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『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』(2020/日本)

1969年5月、東大901教室で後に伝説を呼ばれる討論会が行われました。
当時、反体制であり革命を信じる若者たちによる学生運動がさかんでした。いわゆる左翼と呼ばれる人たちなんですが、その総本山が東大だったんですね。
そこに乗り込んだのが三島由紀夫である。のちに伝説と呼ばれる右翼と左翼の討論会が50年以上の時を経てドキュメンタリー映画として公開されたのです。

|当時の三島由紀夫の立ち位置は?

当時の三島由紀夫は文学者でありながら、政治的な活動も活発であり、世間からは体制派の右翼作家という認識があった。ちなみに平凡パンチという雑誌のアンケートで「いま一番ダンディな男は?」というランキングで石原裕次郎や三船敏郎を抑えて一位であり、ノーベル文学賞候補にもなった超スーパースターなのである。(残念ながら川端康成がノーベル文学賞を受賞しました^^;)

右翼のトップインフルエンサーである三島由紀夫が左翼の総本山である東大駒場キャンパス(聴衆1000人)に乗り込んで討論会をするというのだから大騒ぎです。
警察から警護の申し出があったそうですが、三島はこれを断り討論会に臨みます。(とはいっても三島由紀夫の活動団体である「楯の会」のメンバーが前列で待機してたらしいですが)

|大荒れになると予想された討論会だったが…

会場の入り口には三島のことを「近代ゴリラ」と揶揄するポスターもあったようですが、三島はそれに腹を立てるわけでもなく、最初のスピーチで「立派なゴリラになりたいものだ」とユーモアを加えながら紳士的に話します。
実際に討論会なのですが、大変面白かったです。IQの高い討論とはこういうものかと普通に感嘆します。三島も天才ですが聴衆も東大生で頭がいいです。抽象的で観念的な話を早口で展開していくのですが、三島も聴衆も言い淀むことなくスラスラと同じレベルの討論がなされていました。

討論会なので討論したい人は壇上に上がって三島と討論するわけですが、動じない学生がすごいですね。相反する思想を持っているとはいえ、スーパースターを目の前にして堂々と自分の考えをぶつけられるのはすごいですね。そしてまたよくあるテレビ討論会のようにお互いの意見だけをぶつけて平行線を辿るようなこともなかったのです。右翼と左翼で真逆のはずなのに徐々に共通認識が生まれ、考えは違えど、敬意を持っている様が伺えました。これが討論のあるべき姿なんじゃないかとも思いました。

|現代に足りないものは「熱意と敬意と言葉」

討論会の最後に三島はこういう言います。

「私は諸君の熱情は信じます。これだけは信じます。他のものは一切信じないとしても、これだけは信じるということを分かっていただきたい」

考えの違うものを一方的に切り捨てるわけでなく、認める部分は認めて敬意を払う姿勢が素晴らしいと思いました。また三島由紀夫がたくさん喋っている映像を見るのも初めてだったので彼に興味が湧いてきました。

その後、三島と学生運動がどうなったのでしょう。
三島は翌年、自衛隊市ヶ谷駐屯地を占拠して憲法改正を訴えて自決。
1972年には連合赤軍によるあさま山荘事件が発生、あまりに過激さに学生運動から手を引く人が増えて、自然消滅してしまったようです。

52年前のドキュメンタリー映画ですが大変面白かったです。映画の最後には「現代に足りないのは熱意と敬意と言葉である」としめていました。熱意と言葉はある人はいるかもしれませんが、敬意も忘れてはならないと思いました。去年映画化されたのは知っていましたが昨今の事情により断念したので今観れて良かったです。

(面白さ:★★★★★★★★☆☆)

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