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掌編小説マガジン 『at』

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掌編小説マガジン at(あっと)。 これまで、ななくさつゆりがwebに投稿した掌編小説を紹介していきます。 とりあえず、100本! ※2024.6.18 いったん目標の記事10…
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2024年1月の記事一覧

情景63.「乾いた記憶。野晒しの部屋」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「乾いた記憶。野晒しの部屋」です。 「野晒しの部屋」という言い方が合っているのかは、まァ、どうなのでしょう。 ただ、今っていろんなところにこういう風化しそうな部屋……もとい“空間”があるんじゃないかって、そう思ったんです。 じっと、佇むように。 「野晒しの部屋」、もしくは「忘れられた部屋」。なんて言うと、なんだかハリーポッターに出てきそうな字面ですね。 ただ、私がそういう場所に出くわすとき、そこがかつて躍動

情景80.「朝の気忙しさ」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「朝の気忙しさ」です。 朝、起きて。寝間着のままリビングに顔を出す。 朝ごはんの支度をしている。テーブルを拭いている。 出汁のきいたお味噌汁の香りが立った。 そんな情景。 朝の独特な慌ただしい感じ。 ありますよね。 平日の朝って、どうしてあんなに時間がないのでしょう。 またたく間に時間が過ぎてしまって、慌ててご飯を食べて家を出る、みたいな。 それも、土日になれば、朝の空気はどこかのんびりしたものに。 その

情景197.「篠突く雨の夜」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「篠突く雨の夜」です。 白状します。 「黒洞洞」というフレーズを使ってみたかったんです。 ただ、夜と雨と電灯の組み合わせは情感を醸すのにとても好いなと思いながら書いていました。 何も見えないところに、むしろ何かを感じる。 そういう感じってありますよね。 空間の奥行きとか、静けさの中にさわさわとする感触とか。 かえって落ち着かない。 暗がりと雨音にそんな感覚を抱いてしまうなと思ったのをきっかけにして、それをか

情景201.「雪上に響く音」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「雪上に響く音」です。 雪国の朝。 「まるで共感できない」は、実際に言われたことがある。 馬は間近で見て触ったこともあるけど、乗ったことはない。乗ってみたい。 以前、旅行で長野に行ったとき、ゲレンデの近くに馬小屋があって、何頭かの馬をじーっと見物させてもらったことがあります。 そのときに目て見て触った経験が、現時点の私の馬に関する実感の大半を占めています。 馬がじゃれている光景を目にして、ふと思う。 「音

情景215.「未明に灯る斜光」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「未明に灯る斜光」です。 未明って、いつから未明? ともあれ、あのひとたちの朝はとてもとても早い。 早朝のお散歩。 ときに、夜明け前に目が覚めてしまって、いつもより元気があるからちょっと出歩いてみよう、みたいな。 (夜明け前ならすっぴんでもまァ大丈夫だよね……!) そんな朝があったとして。 私は低血圧で起きぬけはかなり好不調に波があるのですが、それでもふいにそんな気分になります。 歩いていけるくらいの近

情景162.「坪庭に降る寂光」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「坪庭に降る寂光」です。 実、落ちれば育つこの風土。 なんて、格好いいことは言えないけれど、そんな風に思えた夕暮れの庭。 世間では、ぼんやりと庭を眺める、という行為自体が最近はレアというか、あんまりやらなくなっているのかもと感じます。 実家に和室(畳の部屋)があって、そこからちっさいちっさい庭をよく眺めているのですが、普段暮らしている福岡市内のマンションには庭なんてありませんし。 ただ、 こういう風に感

情景204.「朝の里雪」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「朝の里雪」です。 朝と雪の情景。 ふだん雪が降らない地域だと、朝起きて雪が積もっている衝撃とはなかなかのものなのです。 ついうれしくなるというか。 雪って、降ったらうれしいですよねぇ! 積もれば気持ちは浮き上がるようです。 という、九州人の感覚。 福岡も糸島も雪がまったく降らないというわけではないのですが、(山の方は結構積もる。糸島なら雷山のあたりとか)やっぱり雪が降り出すと「おっ」ってなりますね。 よ

情景200.「時津風、晴れた先」【掌編小説 at カクヨム】

今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「時津風、晴れた先」です。 時津風(ときつかぜ)とは、いい頃合いに吹く風のこと。 ふと見上げたとき、見えない風が山頂の雲を晴らす。 その瞬間を切り取るように。 私の田舎は福岡の西の方にある糸島という地域です。 田舎ですが、歴史あり海あり山あり川あり食べ物あり公園あり何より福岡市の隣ということで、居心地のいいまちです。 先日まで帰省していて、今日また福岡市内の方に移動してきました。 帰省したら必ず散歩をする

🎍謹賀新年🎍 情景199.「元日の風気」【掌編小説 at カクヨム】

謹賀新年。 みなさま、あけましておめでとうございます。 ななくさつゆりです。 さっそく、2024年最初の掌編のご紹介です。 今回ご紹介する掌編小説は、カクヨム投稿の『あなたが見た情景』から「元日の風気」です。 元旦の朝は忙しくなく、家中はガヤガヤ。 なのに、いつもの散歩道はとても静かで、澄んだ空気が流れています。 その時の“感じ”。 この風気が、なんだか好きなんですよね。 お正月の過ごし方はそれぞれだと思いますが、私のまわりの空気感はだいたいこんな感じです。 ワイワ