「ウグイス」第14話

 その日以来、ウグイスは毎日空洞の木へ通い過ごしたけれど、あれから小さなウグイスに会うことは二度となかった。もう、忘れてしまったのかしら?それとも、またね、と言ったけれど、本当は二度と会いたくはなかったとか?
ウグイスは、色々と考えたけれど、結局何もわからないのだった。
ウグイスが小さなウグイスのことを思うと「それって本当?」と言った小さなウグイスの顔が何度も思い出された。
「それって本当?」ウグイスは、つぶやいてみた。
小さなウグイスの笑った顔が、目に浮かんだ。
もちろん、小さなウグイスのことはリスの知るところとなった。ウグイスが毎日出かけては、元気なく戻ってきて、毎夜ぼんやりと夜の世界にひたっていたからだ。
「何か食ったな」ある日、リスは言った。ウグイスは、あわててあれ以来きのこは食べていないことと、小さなウグイスのことを話した。小さなウグイスとの出会いを聞いて、リスの目はきらりと輝いた。けれども、それから一度も会っていないとウグイスが話すと、何か難しい顔をして、前歯をゴシゴシかいたり、頭や尻尾の毛をとかしたりしていた。結局、リスはそのことには何も触れず「よかったよ。また、変なもの食ったのかと思ったよ」と言った。

 その日、いつものようにウグイスが空洞の木へ着くと、いつもと様子が違っていた。なんと、コケのじゅうたんの上には、真新しい、小さなわらの巣ができあがっていた。ウグイスは驚いた。なんと、巣の中にはもう、小さなたまごが3つあったのだ。いつの間に作ったんだ!それから、ウグイスは、小さなウグイスが言っていたことを思い出した。ここは、低くて危険すぎる、と。
どうしようか…。ウグイスは、一度木から離れて辺りを見回した。母鳥が近くにいるかもしれない。自分がここにいては、警戒されるだろう。ウグイスは、離れた場所に落ち着くと、空洞の木を見守った。しばらく何事もなく時は過ぎ、ウグイスがうとうとしかけた時、突如茂みの中から何かがこちらへ近づいてくる気配がした。ウグイスは、すっかり目を覚まし、それが姿を表すのを見た。それは、一匹のキツネだった。キツネは、そのまま空洞の木を通り過ぎるかと思ったが、何かのにおいを感じたのか、突然、滑るようにすばやく空洞の木へ近づいた。ウグイスの心臓は、キツネに聞こえてしまうのではないかというくらいに、ウグイスの中で早く、大きく打ち響いていた。キツネは、木の中をのぞき、頭を空洞の中へとつっこんだ。やがて、キツネが去ったあと、しばらく時間を置いてからウグイスはおそるおそる空洞の木をのぞいた。わらの巣は何かに引っ張られたようにかたちが崩れていて、たまごは3つともきれいになくなっていた。ウグイスは、おそろしくなり、すぐさまさっきいた木へ飛び戻った。その時、すぐ近くで鳥が飛び立つ音が聞こえた。母鳥だろうか。ウグイスは、周りを見たが、もうそれらしき鳥はどこにもいなかった。戻っていたのか。母鳥も、一部始終を見ていたのかもしれない。ウグイスは、母鳥のことを思い、心が沈んだ。
たまごから生まれることもなく、こんなに短い時間だけ、この世に存在して終わってしまういのちもあるのだ。何もできなかったな。ウグイスは、帰路につきながら思った。いったい、なんのために自分は見ていたんだろう。

https://note.com/hoco999/n/n78aaa5b0e040

#創作大賞2023



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