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丈の足りないカーテン

「もしもし、お母さん。今、引っ越し屋さん帰ったわい。」

「そうけ。ちゃんと、ペットボトルのお茶渡して、だんだん、言うたかい?」
(※だんだん:ありがとう)

「うん、言うたわい。
 そういうのはちゃんとできるけん。
 ねえ、お母さんが、家にあるの持って行けっていったカーテンじゃけんど、やっぱり、丈が足らなんだわい。」

「そうかい、かまん思うたんじゃけどのぉ。お母さんが使うとったの大切に取っといたものなんじゃけどのぉ。」

「しばらくつけとくけんど、買いに行かないけん。
 せっかくじゃけんかいらしいの買う。
 さっそくだけんど、郵便受にCMでようみてた、Uber Eats のチラシが入っとったんよ。都会は違うねえ。
 早速、明日のお昼に頼んでみよかな。」

「ハイカラじゃのぉえ。お金は大切に使うんぞな。」

「わかっとるって。じゃあ、今日はえらいし、もう寝よわい。おやすみなさい。」

「おやすみ、瑞穂。」

 まだ生活感のない箱のような部屋の静寂の中で、瑞穂は、すぐに眠りについた。

 朝、窓からの光で目が覚める。
 少しだけ丈の足りないカーテンから漏れてくる光が、ひとり暮らしの始まりを、陽だまり変える。
 瑞穂の新しい生活が確かに始まった。

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