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該非判定でサラリーマンが直面する試練【裁判例】

該非判定という仕事は耳にした事はあるでしょうか?
簡単に言うと、輸出する時の法律チェックです。

輸出しようとする貨物、または提供しようとする役務(技術)が法令で規制されているものであるか否かを判定することを該非判定といいます。 該非判定の具体的な確認方法としては、経済産業省の安全保障貿易管理のウェブサイトに掲載されている「貨物・技術のマトリクス表」で確認します。

JETRO

正確な法律判断を求められる仕事で、世の中のサラリーマンを苦しめる仕事の一つです。

厄介なのが、難解な上に解釈をミスって必要な手続きをせずに輸出すると、外為法違反でトンデモ金額の罰金や懲役刑が科せられます。

具体的にどんな厄介さがあるのか、想像し辛いと思います。

そこで、裁判例という先人が残した記録を見つけたので、読み解いていきます。

運用通達の解釈

後述する裁判例の争点の一つです。

「輸出貿易管理令の運用について」という経済産業省が出した通達を運用通達と言います。

https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/tutatu/26fy/unyou_tsutatsu.pdf

実際の文書はこんな感じ。
運用通達は、外為法の多重構造の中の一番下の部分であり、法律の細かい解釈について解説しています。

外為法>輸出令>貨物等省令>運用通達

外為法:骨格
輸出令:規制する貨物を定める
貨物等省令:規制する貨物のスペックを定める
運用通達:解釈を定める

「他の用途に用いることができるものを除く。」

「部分品若しくは附属品」の該当性の除外要件について、運用通達で定めた文言です。
ここが裁判の争点となります。

貨物のマトリクス表 5項


令和元年(う)第101号 関税法違反,外国為替及び外国貿易法違反被告事件

原審 広島地方裁判所 平成29年(わ)第232号

概要

控訴棄却: 広島高等裁判所は、被告の控訴を棄却。
違反内容: 被告は、核兵器開発に使用される可能性が高い炭素繊維製造装置の部品を、中国に許可なく輸出。
法令解釈: 裁判所は、これらの装置の部品が輸出規制の対象であると判断。
故意の認定: 被告が違法行為を故意に行ったと認定された。

 

裁判の主な争点

法令の解釈適用の誤り: 原判決が、輸出貿易管理令に基づく貨物の定義や適用について誤った解釈をしたと主張。
事実誤認: 原判決が、被告人に関税法違反や外為法違反の故意があったと認定した点について、事実誤認があると主張。
専用性の要件: 輸出された貨物が特定の用途にのみ使用されるものであるかどうかについての判断が争点となる。
証拠の信用性: 証人の証言や証拠の信用性についても争われる。

 

第一審の判決に対し、高裁が「違う、そうじゃない」と法令の解釈をガチ解説を加えた上で棄却した裁判例でした。

高等裁判所による運用通達の解釈説明

結論、運用通達は、絶対に把握して該非判定を行わなければならないという事です。
原文は超長いので、先に要約します。

輸出規制の対象: 本件各貨物が「国際的な平和及び安全の維持を妨げる」と認められる特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物であり、核兵器等の開発に用いられるおそれが特に大きい貨物として政令で定められていることが必要。

専用性の要件: 輸出貿易管理令の運用において、他の用途に用いることができるものを除くという基準が示されています。この基準は、法令には明記されていないが、実務上定着している。

MTCRガイドライン: ミサイル技術管理レジーム(MTCR)のガイドラインに基づき、特に設計された部分品や附属品が規制対象となる。

具体的な適用: 本件各貨物が他の用途に用いられる可能性が具体的、現実的でない場合、専用性が認められ、輸出規制の対象となります

 

ポイントは、運用通達は法令に明記されていない事項ですが、実務上定着しているものであり、法令解釈として正当なものであるという事です。

そしてここが最も重要ですが、この解釈をするにあたり、「他の用途に用いられる可能性が具体的、現実的」である必要があるという事です。


以下、原文です。

1 関係法令の解釈について
⑴ 原判示の各行為に本件罰則の一つである外為法69条の6第2項2号(平成29年法律第38号による改正前のもの。以下同じ。)を適用するには,本件各貨物が「国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物」(外為法48条1項)であり,かつ,「核兵器等又はその開発等のために用いられるおそれが特に大きいと認められる貨物として政令で定める貨物」(外為法69条の6第2項2号)に該当することが必要である。

そして,前記各法条の委任を受けた政令である輸出貿易管理令によれば,「複合材料,繊維,プリプレグ若しくはプリフォームの製造用の装置又はその部分品若しくは附属品」のうち,「経済産業省令で定める仕様のもの」,すなわち,「複合材料,繊維,プリプレグ若しくはプリフォーム(ペイロードを300キロメートル以上運搬することができるロケット又は無人航空機に使用することができるものに限る。)の製造用の装置であって,重合体繊維から他の繊維を製造する装置又はその部分品若しくは附属品」については,外為法69条の6第2項2号に該当するものとされている(輸出貿易管理令13条[平成29年政令第195号による改正前のもの。以下同じ。],同令別表第1の4の項(10),輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令[以下「本件経済産業省令」という。]3条11号二の㈠)。

もっとも,輸出貿易管理令については,経済産業省により発出された「輸出貿易管理令の運用について」との通達(昭和62年11月6日付け62貿局第322号・3輸出注意事項62第11号。以下「本件通達」という。)において,輸出貿易管理令で定められた繊維等の製造用の装置等の「部分品若しくは附属品」の該当性の除外要件として,「他の用途に用いることができるものを除く。」との基準が示されている。

本件通達は,法令の委任を受けた前記政省令と異なり,その性質上,行政庁内部の運用基準にとどまるものであるが,事実上,経済産業省のホームページに掲載されるなどして公表されており,「他の用途に用いることができるものを除く。」との要件については,行政庁の担当部署のほか,業界の関係者においても,「専用性の要件」と呼ばれ,周知の事項となっていることがうかがわれる。そして,外為法や輸出貿易管理令の貿易管理実務の運用に当たっては,この要件を前提にした運用が,相当程度,定着しているものと認められる。本件通達で示された運用基準は,法令には明記されていない要件を課すもので,いわゆる限定的解釈に属するものであるところ,本件通達の発出の経緯については,原審記録上,必ずしも明らかではない。この点についての当審における事実取調べの結果によれば,その経緯は次のようなものであったとうかがわれる。すなわち,本件に関係する外為法の輸出規制は本来,1987年4月に発足した日本のほか34か国が参加するミサイル技術管理レジーム(Missile Technology Control Regime。以下「MTCR」ともいう。)の下に,参加国は,MTCRガイドライン及び附属書に従って各国が制定した国内法令により規制を行うこととされた規制指針に基づき,整備された国内法規定であることが認められる。そして,前記レジームで合意された「MTCR附属書」では,本件規制の対象となる装置の部分品若しくは附属品について,英文で,「specially designed components, and accessories」として,「specially designed(特に設計された)」という修飾文言が付されており,かつ,同附属書の冒頭の「3.用語の説明(a)」で,その文言の意味として,「あらかじめ定められた特定の目的のために独特な特質を有しているもの」とされ,「例えば,ミサイルに使用されるため『特に設計された』装置とは,それ以外の用途又は機能を有しない場合にのみ,そのように見なされる。」などとされている。国内法化に当たり,「specially designed」に相当する要件は,法規たる法律,政令,省令中には規定されず,いわば法規に代替して本件通達により行政庁内部の運用基準として示されるところとなったものと考えられる。このような「専用性」の要件を課すことによる限定的解釈に基づく運用自体は,前記レジームで合意された「MTCR附属書」を受けてのものであり,取り分け罰則に関する法令の解釈適用において,同附属書の趣旨に従い限定的解釈を施すことは,経済活動の自由を保障した憲法や,その制約を必要最小限にとどめることが望ましいとする外為法1条,47条の趣旨をも踏まえたものとして合理性があるといえる。

⑶ 前記「MTCR附属書」を踏まえると,輸出貿易管理令別表第1の4の項(10)及び本件経済産業省令3条11号二の㈠が定める「複合材料,繊維,プリプレグ若しくはプリフォーム(ペイロードを300キロメートル以上運搬することができるロケット又は無人航空機に使用することができるものに限る。)の製造用の装置であって,重合体繊維から他の繊維を製造する装置又はその部分品若しくは附属品」の規定は,前記附属書のカテゴリーⅡ品目6の6.B.1.の「完全なロケットシステム又は無人航空機システムであって,少なくとも500kgのペイロードを少なくとも300kmの射程距離まで運搬する能力のあるもの)に用いることが可能な構造複合材料,繊維,プリプレグ又はプリフォームを『生産(製造)』するための装置(重合体繊維を転換するための装置で,加熱時に繊維に張力を加える特別な装置を含むもの。),ならびにこれらのために特に設計された部分品及びその付属
品」に対応して国内法化された規定であるといえる。このうち,「これらのために特に設計された」の該当部分は国内法化に当たり法令中に規定されずに本件通達により運用基準として示されたと考えられることは前示のとおりである。「特に設計された」とは,「MTCR附属書」で前記のとおりの解釈が示されているところであって,本件通達の「他の用途に用いることができるものを除く。」との専用性の要件は,上記解釈を比較的忠実に表現したものと評価でき,それ自体は行政庁内部の運用基準にとどまるとはいえ,輸出貿易管理令別表第1の4の項(10)の「部分品若しくは附属品」の範囲を限定する法令解釈として正当なものといえる。すなわち,問題となる貨物が,製造用の装置の部分品若しくは附属品として輸出規制の対象となるには,「輸出貿易管理令別表第1の4の項(10)に規定されているような『装置』の部分品ないし附属品としての用途以外の用途に用いることができるものに該当しないこと(以下「専用性」という。)」を要すると解するのが相当である。

そして,この専用性については,その限定的解釈の趣旨が,ミサイルに関する技術の拡散という公益目的と経済的自由の保障との調整にあることからすれば,専用性が否定される場合としては,当該貨物が他の用途にも用いられる可能性が,単なる抽象的,理論的なそれにとどまらず,具体的,現実的なものであることを要するというべきである。このような観点からは,少なくとも,当初から,輸出貿易管理令別表第1の4の項(10)の「装置」の部分品ないし附属品という特定の用途のために特に設計・製作された物品については,その製作目的と相まって,構造・仕様,機能・性能において独特な性質を有しているのが通常であり,他の用途への転用の可能性は具体的,現実的なものではなく,原則として専用性の要件を充足するものと考えられる。

令和元年(う)第101号 関税法違反,外国為替及び外国貿易法違反被告事件
第2 法令の解釈適用の誤りの論旨について


裁判の結末

被告が輸出品は他の用途に用いられると主張するも、裁判における専門家の検証で、「他の用途に用いられる可能性が具体的、現実的」とは認められませんでした。

他の用途に用いることができるものを除くという基準は、自分の都合のいいように解釈して良い訳ではなく、具体的に示せることが必要です。
該非判定を行う上で、具体性を突き詰めておかなければなりません。

現実

仕事の納期が迫っていたり、商談成立にノルマが掛かっていたり、時間の制約があります。

しかし時間がないからと言って、「他の用途でも使えるからいいだろう」とよく確認せずに輸出を進めれば、この裁判と同じ結末を迎える事になります。

本当に具体的に示せるくらい確認したか?

時間の制約の中、サラリーマンに課される試練です。

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