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レジデンシャル・エデュケーションの最前線:「リベラルさを体現するオープンマイク」(Wesleyan University・村山颯)

HLABがキーワードと考えている「レジデンシャル・エデュケーション」。それは単に寮で共同生活を営むということだけではありません。大学や寮ごとに制度や仕組みは特徴があり、独自の文化を築いています。そして寮生活を通した学生の経験や学びは多様です。そこで、今回は「レジデンシャル・エデュケーションの最前線」という連載で、アメリカの大学に留学している方たちに、自分たちの寮や文化づくりについて寄稿をお願いしました。

HLABでは、本場の実際の留学生活をより深く知っていただくために、動画版「留学体験記」を配信するサイト 『Living on Campus』(https://h-lab.co/campus/)を設立しました。留学希望の方はもちろん、海外大の学習環境や日常を覗いてみたい方はこの記事とともにご一読ください。

今回は、Wesleyan Universityに留学している村山颯さんによる寄稿です。

こんにちは!私は、アメリカ東海岸コネチカット州にあるウェスリアン大学二年生の村山颯です。2年前にアメリカに渡り、初めて寮に身をおく経験をしてから、これまで寮生活の良さを肌で感じてきました。その経験をこの記事で、皆さんにも共有できると嬉しいです。

寮の仕組み

ウェスリアンの学生は全学年の学生が、大学の寮に住むことが義務付けられています。寮は基本一年単位で移動となり、100人余りが住んでいる巨大な寮から5人ほどが住む小規模なハウスまで、それぞれの寮にテーマや独特の雰囲気のようなものがあります。

現在住んでいるRussian House(写真中央)

寮の雰囲気は、そこに住む人・寮のあるストリート・内部の雰囲気(パーティが多い、サイエンス系の学部の建物に近い、映画撮影がよく行われる、など)といった要素によって変わっていきます。また、Music House(音楽で集まりたい人たち)、La Casa(ラテン系のアイデンティティを持つ人たちのためのイベントが盛んにホストされる寮)、Well Being House(健康な生活を目指す人たちが集まる寮)などプログラムハウスといったテーマが設定された寮もあり、個人の興味関心によって寮を決めることができるようになっています。

学生は、それぞれの興味や好みの雰囲気や住環境を元に、学期の始めまでに入る寮を決めます。学年が上がるほどに選べる寮の選択肢が増えていき、最上学年になると、仲の良い友達5〜7人と共に、一軒家丸ごとのハウスに住んだりすることもできます。私は、一年生の時には200 Churchというsocial justiceとdiversityに関心のある学生の集まる30人程の大きさの寮に(名前は、建物の住所から)、二年生の現在はRussian Houseというロシアやスラブの言語や文化に興味がある、または由縁のある学生10人の寮に住んでいます。

一年生時は、入学する前で何も分からない手探り状態の中で、一年生が入れる寮の中でも人数が多すぎず寮の掲げているsocial justiceとdiversityのスローガンに少なからず興味があったという理由で入寮しました。今年は、ロシア語を勉強している身であり、学問的にもロシア史等に興味があるという理由(あと、窓が大きくて日取りの良い部屋だったこと笑)で応募し、Russian Houseに住むことになりました。

Russian Houseのコモンスペース。ここでハウスメイトと談笑をしたり、勉強をして過ごしています。

各寮では、それぞれのコミュニティを活発にするためのイベントが定期的に行われています。ディナーミーティングを手始めに、Russian Houseでは大学のロシア学部の教授を招いてお茶会(私のロシア語の教授も来ました!)、ロシア版プーさんを観ながらのブランチ会(結構独特でした笑)、はたまたパーティーを主催する(Russian Disco!!)といった調子です。

このようなイベントを通して、自分の興味から深く関わっていけるコミュニティ/ホームを作っていけることは、留学生として初めてアメリカに渡ってきた自分にとって、ありがたく心強いと感じることが多いです。また、こういったイベントの管理を含めハウスコミュニテイの生活を快適にするための活動は、ハウスマネージャーと呼ばれるハウスに関係する事務管理を行うリーダー役の学生によって行われています。

わたしにとっての寮生活

冷たく言ってしまえば寮生活はただの共同生活ですが、一緒に暮らすというのは文字以上に、パワフルな力を人に与えてくれるものでした。私にとって寮生活とは、友人を(クラスやクラブといった一つの側面ではなく)色々な側面から知ることができることによって、寮に最初に来た時には「ご近所さん」だった人たちとの壁がなくなり、自分の寮がホームになるという体験でした。

一年生の時の寮では、ラウンジに誰かが必ずいて、勉強をしていたり談笑していていたりと、忙しい生活でくたくたになって帰ってきても一息つける場所を大学内に作ることができました。洗濯物をしながらアメリカの人種問題について深い議論になったこともあれば、AKB48の恋するフォーチュンクッキーをなぜかみんなで一緒に踊ったこともあり、色々な思い出を共有した一年生の寮のメイツとは、二年生になった今でも親友です。寮生活は学校生活の中でホームのような存在だと思います。

200 Churchの友達と、ラウンジで談笑をしているときの様子。

寮における文化醸成

寮、そして大学の文化として「リベラルさ」ということが挙げられると思います。多種多様なアイデンティティを認め、共存を目指すアメリカ社会においてもリベラルと称されるほど、私の大学はリベラルさを尊ぶ文化があります。それは、人種的や性的などのマイノリティーにある人々が、大学内にホームを見つけ安心で快適な学校生活を送れるような工夫であると認識しています。

お飾りのリベラルさになってしまわないように、オープンマイク(フリースタイルで体験、意見や歌などを発表できる場)などのイベントが毎週寮の庭等で開催されており、声を聞き発信する場所という役割を寮とそのコミュニティが積極的に担っていると思います。私も一年生の時に友達に連れていってもらったオープンマイクで、自分の同級生の今までに受けた人種差別的発言に対する怒りのスピーチや家族を思う気持ちを表現する歌などの発表を聞いたことが、アメリカにおけるマイノリティの抱える問題や差別について、深く意識するきっかけになったことを覚えています。

また、各々の寮で毎月行われるミーティングもそのように、メンバーを受け止めるホームとしての寮の役割に貢献していると思います。一年生の最初の寮ミーティングで、寮のメンバーに知ってもらいたい人生の体験を共有できる場が設けられた時に、涙ぐみながらが自分の家族や育ってきた場所や環境を語っていたり、はたまた、将来の夢を悠々しく宣言していたりするメンバーを見て、「裸の付き合いとはこのことだ」と圧倒されたのを強く覚えています。

こうして自分にも相手にもオープンに、お互いに受け止め合えるホームを作り出せる「リベラルさ」が、私の大学/寮の素敵な文化なのではと感じているこの頃です。

ルームメイトのサプライズパーティを、寮のラウンジで企画した時の写真

参考

自分が一年生の時に住んでいた寮の動画。最後の方に出てくる部屋は、一年の時の自分の部屋です。


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