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HLAB Alumni Interview #1-1 山谷渓さん

HLABは2011年以来、高校生、そして大学生の多くの参加者が、各々のフィールドで活躍しています。

今回は、HLAB Alumniにインタビューをしていく企画の第一弾として、2011年参加者の山谷渓さんのインタビューを掲載します。

どうしてもインタビューが盛りだくさんになりすぎましたので、4回に分けてお送りしてまいります。(続き:第2回 / 第3回 / 第4回

第1回目は、山谷さんの現在の研究についてお伺いします。今話題の再生医療にも近い分野を研究されていますが、ご自身の研究テーマや、そこにどのような魅力があるかを語っていただいています。

ー今日どうぞよろしくお願いします。2011年のサマースクールに参加してくれた山谷渓さんです。まずは簡単に自己紹介をお願いします。

山谷さん:2011年に高校2年でHLABに参加した山谷渓と申します。HLABに参加した時は、渋谷幕張高校に通っていました。その後、アメリカのプリンストン大学に通い、去年卒業して今はスタンフォード大学で大学院1年目がちょうど終わったところです。

ーどういう分野を研究してるんですか?

山谷さん:スタンフォードは7つのスクールがあって、例えばビジネススクールだったり、ロースクールだったりがあるんですけど、私の学科はSchool of Medicine、つまり医学部の中にある学科で、その中でもどちらかというと基礎医学の分野です。学科は発生学と言って、「胚や精子と卵子はどうやってできるか?」や、「精子と卵子がくっついてからどうやってその動物の体になるのか?」というテーマを研究する学科です。

小林亮介(以下、小林):それこそ、高校の時に若干習う生物の超アドバンスト版みたいな?

山谷さん:そうですね!高校の時の生物で例えば「カエルの卵がどうやって分裂して、どう発生するか?」などを勉強したと思うんですけど、ちょうどその分野です。医学系のプログラムだと往々にして1年目の間、ローテーションという、2~3ヶ月ずつで研究室を体験してまわることを2つか3つしてから1年目の終わりに研究室を決めます。

そして、1年目の後の夏以降本格的に研究を始めるんですけど、私はちょうど最近研究室を選んだところで、減数分裂の研究をすることになりました。

小林:では、専門について全く分からない我々に向けて話すとして、今の研究の、何がそんなに楽しくて「20代の残りの6年間そこで使おう」という決意をしたのか、存分に語ってもらえますか?

山谷さん:ビデオとかで卵が発達していく様子を見ると、精子と卵子が最初にくっついて一つの細胞になって、そこからどんどん分裂して増えていくんですけど、単に増えていくだけじゃなくて、増えていく段階で例えば、「ここは肌の細胞になるけど、こっちは内臓の細胞になるとか、こっちは筋肉の細胞になるとか…」っていう風に分化していきます。

そして、それぞれの細胞が分化していくだけでなく、さらに胚全体を見ると、細胞同士でタイミングを合わせて全体の形を変えたりします。靴下を裏返すような大きな胚の動きとかも、どの細胞も間違えることなくやってのけたりするんです。

そういうのものを見ていると、「や!すごい!」と思いますよね。
でも、「なんでこのタイミングでこういう変化をする様にプログラムされてるのか?」っていうのが結局あんまりわかっていなくて、それを考える学科、学問になっています。

小林:そういう現象は見られるんだけど、「なぜそれが起こるのか」や、「なんのためなのか」みたいな事がまだ解明されていないんですね。

山谷さん:そうです。分かってる部分もすごく多いけど、分かんない部分もすごく多くて。
例えば、やっぱり全ての胚が、何百・何億とか見ても必ず同じタイミングで全部起こるって事もすごいミステリアスで面白いっていう風に思っています。

あとはもう一つ、私が興味を持っているテーマとして、英語でRobustnessっていうのがあります。Robustnessとは、簡単には周りの環境などの変化に耐えられる性質のことです。例えば、発生においても「ここの遺伝子が壊れてもなんとか発生します」っていうのとか、「最適温度じゃなくてもじゃなくてもなんとかなります」とか、「ちょっと食べ物が少しなくなってもなんとかなります」ということが起きており、どのような性質がどういう理由で、Robustになったりしなかったりするのかも面白いと思っています。Robustnessは、その生物種がいかに環境の変化に耐えられるかという点において、生物の進化にも大事なテーマです。

小林:その分野は基礎研究に当たると思うんだけれど、基礎研究のなかでも、解明が進むと何ができるようになるっていうところのつながりってかなり近いというか、強そうな分野だよね

山谷さん:たしかに、例えば医療分野では、発生に関わる色んな遺伝子が、細胞を増やしたり増やすのをやめたりってそのシグナルに関わるコト・モノがすごく多くて、簡単に言えばそういう研究はすごい癌とかの研究にも繋がりますね。

なぜなら、癌はそういう制御を逃れて、どんどん生殖してく腫瘍のことを指すので、例えば発生とかの分野で、「この遺伝子は何をしてるんだ?」とか、「この遺伝子はここで何しているんだ?」っていう様な遺伝子は往往にしてまあ癌細胞だったりするので。

小林:これはコントロールできる可能性もある…?

山谷さん:そうですね。例えば癌に対する薬とかも例えばグロースファクター、シグナリングのその合図のタンパク質を止めて、阻害したりとかそういう風に働くものが多いので…

ー生物素人の私からすると、今の話は、 iPS 細胞のリサーチとかに近いかなと思ったんですけど、どうなってるんですか?

山谷さん:私の理解では、発生というのは「まだ未分化の細胞がどういう風にして分化していって、もっと複雑な構造を作ったりするか?」っていう現象を研究する学問だと思うんですけど、iPSのすごいところはそれを人工的に戻せたところにあると思います。つまり、iPS細胞(induced pluopotent stem cells)とは、分化した細胞を未分化の状態に戻した細胞のことです。iPSって、IPSCっていう略文字とってるのですが、それに対してES細胞 (embryonic stem cells)は、人間やネズミの胚から取り出した細胞のことをいいます。つまり、どちらも未分化の幹細胞ですが、全然出どころが違うということです。

ーES細胞は分化する前のものをまず取り出しちゃおうっていう話で、IPS細胞って分化しちゃってもう何かになってるけどそこから戻そうっていう違いなのかな?

山谷さん:ちょっとそこらへんの分野の理解はちょっと浅いんですけど、戻すためのレシピみたいなものは誰も知らなかったし、戻せるっていうことも誰も知らなかったから、山中教授の研究は、すごく分野を変えたと思います。だから、ES細胞について倫理的などうのっていうのも、分化する前の胚を取って、殺して、その細胞を取らなきゃいけないからです。ただ、一度細胞を取り出してしまえば、その細胞を培養液に入れて実験室で増殖させ続けることはできます。だから、今研究で使われているES細胞のほとんどは10、20年前に胚から抽出してきた細胞を、今まで実験室で増やしてきたものがほとんどだと思います。

ーES細胞のままってこと?

山谷さん:そうですね。だから、1回やったら新しい胚をとってくる必要はないと言えばないし、だから今ES細胞を使ってやってる研究はほぼそういう風に、誰かがそういう風に作った細胞を世界中で共有して使ってるんです。

小林:そうなんだ…じゃあ誰かの細胞をひたすら増殖したものが色々な研究室にばら撒かれて、ここもここも「母は一緒」みたいなそういう状況ってこと…?

山谷さん:
そのES細胞もそうだし、他の血球系の細胞だったり、脳系の細胞だったりも、元はある動物から採取して、誰かが手法を考えて培養して、世界中で共有して使われます。だからよく使われてる細胞っていうのがいくつかあるのですが、そのことをテーマとして最近すごい流行った本でThe Immortal Life of Henrietta Lacks(邦題:「不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生」) というものがあります。ヘンリエッタ・ラックスという女性の癌から取った細胞が、世界で初めて培養できた細胞だったんですけど、世界の生物系の研究ではすごい重宝されています。

だけど、彼女の人生はというと、20世紀前半のアメリカの黒人として生まれましたが恵まれた生活を送ることなく、自分の細胞が世界中で共有されて色々な癌の薬の開発や、様々な培養系の研究に使われてることを彼女は何も知らず亡くなったそうなんです。この倫理的な問題をちょっと考える本が出されてて、私はまだ読んでないんですけど、すごく面白いらしいです。

小林:バリバリの基礎研究をやりながら、生命倫理も考えないといけないという非常に難しい分野だよねえ…
 
山谷さん:そうですね。でも、私はどちらかというと、培養した細胞をいじるよりは、動物を直接いじったほうが好きなんですけど(笑)
もちろん、動物を使うってことは、主にネズミ、一番哺乳類のなかで私たちに近いものがネズミで、そこからさらに人間から離れると例えばショウジョウバエとかになります。私の使うものは、線虫の種類、1mmくらいのすごい小さなものとか、バクテリアとか酵母もよく使われます。


本日はここまでです。次回は学部生活についてのお話を掲載させていただきます!


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