「ウグイス」第16話

 そんなある夜のことだった。ウグイスは不思議な夢を見た。小さなウグイスが、空洞の木の入り口にとまっていたのだ。小首をかしげたり、中をのぞいたりしている。すると、突然、何かに驚いて、急いで飛び立つ姿が見えた。ウグイスは、必死になって追いかけようとした。その瞬間、ウグイスは目を覚ましてしまった。
ウグイスは、いてもたってもいられず、急いで巣穴の外へ行こうとした。巣穴から顔を出したとたん、突き刺さるような冷たい風が、びゅう!とウグイスの顔に吹き付けてきた。ウグイスは一瞬で凍りつき、思わず目を閉じて、おじけづいた。けれども、目を閉じると、そこには先ほど見た小さなウグイスの残像があった。ウグイスは、夢のことを思い出し、再び意を決して目を開けると、外の世界を見下ろした。なんと、さっきまであんなにふわふわと舞い踊っていたあの小さな綿毛が、今や、あたり一面に降り積もり、世界はその真っ白なふわふわの綿毛でいっぱいになっていたのだ。なんという寒さだろう!今までで一番寒い朝だった。ウグイスは、一度巣穴の中へ戻ると、まだすやすやと気持ちよさそうに眠っている子リスのところへ行き、ぴたりと寄り添った。
子リスは、ウグイスの冷たさに、一瞬ぶるりと震えたけれど、それきりそのまま目覚めもせずぐっすりと眠り続けていた。ウグイスは、小さなからだに温められながら、さっき見た夢のことを考えていた。夢が気になって仕方がなかった。あの木のところへ行けば、何かわかるかもしれない。ウグイスには、それ以外の方法が思い浮かばなかった。なんとしても、あの木のところへ行って確かめなければ。そして、少しずつ外が明るくなってきた頃、ウグイスは空洞の木へ行くことを決めた。そっと出て行こうとしたが、先ほどから様子をうかがっていたリスが止めて、猛反対した。あれはただの綿毛じゃない。雪っていうんだ、と真っ白になった世界を指差し、教えてくれた。あんまりあれに長いこと触っていると、かちかちに凍って、しまいには死んじまうぞ。リスは言った。ウグイスは、そんなリスに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。いつもこんな心配ばかりかけてしまった。けれども、これだけは唯一譲れないことだった。ずっと思っていた小さなウグイスが、初めて夢に出てきたからだ。
すぐに戻ってくるから、とウグイスはリスを安心させるように言った。
すぐだよ、どうしても今じゃなきゃだめなんだ。小さなウグイスがいるかもしれないんだ。リスがどんなに反対して説明しても、ウグイスは全く聞き入れなかった。リスはついに諦めた。ウグイスの意志が変わらないことを悟ったのだ。
「まったく、これだから羽のあるやつはよう」リスは泣きそうな顔で言った。

https://note.com/hoco999/n/n7999f69a3014

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