7)と述べ、この判断を評価しています。ここからも、民法の原則を修正して消費者の利益の擁護をはかろうとする消費者法の存在意義を読み取ることができます。

【4】消費者被害の救済と消費者契約法:演習問題にチャレンジ

 では、もう少し消費者契約法について事例を取り上げながら学んでみましょう。

 消費者契約法のポイントは、消費者被害を救済するために大きく2つの制度を設けていることです。1つは、「契約の取消し」(4条)であり、もう1つは、「不当条項の無効」(8条9条・10条)です。そこで、前者のケースについて、次の事例(註8)を読み、考えてみましょう。

【不実告知について考える】  中古自動車店の広告に「当社は事故車を一切、取り扱っていません」との表示があったので、安心してその店舗で中古自動車を購入した。ところが、実際に乗ってみたら調子が悪いため、調べてみたら事故車であることがわかった。このようなとき、どんな対応が可能だろうか。

 この事例では、中古自動車店との売買契約は、店側の詐欺によってなされたものだから、契約を取り消すことができると考えられます。民法96条1項は、「詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる」と規定していますので、問題はなさそうです。ところが、民法の詐欺は、誤認させて契約させようという事業者の故意を消費者側が証明しなければなりません。しかし、これは、消費者にとって簡単なことではありません。相手側の心の中にある「だまそう」という主観的意図を証明することは大変なのです。
 これに対し、消費者契約法4条は、事業者が不当な勧誘をして、消費者が契約することを決意したのであれば、これを取り消すことができると定めています(註9)。この法律は、4条1項から4項において、不当な勧誘行為、具体的には「重要事項の不実告知(事実と異なることを告げること)」、「退去妨害(帰りたいと言っているのに帰さないこと)」などを列挙していますから、このようなケースに該当すれば、契約を取り消すことができるのです。
中古自動車店のケースでは、重要事項である事故車であったという事実を証明できれば、広告での説明が事実とは異なることになりますから、売買契約を取り消すことができるでしょう。このとき、消費者契約法を適用すれば、民法の「詐欺」の場合のように事業者の故意などを証明する必要はありません。消費者にとっては、故意の証明をしなくてすむ分だけ、民法の詐欺で取消しを主張するよりも容易に取消しを主張できるのです。

 では、次の事例はどうでしょうか。こちらも考えてみてください。

【免責条項について考える】 スポーツクラブに加入しようとしたら、クラブの運営者から「クラブ内の施設利用中に生じた盗難、ケガその他の事故については、当クラブは一切責任を負いません」という規約を示され、契約書にサインを求められた。この場合、クラブ内の設備の破損によってケガをしても、その治療費などを請求することはできないのだろうか。

 「〇〇については一切責任を負いません」という条文は「免責条項」と呼ばれ、似たような書面をこれまでにも読んだことがあるかもしれません。もしこのような書面に同意してスポーツクラブに加入したなら、クラブ側の器材の破損が原因でケガをした場合であっても本当に損害賠償を請求することはできないのでしょうか。

 クラブ加入の際に会員規約を交付し、署名をもらっているのであれば、クラブと会員との関係は規約の内容によって規律されます。当事者が合意して契約を結んだ以上、一般的には契約条項に沿った合意があったものとみなされるのが通例です。しかし、事業者が消費者よりも交渉力があるため、消費者が自分にとって不利な内容の契約を強制されているようなケースが想定されます。

 そこで、消費者契約法の出番です。消費者契約法には「不当条項の無効」(8条・9条・10条)に関する規定があり、消費者契約法8条1項1号・3号は、事業者の責任をすべて免除する条項(免責条項)が含まれている場合には、その条項は無効になると定めています。このように、契約で用いられている契約条項の内容が不公正であれば、その契約条項は無効であると消費者契約法は定めているのです。ですから、この事例では、契約条項の無効を主張して治療費の請求をすることができるでしょう。授業においては、今回、取り上げた事例のうち、何が不公正であると考えられるのか、ぜひ話し合ってみてください。

 以上、2つの事例を考えてきました。消費者契約法は、事業者が不当な勧誘をして消費者が契約することを決意したときには、これを取り消すことができると定めています(4条)。また、契約で用いられている契約条項の内容が不公正であれば、この契約条項は無効であるとも定めています(8条・9条・10条)。いずれのケースでも、消費者契約法は、事業者が「不公正なことをして契約を結ばせることで利益を得ることを戒め、また、そのようなことがあったときは、消費者が権利をもつとすることで元の状態に戻れるようにしている」(註10)のです。消費者トラブルに遭遇した時、黙って待っていればいつか保護してもらえるわけではありません。消費者は不公正なことをしている事業者に対し、自らの意思に基づき権利を行使できるということをあらためて確認しておきましょう。

【5】おわりに:考察から実践へ

 今回は、契約の学習の最終回ということもあり、消費者法をテーマにした「公共」の授業をどのようにつくっていくかを念頭におきながら取り組んでみました。「契約自由の原則」という基本から出発し、なぜその修正が求められるようになり、労働契約法や消費者契約法などの新しい法律が制定されるようになったのか、このあたりの背景を少しずつ解明することで、社会の変化とそれに対する法的な対応についてより深く考えていくことができるような授業をつくることはできないかとチャレンジしてみました。

 本連載では、契約に関する細かな法律の知識をたくさん提供するというよりも、法的なものの見方や考え方を基本から身に付けられるように学習の手立てを考えてきました。もし、このレベルからさらにアクティブな学習を進めるとするならば、今度は実際に権利の行使の仕方を実践的に学んでいくことをお薦めします。たとえば、クーリング・オフを学んだならば、これを語句として暗記しておしまいとするのではなく、クーリング・オフを実践してみるのです。もちろん、実際にクーリング・オフを行うこともできますが、授業では模擬的な学習として行ってもよいのです。クーリング・オフの書面の書き方は、インターネット上で調べることができます(註11)から、記入例に従い、「契約の解除通知」を実際に執筆してみましょう。そこに何を書くべきなのか、自身の意思をどのように表明するのか、その手立てを考えていくのです。このような経験が、学校で学んだ知識と実社会の生活をつなぐよい機会になっていくことを期待しています。

 次回は、テーマをガラリと一新し、刑事法に取り組んでいきます。これまでと同様に、細かな法律の知識を身に付けるというよりも刑事法に関わる基本的な見方・考え方を取り上げていく予定です。それでは、次回もよろしくお願いします。

「公共」を教える・学ぶための参考文献

〇労働法と消費者法・消費者教育を中心に

  • 池田真朗ほか『法の世界へ〔第9版〕』(有斐閣、2023年)の第3章「雇用社会のルール」……「学生時代に労働法の基本的な体系や考え方を身につけることは、単なる知識の習得ではなく、自分の生活や未来を充実させるための最も有効な武器を獲得することになる」と説く本書は、高校の「公民科」から労働法の世界にスムーズに移行していくためのヒントを提供してくれます。

  • 浜村彰ほか『ベーシック労働法〔第9版〕』(有斐閣、2023年)……各章のはじめに学習内容をMAPで図解し、リード文に学習内容を要約して整理してくれています。本文も、具体的な事例をたくさん盛り込み、話し言葉で解説してくれますから、労働法の基本をわかりやすく学ぶことができます。労働法の全体像を掴むために便利な一冊です。「公共」の授業の教材づくりにも大いに寄与してくれるでしょう。

  • 森戸英幸『プレップ労働法〔第7版〕』(弘文堂、2023年)……法律の概説書は、正確性を期すあまり、どうしても抽象的で難解になりがちです。この点、本書は、具体例と歯切れのよい文体でポイントをきちんと押さえてくれます。他の本を読んではみたものの、もやもやしてよくわからないときに本書を読んでみてください。本文だけでなく、学習内容を補足するコラムも、学校の授業での話題提供に一役買ってくれるでしょう。

  • 坂東俊矢=細川幸一『18歳から考える消費者と法〔第2版〕』(法律文化社、2014年)……市場経済の仕組み、生産と消費、市場経済と公正な競争の解説から始まり、消費者の権利や消費者法の全体像を概観できる一冊です。経済と法の双方の関係からもアプローチできる構成になっているため、法律だけでなく経済についても学ぶ「公共」の授業では非常に便利な参考書となります。具体例も豊富に紹介しているため、教材づくりにも役立ちます。

  • 谷本圭子ほか『これからの消費者法――社会と未来をつなぐ消費者教育〔第2版〕』(法律文化社、2023年)……民法や消費者法を研究する著者が説く消費者教育のための参考書です。消費者法の解説だけでなく、私たちを取り巻く消費社会や世界がどのような課題を抱えているか、消費者法がなぜ制定され、どのような意義を有しているのかなど、これまでの歩みと現在の到達点までを示してくれます。著者の問題意識が打ち出されており、著者と一緒に問題に向き合っていることを実感できる本になっています。

  • 河上正二編集代表「消費者法研究」11号(信山社、2021年)……「消費者法研究」は、実務から研究までをカバーする専門的な文献ですが、第11号の特集は「成年年齢の引下げと消費者保護」を掲げており、教育関係者にとっても読みやすい内容になっています。成年年齢の引下げと消費者法、消費者教育を考えるためのさまざまな論点がいくつかの論稿やシンポジウムの記録で述べられており、消費者教育を進めていくうえでのヒントを得ることができます。

【註】

  1.  高嶌英弘「美容関連サービスの特徴と法規制」法学セミナー827号(2023年)38頁以下に美容関連サービスによる被害の実態と法規制による被害の救済についてわかりやすい説明があります。

  2.  川和功子「消費者法を学ぶみなさんへ」法学セミナー804号(2022年)15頁。

  3. 「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 公民編」(2018年7月)は、「消費者基本法や消費者契約法などを踏まえ、消費者の権利の尊重と消費者の自立支援の観点から考察できるようにすること」(58頁)とあります。また、契約の学習を取り上げる際に、次のような学習上の論点を掲げています。a.契約が対等な当事者の自由な合意となっているか? b.人々が対等な関係にないとき国家や法はどのような配慮を行うことが求められるか? c.個人や社会の紛争を法に基づいて公正に解決するためには、どのような仕組みが必要とされるか?

  4.  細川幸一『大学生が知っておきたい消費生活と法律〔第2版〕』(慶應義塾大学出版会、2023年)14頁。同書には、学生納付金不返還特約条項について「消費者契約法ができる前は、この条項を民法90条の公序良俗違反として消費者が裁判を起こした事例が多くありましたが、ほとんどの裁判で無効とはされませんでした。最高裁も公序良俗違反ではないとしました」との解説が付記されています。

  5.  細川幸一・前掲註4)7頁。なお、2000年に制定された消費者契約法は、具体的には、事業者の行為により消費者が誤認して契約を結んだ場合、契約の申込みや承諾の意思表示を取り消すことができるとの規定(4条)、事業者の債務不履行や不法行為に基づく損害賠償責任を免除する条項を無効であるとする規定(8条1項1号・3号)、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定したり違約金を定めたりする条項については一定の条件のもとで無効とする規定(9条1項1号)などがおかれました。

  6. 学納金返還請求訴訟判決・最高裁平成18年11月27日。もっと詳しい判決内容を知りたい方は、次のURLを参照してください。https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=33837

  7. 坂東俊矢=細川幸一『18歳から考える消費者と法〔第2版〕』(法律文化社、2014年)43頁〔坂東俊矢執筆〕。

  8.  坂東=細川・前掲註7)40頁に記されている事例をもとに紹介しています。

  9. 谷本圭子ほか『これからの消費者法――社会と未来をつなぐ消費者教育〔第2版〕』(法律文化社、2023年)74頁〔谷本執筆〕。

  10. 谷本圭子ほか・前掲註9)78頁〔谷本執筆〕

  11. クーリング・オフの書き方を解説するサイトはたくさんあります。クーリンク・オフ通知の記入例などを参考にしてください。例えば、「東京暮らしWEB」のURLは、以下の通りです。https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp/sodan/k_c_off/

【連載テーマ予定】

Ⅰ 「契約」の基礎  〔連載第1回~第3回〕
Ⅱ 「契約」の応用:消費者契約と労働契約を中心に
Ⅲ 「刑事法と刑事手続」の基礎と問題提起
Ⅳ 「憲法」:「公共」の憲法学習の特徴と教材づくり
Ⅴ 「校則」:身近なルールから法の教育へ

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