「ウグイス」第12話

 ウグイスは、はっとして目が覚めた。あたりはもうすっかり夜になっていて、月明かりが、静かに穴の中へ一筋差し込んでいた。ウグイスののどは、すっかり元に戻っていて、もうウグイスを苦しめてはいなかった。穴のすみでは、リスがすやすやと眠っているのが見えた。リスのかたわらには、しなびた薬草らしきものがころがっていた。ウグイスはふと、自分のそばに何かがころがっているのに気づいた。見ると、それは干からびたきのこだった。ウグイスは、干からびたきのこをまじまじと見つめた。きのこには、小さな穴が一つ、あいていた。

 次の日の朝、ウグイスはリスに昨日の夢の話をしようとした。けれども、それは話そうとすればするほど、さらさらと砂のように流れて消えてしまったので、結局、ウグイスはリスに何も話すことができなかった。リスは、きのこにくちばしサイズの穴があいていることに気づいていた。だから、こういった。
「よくあることだよ。まあ、治ったからよかったよ」
ウグイスは、ぼんやりと夢のことを考えていた。なにかとても重要なことがわかったようだったのに、それがなんだったか思い出せないなんて!それに、あれは本当に夢だったのかしら。夢じゃないような、変な感覚が残っていた。リスは、ぼんやりと物思いにふけっているウグイスを見て言った。
「またフクロウに聞けばいいじゃないか。あいつはお前を食べなかっただろう。また会いに行けばいいじゃないか」ウグイスは考えた。干からびたきのこを見つめたけれど、なにも思い浮かばない。
「ううん。もう聞かないよ」ウグイスは言った。「聞いてもわからないんだよ。ぼくには、教えてもらっても自分にはわからないことがあるって、わかったんだ」ウグイスは、そう言うと、自分の言葉にはっと我に返った。リスは、それを聞いてしばらく考えた後で「ふうん。そういうもんなんだな。おい、ところでこのきのこはもうすてるぜ」と言った。


すっかり体調が良くなると、ウグイスは近くの森へ散策に出かけた。
その日は静かな朝で、まだ陽の光も強くなく、草地は露の重みでところどころが垂れてくぼんでいた。ウグイスが枝にとまり、あたりを見回すと、離れたところに大きな木が倒れているのが見えた。近づいてみると、幹は空洞で、どうやら腐っていた木が、折れて倒れたものだった。ウグイスは、折れた木にとまると、中をのぞき込んだ。きれいな黄緑色のコケのじゅうたんが生えていた。雲の切れ間から太陽が顔を出すと、コケのじゅうたんはますます輝いた。ウグイスは、中をのぞきながら、しばしその美しさにうっとりしていた。まるで聖域だ。
ウグイスは、おずおずとコケのじゅうたんを踏みつぶしてしまわないか気にしながら、そっと中へと着地すると、幹の中を見回した。リスの巣穴とは違い、まだ、誰のにおいもついていない。「ほけっきょ」ウグイスは、ひとつ鳴いてみた。幹の中で、ウグイスの声が大きくなって響いた。ウグイスは、初めて自分の声をちゃんと聞いたので、イメージと違う自分の声に、ドキドキした。こんなにも自分の声がよく聞こえるなんて。ウグイスの目が輝いた。そうだ。ここなら、誰にも見られずに歌の練習ができる!ウグイスは嬉しそうに鳴くと、興奮して何度か羽ばたいた。ウグイスは、それからたびたびここへ来ては歌の練習をするようになった。ウグイスの歌は、相変わらずだったけれど、ウグイスは歌を歌うことが楽しくなってきていた。

https://note.com/hoco999/n/n51b653a1cb0e

#創作大賞2023


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