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久しぶりに正社員になった話

【初めての転職について振り返っているだけの雑文】

 先日、久しぶりに正社員になった。

 ――2022年4月。私は転職した。
 人生の節目である。

 きょうび、転職程度は騒ぎ立てるほどの出来事でもなくなったと思うのだが、私の場合は一大事であった。なんといっても、人生初の転職である。のみならず、前職の勤続年数は10年を超えていた。

 実のところ、前職で骨をうずめるつもりでいた。新卒で正社員として入社。部署異動も担当変更も経験した。定年までずっと勤めるものだと信じて疑わなかった。

 就職してすぐの頃、お客様と関わる最前線で働いていた。いろいろあって、身体と心を壊しかけた。けれど、根本的にはその仕事が好きだった。たぶん、好きすぎたのだろうと思う。
 しばらくしてから、最前線の少し後ろに下がった。裏方として働くほうが性に合っていることに気がついた。そこでしか見られない景色もあった。縁の下とはいえ、そこが最前線の一部であることには変わりなかった。その縁を支えていることが誇りだった。辛いこともそれなりにあったが、そうはいってもたぶん、仕事は好きだった。

 私は変化を好まない性質だ。環境の変化は受け入れるが、自ら変えることはあまりしない。
 10年も働き続けると、環境は当然変わる。当たり前のようにそれを受け入れて、ときには呑み込んで、過ごしてきた。

 けれどその年。
 大きな変化が立て続けに起こった。

 喜ばしくはない変化だった。そのとき思った。思ってしまった。
 ああ、もう、ここに居てはいけないな、と。

 会社への未練が無いわけではなかった。悩みながら、転職活動を始めた。12月初旬のことである。年度内は勤めきるつもりでいたので、4月入社一択であった。それまでに決まらなければ、潔く続けるつもりでいた。

 転職エージェントに相談したところ、私の希望条件では厳しいだろう、と言われた。そうだろうな、と私も思った。当然だ。解っていた。良くも悪くも年功序列の会社である。積み重ねた勤続年数の分だけ、それなりの待遇が得られていた。まして私の経験やスキルは、いわゆる「潰し」がきく系統のものではない。広義で言えば事務職だったが、管理部門的でもあり、営業的でもあり、ある意味では専門職でもあった。

 書類選考では、片っ端から不採用になった。

 そうはいっても、譲れない点があった。
 ひとつ、年収。多少のダウンは許容していたが、大幅減はどうしても避けたかった。
 ふたつ、ワークライフバランス。心身を壊しかけた過去があるので、この点は慎重だった。常識的な範囲の残業は厭わないが、例えば有給休暇を取りやすい環境かどうか、クチコミサイトなどで必ず確認していた。

 そして、もうひとつ。
「誰のために、なんのために働いているのか、明確に言える仕事であること」。

 最後のひとつにはあとから気がついた。
 というより、たぶんこれは、前職を辞めようと決意させた理由だったのだと思う。誰のためになにをしているのか、大きな変化の中で解らなくなってしまったのだ。きっと。

 このふたつとひとつを満たせなければ、転職しても満足はできない。変に妥協するくらいなら、辞めずに残ったほうがまだ良いだろうと思った。仕事が嫌いになったわけではなかったし、少なくとも、待遇は安定しているのだから。

 細々と応募を続けていたが、やはり片っ端から落ちていた。
 やはり高望みだったか。残れということだろうか。

 諦めかけたとき、奇跡的に、ある会社と縁があった。
 のみならず、希望の条件をすべて満たしていた。奇跡だった。

 それが、今の会社である。

 管理部門での採用だった。厳密には未経験の職種だったが、前職の経験を買っていただき、実際それなりに活きている。

 新しい会社。新しい仕事。
 研修期間は契約社員扱いだ。周りの先輩がたに支えられ、ときには多大な迷惑をかけた。
 そして先日、晴れて研修期間を終えた。

 今、なんのために働いているのかと問われれば、こう答える。

「すべての前線がスムーズに回るように、二歩下がったところから支える仕事をしています」
「つまり、お客様の笑顔のために仕事をしています」

 バックオフィスのどんなに奥で働いていても、その結果はすべて前線へ繋がっている。最後はエンドユーザーに届くのだ。当たり前かもしれないが、最前線から徐々に裏方へ移っていった私にとって、実感をもって断言できることでもあった。

 正社員のしるしとして手渡された真新しい徽章は、とても大切なものに思えた。
 自分で選び、相手からも選ばれた、新しい場所。
 勤続数ヶ月。前職を思えば、まだまだ序章さえ始まったばかりである。
 頑張ろう。そして、たくさんのお客様に笑顔を届けよう。

 私は、久しぶりに正社員になった。

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