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掌編小説マガジン 『at』

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掌編小説マガジン at(あっと)。 これまで、ななくさつゆりがwebに投稿した掌編小説を紹介していきます。 とりあえず、100本! ※2024.6.18 いったん目標の記事10…
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2024年3月の記事一覧

情景233.「道ひとつ挟んだ向こう」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「道ひとつ挟んだ向こう」です。 はじめて通る道が好き。 晴れた土曜日の裏通りとか。 いつからだったかな。 学校の帰り道とか、駅から家に帰るまでとか。 通ったことのない道を通ってみたくなっちゃうんですよね。 そういう感覚、ないですか。あると思う。ありますよね……? 通るときはたいてい人通りもなく、日が通っていて風だけが吹いているような、そんな穏やかな通りになっている場合が多かったような。 歩いて通り抜けたり、

情景60.「狐の瞳」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「狐の瞳」です。 光のゆらぎ。 水のゆらめき。 火のぐあい。 目を瞠る瞬間というものに気づく。これが思いの外きもちいい。 これを偶然という言葉で片付けていいものか、というのは一旦置いておくとして。 天気だったり、時間帯だったり、場の温度や湿度だったり、その場にたまたまいた自分だったり。 そんないくつかの要素がたまたま重なることで作用する一瞬の出来事。 もしくはそこで起きたことの気づき。 そういうものに気づ

情景225.「水の都」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「水の都」です。 春に和やかなデートの情景。 長崎県の奥の方、島原城下に渡る街。遠くを見やれば普賢岳。 私が、“湧水群”という言葉をはじめて知った場所。 人に歴史あり、街に歴史あり。 眺めて私が思うのは、“お堀に歴史あり”。 水源を見つけ、人を呼び、測り、掘って、石を詰め。 水を流し、街に通す。 人も地べたも、水がなければあっという間に干上がります。 水場に人が集まることもあれば、人が集まる場所まで水を引

情景235.「早春の小昼」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「早春の小昼」です。 他愛のない日常のこと。 肩の力を抜いて眺める、晴れた日の情景。 また学生をやれるなら、カフェのバイトをしたいかなァ。 みなさん、アルバイトは何をされてました? 私の場合、学生時代にいくつかアルバイトをしていて、どれも接客業だったかな……飲食店とか、ウェディングのホールスタッフとか。 今は働き方も多様性の時代なので、年齢や性別を問わずいろんなことにチャレンジできます。 それこそ本業とは別

情景229.「陽だまりをまとうように」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「陽だまりを纏うように」です。 ふと、気づく。 いつの間に、こんなに大人になっていたのだろう。 身にまとう雰囲気が柔らかくて、暖かくて、大人びていた。 ひとの成長に目を見張る三月の午前中。 三月に入り、それまでの張り詰めるような冷たい空気が少しずつ和らいでいきます。 すると、雰囲気にアテられたのか、心にも少し余裕が出てきて、それまで気づかなかったことに気づいてしまうこともある。 ……ありませんか。 私は、あ

情景230.「花粉症ではない」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「花粉症ではない」です。 花粉症ですか。 いえ、花粉症ではないですね。 そんなやり取りを繰り返す季節がきました。 ちなみに私は……花粉症ではないですね! 単に、鼻がツンツンするだけです。 私は花粉症ではありません。 単に、春になると鼻がツーンってなったり、たまに目がかゆくなったりするくらいで、花粉症ではありません。 「いやそれ、花粉症ですよね?」 それは呪いの言葉です。 単に鼻がアレなだけです。 なんて

情景234.「乳白色のレンガ」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「乳白色のレンガ」です。 お菓子作りに初挑戦。 バターと砂糖の量に最初はビビりつつ、食べるのは一瞬。 「大丈夫。すぐに慣れるから」 ……何に? そういえば、先日はホワイトデーでしたね。 最近はバレンタインもホワイトデーも、形式ばった「お菓子を渡す日」というより、その日にちなんだアクティビティで、その日自体を楽しむような、そんなコト発信的なイベントでゆるふわに親しまれている感じがしますね。 バレンタインは女子

情景190.「氷の張る上に」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「氷の張る上に」です。 アスファルトにうっすらと張った朝の氷溜まり。 踏めば“パリッ”と、音がする。 晴れているのにとんでもなく冷めてる朝ってありますよね。 もう3月だというのに2月中旬くらいの話題で恐縮ですが、 「あぁ、これ朝積もってるな……」 「ああ、これ積もらない系の雪だな」 なんとなく、そういう直感が働く夜ってありますよね。 最近は天気予報の精度もどんどん高くなっていて、翌日の天気くらいならたいてい

情景49-50.「送り雪」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「送り雪」です。 浅い春のなごり雪。 出立する子を見送るために車を走らせる親。 送る人のそばに舞う、ちりのような。 晴れているのに、粉雪が舞っている。 まれにある不思議な天気です。 おかげで空気はつめたくて、ダウンジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、玄関を歩いて駐車場へ。 見送る人に寄り添うように。 そういうふうに舞うから、“送り雪”。 そんな情景をこの掌編にしたためました。 余談ですが作中では、

情景06.「待ち合い」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「待合い」です。 駅のホームとかバス停とか。 もはや根付いてしまった光景。 正直、どう思います? 私はもう、また新しい端末が登場するまで、このままなんじゃないかなと。 電車で新聞を読むひと。 バスで小説を読むひと。 イヤホンで音楽を聞くひと。 飛行機でタバコを吸っていたひと。 時代の流れ。 技術の革新。 時の流行り廃りに沿って、通勤通学時のスタイルは変わっていきます。 そのスタイルの中で、たまたま台頭して

情景35.「車窓。夕の家並み【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「車窓。夕の家並み」です。 “がたん、ごとん” “タタン、タタン” 多様なオノマトペで語られる、馴染み深いあの音をそばに。 こちらの掌編を読んでくださった方から、 という、とてもありがたいお言葉をいただけました。 馴染みある空間。 色や匂いを想起させる雰囲気。 共感性を誘ってくれるもの。 読んでいて情景がフィットするとでも言うような、そんな感覚を読んで拾っていただけた。 とても嬉しいことです。 電車が

情景219.「春にはまだ早い」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「春にはまだはやい」です。 先日、急に暖かくなりました。 翌日、また寒さが戻ってきました。 季節の移り変わりの中にまじる感じ、匂いのようなもの。 ただ、春にはまだ早い。 私たちは時を季節で区切って生きていますから、その時々で目にするものを、つい季節感や風物詩という風に捉えてしまいます。 とりわけ「春」には、何かと意味をもたせがち。 一瞬のうちに、ほわっと芽生えるなにか。 浮き上がるように嬉しいもの。 ちょ

情景05.「朝、鏡の前に立つ男」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「朝、鏡の前に立つ男」です。 この小話は、掌編小説集『あなたが見た情景』において、もっとも文字が少ない掌編小説です。 もはや詩。 101文字の掌編小説。 作中の彼に名前はありません。 それだけでなく、年齢不詳で、職業も定めておらず、髪型も色も示しておらず、寝起きなのか起きていくらか経っているのかも判別つかず、寝間着なのかスーツなのかもわかりません。 決まっている情景の要素は、「鏡の前に立ってヘンな顔をした