「ウグイス」第19話

小さなウグイスなら、なんと言うだろう。その幸せな世界には、小さなウグイスは存在するのだろうか。ぼくは?ぼくはどうなんだろう。そもそも、いったい、誰がそんな世界にいることができるのだろう?
ウグイスは、それからじっとそこにとどまり、そこから少しも動かずにいた。とても、とても長い時間がそれから過ぎ去っていった。その間に、何もかもが遠ざかっていった。見上げれば見つけられた、星も、月も、もうとっくにいなくなってしまった。ウグイスもまた、いなくなりかけていた。右の羽が先の方から少しずつ消えていった。それから、左の羽も同じように、少しずつ、静かに消えていった。ウグイスの、ウグイスだったものが、少しづつ少しづつ消えていった。ウグイスは、最初は少しそれが悲しかった。自分が少しずつ消えて、少なくなっていくと、自分がどんどんちっぽけなものになっていく気がした。そして、ついに、ほんのわずかなものだけが消えずに残った。どんなに時が過ぎても、それだけは、いつまでも消えずに残っていた。何か、きらりと光る、砂粒ほどの小さな、ほんのわずかなものだった。ウグイスは、それをしげしげとながめた。それは、気にもとめないような、ほんのわずかな、ささいなものだった。けれども、それをながめているうちに、それがなんなのか、どういうものなのかがウグイスにはわかってきた。それは、自分だけが手に入れることができたものだった。唯一であり、誰にも奪ったり、あげたりすることができないものだった。本当に、なんて小さいんだろう!ウグイスは思った。けれども、これ以上のものなどなにもないのだ、ということがウグイスにはわかっていた。 なんて小さくて、そして、なんて偉大なんだろう!ウグイスは、悲しみも、喜びも、すべてを雨のようにただあびることしかできなかった自分が、たったこれだけを手に入れるために生きてきたことがわかった。何もかもが、互い違いのそれらは、すべてが遠くで、あるいは、すぐ近くで、必ずつながっていた。それらは、どれもが密接で、どこにも切り捨てられない役割があった。そして、信じられないことに、ウグイスにとってそれらは、もはやどれもが大切なものになっていた。

 ぱたぱた、と羽音がして、何かがとなりに舞い降りてきた。
「ぼくはどうだった?」そこには、ウグイスが、かつての自分だったウグイスがいた。ぼくは、彼をまじまじと見つめた。自分を外から見るのは初めてのことだ。
こうしてウグイスをながめていると、その姿や、声や、たたずまいが、とても誇らしく感じられた。そして、そう思っていることが、ウグイスに言わずとも伝わっていることがわかった。ウグイスは、とてもうれしそうに、変な声で笑った。
「そうだろう!そう言うとわかっていたよ。だからぼくは選ばれたんだ!」
そう言うと、ウグイスは、ぱっと羽を開いて、高く、高く、飛び立った。
ぼくは、ウグイスが飛んでいくのを、いつまでも、いつまでも見送った。
ウグイスは、黒い点になり、やがて、その黒い点も小さく、小さくなっていって、そして、ついには見えなくなっていた。

https://note.com/hoco999/n/ne124877b1503

#創作大賞2023



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