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レジデンシャル・カレッジは「社会の縮図」になる。 〈UWC ISAK Japanファウンダーと考える未来のキャンパス〉

いま、教育の形は大きく変わろうとしています。与えられた課題を受動的にこなすだけでなく、各々の関心に沿って能動的な学習をする機会が生まれているんです。たとえば、マサチューセッツ工科大学やハーバード大学といった有名大学の講義を自宅で受講できる「MOOCs」。インターネットを介すれば、物理的な拘束を受けずに学習できる時代が到来しています。

学び方が多様化するなかで、HLABは、2021年に下北沢で「レジデンシャル・カレッジ」の開校を予定しています。レジデンシャル・カレッジとは、国境や世代を超えた生徒が集まり、寮で共同生活を営みながら学習する、新しい教育の形です。そうした「レジデンシャル教育」推進の前段階として、2019年1月より「未来の教育の在り方」を探るためのイベント「未来のキャンパス」を開催しています。

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本記事では、第2回目のイベントである「ISAKファウンダーと考える『未来のキャンパス』~ISAKから学ぶ、プロジェクトとしての学校づくり~」の内容をレポートします。登壇いただいたのは、国内初の全寮制インターナショナル・スクールであるUWC ISAK Japanの創設を手がけ、開校後は初代事務局長として尽力された河野宏子さんです。

レジデンシャル教育を推進するISAKは、いかにして学校をゼロからつくり上げていったのか。HLABのメンバーに加え、「インフィニティ(Boston/San Francisco)」を運営する公益財団法人 孫正義育英財団の学生をゲストに招き、学生たちの寮生活の実情から、学校法人の運営に大切な視点まで明かされました。

寮生活は成長機会になる。
異なる文化の衝突が、「当たり前」を疑う力を育む。

UWC ISAK Japanは、長野県軽井沢町にあります。現在は約73の国と地域から集まった生徒が所属しており、7割が奨学生として支援を受けている点が特徴です。河野さんは、「混沌の時代を生き抜くために必要な、『問いを立てる力』を身につけるための教育を大切にしている」と語ります。

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UWC ISAK Japan ファウンダー・初代事務局長 河野宏子さん

河野「問いを立てる力、困難に挑む力、多様性を生かす力を大切にしています。すでに顕在化している課題を解決する力だけではなく、予測不能な環境下でどれだけ仲間と協業して変革を起こせるか、そうした力を伸ばすための様々なプログラムを用意しています。
生徒にはなるべく裁量を与え、自力で解決する力をつけてもらうために、保護者の介入もできる限りなくしています。苦手なことがあっても、仲間と助け合い、自分の得意分野を活かしてプロジェクトに取り組めれば良いんです」

UWC ISAK Japanが定義するリーダーシップとは、「必ずしも持って生まれた能力や地位ではなく、誰でも実践して身につけられる力」としています。個人的には「歩む道を自分の意思で選択していく力」のことではないかと考えています。そして、そうした主体性は、誰もがあらゆる組織のなかで発揮できるはず。また、深い多様性の中でのリーダーシップを体現するため、UWC ISAK Japanは、出身国の違いだけでなく、経済的、社会的バックグラウンドが多様な生徒たちが集まっています。

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河野「多様なバックグラウンドを持つ生徒に同じ寮で生活してもらうことで、自分とは異なる価値観や考え方に触れながら、個性を活かしてプロジェクトに臨める環境と仕組みをつくっています。さまざまな文化や経済観を持った生徒が世界各国から集まる点で、『世界の縮図』と呼べるかもしれません。
UWC ISAK Japanでは価値観や常識の違いを体験する機会が日常的にあり、生徒たちは自分たちの『当たり前』がいかに通用しないかを、思い知ることになります。そうした環境で過ごすうち、生徒たちは自分とは異なる意見を受け入れることを学んでいくんです。兄弟のように仲良くなる生徒たちも多く、Facebookを眺めていると、かつての生徒同士が今でも国境を超えてつながっていたりします。
もちろん、寮生活をする1年は長いので、毎日がすべてうまく行くというわけではありません。生徒間のコミュニケーションに問題が発生すると、学業やプロジェクトに影響がでます。生徒のメンタルヘルスを維持することも大切なので、一時的に別室へ移動させるなどの細かなフォローも行なっています。とはいえ同室の生徒が不仲になったからといってすぐに生徒の入れ替えを行うと、成長機会を奪うことにもなり得るので、教職員は慎重に対応しているんです」

発信を怠れば、学校のミッションは埋もれてしまう

続いて、「学校をつくるために大切な考え方」について包括的な議論が行われました。河野さんは「どういった学校をつくるのか」についてミッションを定め、愚直に発信を続けることがもっとも大切だと力説し、教育活動を継続するために必要なプロジェクトメンバーの「モチベーション維持」の視点について言及します。

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河野「理念やビジョンをきちんと定め、コミュニティ内外での発信を続けないと、関わる人のパッションが維持できなかったり、学校の理念を完全に理解していない生徒が入ってきてしまったりする。みなさんは自分の学校のミッションをすぐに言えますか?ミッションをどのように体現しているのか発信し続けていくことが大切なのです。
さらに、関わる人の「エネルギー収支」が継続的にプラスになるような工夫も、事業の持続的発展には重要だと考えています。活動を通して出てゆくエネルギーを凌駕するような、報酬だけてはない、十二分なやりがいや学びがなければ活動の継続は難しいと考えています。

イベント終盤、参加者から「社会的に学校として認められるために必要なこと」を問われると、河野さんは、一条校としてとして認められることは必要条件ではない、との見解を示してくれました。

河野「個人的には、法律的な枠組みに囚われずとも、学校は運営できると考えています。たしかに日本では義務教育が定められているため、一条校でないと進学先が限られてしまうので、生徒を獲得するのは難しいかもしれない。しかし、義務教育を踏襲しない人たち向けの場も求められていますし、日本の大学への進路だけに囚われなければ、選択肢はあるかなと。実際に、私の子どももアメリカン・スクールに通っていたので、日本の義務教育は放棄していることになっています。
また、仮に一条校として認められなかったとしても、ミッションを達成するための手段はあると思います。その学校が大義を持ち得ているなら、何らかの形で存在し続けられるはずです」

eラーニングなどの登場により、物理的制約に囚われることなく、より自由な学習機会を得やすくなりました。一方で、MOOCsの修了率が低迷しているように、それらの学習機会が活用し尽くされているとはまだまだ言い難いでしょう。どこからでも学びを得やすい現代だからこそ、ルームメイトと共生し、お互いの価値観を学び合うことは、他では得られない貴重な学習体験となるはずです。

今後も「未来のキャンパス」では、「多様性」「レジデンシャル教育」「コミュニティ」といったキーワードを活動の軸とされている方をお迎えし、新たな学校の形を探るための議論を行なっていきます。

公益財団法人 孫正義育英財団
7歳から26歳の高い志と異能を持つ若手人材発掘・支援する、ソフトバンクグループの孫正義社長が私財を投じて設立した組織。2019年1月現在、約130人に奨学金を提供しており、全体の約6割は留学生が占める。海外にも拠点をもっており、留学支援や留学先でコミュニティをつくっていくための支援活動も行なっている。

全4回の「未来のキャンパス」記事はこちらからご覧いただけます。


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