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飛行機と遠征の話

【飛行機遠征の習慣や思い出について話しているだけの雑文】

 飛行機のことを、高速バスかなにかだと勘違いしているような気がする。

 とあるバンドを追いかけ回すようになって久しい。追いかけ回すということは、ライブを求めて遠征するということだ。遠征するということは、すなわち長距離移動をするということである。

 私の住まいは関西の都市部である。遠征先は東北か東京がほとんどだ。バンドの本拠地が東北なのである。

 大阪近郊の関西人が東北へ向かうとき、交通手段が飛行機一択であることは説明の必要も無いだろう。他の手段だと、時間が掛かる上に大して安くもならないのだ。大抵のルートで東京を経由する必要があるため、直行便にならず割高になりやすい。飛行機の場合、伊丹・関西国際・神戸の3空港が使えるため、よほどマイナーな空港でない限り直行便がある。これは西へ向かう際も同様である。

 一方、大阪ー東京間の移動というと、真っ先に浮かぶのは新幹線だろう。が、私はこちらも飛行機がほとんどだ。
 新幹線の場合、所要時間は3時間、料金は片道1.4万円。自由席にしたりネット予約を使ったりしても、あまり大幅な割引は無い。
 一方飛行機の場合は1時間程度で着くし、早めに予約すれば、大手航空会社でも1万円を切る。少なくとも新幹線より安くなる。ついでにマイルも貯まる。良いことしかない。搭乗便の変更が簡単にはできないことがネックといえばネックだが、時間とお金には換えられないと思っている。

 当然飛行機を使うような遠距離のみならず、新幹線を選ぶような距離でも安く済む。
 同じ航空会社を使えばまとまったマイルが貯まる。

 良いじゃん、飛行機。

 気づいてしまって以来、高速バスのごとく飛行機に乗っている。iPhoneに登録した搭乗券の枚数を見て自分でドン引きする程度には。

 ライブの開演が夜であっても、現地には早めに向かうことにしている。乗るのはいつも午前中の便だ。飛行機は、他の交通機関に比べて天候などの影響を受けやすいし、万一トラブルに遭うと挽回が難しい。ぎりぎりの便は避けるようにしている。判断基準は、仮に欠航になって電車を乗り継いだとしても開演に間に合うくらい、である。

 普段から早め行動を旨としているので、遅くとも出発時刻の1時間前には空港に到着する。某流行病の反動か、最近は空港が恐ろしく混んでいて保安検査に時間が掛かるので、余計にそうしている。

 早朝便の場合は、空港でモーニングと洒落込むこともある。お気に入りのカフェがあると最高である。遠征前からテンションが上がるというものだ。
 最近はコスト削減を狙って、あらかじめパンを買っておくことが多くなった。機内サービスのコーヒーで、空の上の朝食というのも気分が良い。もっとも、大抵の場合は搭乗前に待合でぱくついてしまうのだが。

 空の相棒はもっぱら電子書籍だ。タブレットにDLしてあるので、機内モードでも読み放題である。分厚い本を持ち歩く必要が無いし、ホテルのWi-Fiに繋げば動画も見られる。荷物が減って大変に快適である。良い時代になった。

 搭乗回数を重ねているといっても国内利用ばかりなので、乗っている時間はさほど長くない。せいぜい2時間が良いところだ。コンタクトをつけていることが多いので眠るのは憚られるのだが、本を読んだり景色を眺めたりしていると、案外あっという間である。

 トラブルらしいトラブルに遭ったことが2度ある。といっても欠航の類である。

 一度目は台風。
 東北地方に台風が接近し、仙台行きの便が見事に欠航になった――ことを、伊丹空港に着いてから知った。確認したところ東京までなら飛べるとのことで、羽田行きに振り替えてもらい、更に東京駅に移動して、新幹線で北上するという大袈裟なルートを使うことになった。こんなことでもなければ東北新幹線に乗る機会などなかっただろう。
 のぞみ号に慣れた身としては、自由席の設定がないことが衝撃であったし、緑色のカラーリングも異文化に思われた。トラブルとはいっても、個人的にはわりと楽しかった思い出である。

 二度目は雪であった。
 真冬の秋田行き。離陸と飛行は順調だったものの、雪で着陸ができず上空待機とのアナウンスがあり肝が冷えた。除雪は無事に完了してなんとか着陸できたのだが、待機時間は45分にも及び、機体の揺れもあってまったく落ち着かなかった。
 余談だが、私がモバイルバッテリーを欠かさず持ち歩くようになったのはこの出来事がきっかけである。

 飛行機の窓から外を眺める。銀の砂を撒いたような街が見える。山の緑の深さに息を呑む。海の煌めきに見惚れる。
 電車ならば車窓だが、航空機の窓には機窓きそうという言葉があるらしい。耳慣れないが、飛行機との関係が深まりつつある今なら、使ってみても良いような気がする。

 機窓にライブの思い出を見ながら、今日も空を飛んでいる。
 ちなみに5月の遠征は3往復であった。

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