「ウグイス」第13話

「ほけっきょ、ほけっきょ、ほー、ほっけっ!」いつものように木の空洞で練習をしていたウグイスは、ふと、ウグイスの歌じゃないのも歌ってみようかと思いついた。どうせ誰も聞いていないんだ。なんでもいいだろう。
そう考えると、ウグイスは大きく息を吸って「ほほほけっ!ほほほけっ!きょっけー!」と鳴いた。そして、自分の自由な歌に思わず笑い転げた。
「あはは!へんなの!次はどんなかな?」そう言うと、ウグイスはそれから自由に思いつくままに歌い続けた。最初はぎこちなくて、つっかかるようだった歌は、だんだんとなめらかで自然なメロディーになっていった。
「ほー、ほけっきょ、けっきょ、けっきょ、けっきょ、ケケケケケ…」ウグイスは、ふと何か思い出しそうな気持ちになって、歌うのをやめた。すると、頭上から「チチチッ」と話しかける声が聞こえた。ウグイスは驚いて上を見上げた。すると、木の上から一羽の小さなウグイスがのぞき込んでいることに気づいた。「こんにちは」小さなウグイスが言った。高くて透き通った、朝の空気みたいにきれいな声だ。ウグイスは、すっかりはずかしくなってしまって、だまりこんでしまった。小さなウグイスは、ウグイスが何か話すのを待っていたが、ウグイスがうつむいてしまったので、再び話しかけた。
「歌が聞こえたから、つい、のぞいてしまったの」小さなウグイスは少し気まずそうにしてから、さらに続けて言った。「あなたの歌、すごくすてきだったから、つい」ウグイスは驚いた。「なんだって⁉︎」ととっさに言葉を返してしまった。それから、あわてて「いや、いいよ、そんなこと」とごにょごにょとつぶやいた。「ぼくだって、自分の歌がひどいことくらい、よくわかっているんだ」そう言ってしまってから、ウグイスはますます恥ずかしくなってしまい、まただまりこくってしまった。
「ひどい?どうして?」小さなウグイスは、ぱたぱたっと羽ばたくと、幹の中へと降りてきた。ウグイスは、ぎょっとして急いでわきへよけ、陽の差していない所へうつった。小さなウグイスは、真ん中へと降り立った。「もしかして、わたしがお世辞を言ったとでも思ったの?だとしたら、大間違いよ。第一、わたしはそういうのが好きじゃないの。わたしは、すごくすてきだと思ったから、そう言ったのよ。あなたの歌、まるで、自己紹介しているみたいだった。あなたがどんなふうだかわかるような、そんな歌。だから、つい聞いていたくなったの」
小さなウグイスは、真っ直ぐにウグイスを見てそう言った。ウグイスは戸惑っていた。この小さいウグイスは、いったい何を言っているのだろう。
「よくわからないな」ウグイスは、小さなウグイスから目をそらしてから、なんとか言い返した。「ウグイスの歌が歌えてないんだから、歌が上手なわけがないよ」ウグイスは少しむきになっていた。それを聞いた小さなウグイスは、笑いながら無邪気に言った。
「それって本当?」ウグイスは、どきり、とした。そんなふうに考えたことなど一度もなかった。急にそんなことを言われて、ウグイスはますます何も言えなくなってしまった。沈黙が続き、ウグイスが気まずくなってきた頃、ふいに小さなウグイスが歌った。
「ほー、ほけきょっ!」なめらかで、高音で、細くて美しい声が木の幹の中に響いた。
「きみ、歌えるんだ!」ウグイスは驚いた。小さなウグイスは「歌えるわ。でも、歌えるだけよ」と言った。あまり、大したことではない、といったようすで、楽しそうでもないようだった。
「あまり歌うことはないわ。わたしはからだが小さくて、弱いから。いつも周りに注意していないと危険なの。わかるでしょう?こんな歌を歌っていたら、自分がどこにいるか教えてしまうようなものよ。だから、歌えるけど、ちょっとだけ。誰もいないところでね。そう、あなたみたいにね!」ウグイスは、小さなウグイスの話にとても驚いていた。そんなことがあるなんて。ウグイスの歌が歌えるのに、歌わないなんて。
「それは残念だね。きみの歌はとても美しいのに」ウグイスは、無意識につぶやいていた。「残念?わかんない。でも、そうなのかもね」小さなウグイスもまた、つぶやくように言った。それから、小さなウグイスは言った。
「でも、いいや、って今日なんとなく思ったわ」ウグイスは、小さなウグイスを見つめた。不思議な感覚だった。どこかで会ったかしら?森で?どうしても思い出せないけれど、どこか懐かしい気がしてならなかった。すると、突然、小さなウグイスは、パッと飛び立ち、木の淵に立つと辺りをうかがった。
しばらく周りを注意深く見回し、何もないことを確認すると、ウグイスを見下ろして言った。「またね。でも、ここは危険よ。場所が低すぎる」小さなウグイスは、チチッと何やらつぶやくと、そのまま飛び去ってしまった。

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#創作大賞2023



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