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レジデンシャル・エデュケーションの最前線:「誰にも疎外感を感じさせない、みんなで支え合う寮生活」(UWC Pearson College・浜田真帆)

HLABがキーワードと考えている「レジデンシャル・エデュケーション」。それは単に寮で共同生活を営むということだけではありません。大学や寮ごとに制度や仕組みは特徴があり、独自の文化を築いています。そして寮生活を通した学生の経験や学びは多様です。そこで、今回は「レジデンシャル・エデュケーションの最前線」という連載で、アメリカの大学に留学している方たちに、自分たちの寮や文化づくりについて寄稿をお願いしました。

HLABでは、本場の実際の留学生活をより深く知っていただくために、動画版「留学体験記」を配信するサイト 『Living on Campus』(https://h-lab.co/campus/)を設立しました。留学希望の方はもちろん、海外大の学習環境や日常を覗いてみたい方はこの記事とともにご一読ください。

今回は、カナダの全寮制高校(UWC Pearson College)を経て、Princeton Universityに留学している浜田真帆さんによる寄稿です。

プリンストン大学2年生の浜田真帆です。小さい時に帰国子女の友達を通して、アメリカの文化に触れていたことから、日本の外の世界にずっと興味を持っていて、高校2年生の時に、経団連の派遣プログラムでカナダの全寮制の高校に留学しました。カナダでの高校生活から、文化や芸術への興味は益々強くなり、大学では経済を勉強しながら、美術の授業をとったり、芸術に興味のある生徒と交流を深めたりしています。今学期は大学の交換留学生としてイタリア、ミラノの経済大学で勉強をしています。

私は高校2年生の9月から2年間、カナダのビクトリアにある全寮制の高校、ピアソンカレッジに在籍していました。ピアソンカレッジは、全世界に17校あるUWC(United World Colleges)と呼ばれる高校の一つで、日本ではISAK(インターナショナルスクール・オブ・アジア・軽井沢)がUWCに加盟しています。

UWCには世界中から生徒が集まり、 “教育を通じて、人々や国や文化を結び、平和と持続可能な未来に貢献する”ことを教育理念としています。ピアソンカレッジでは、そんなコミュニティの一員として仲間と寮生活をしながら、意識的にコミュニティづくりに取り組んでいました。


海辺の森の中に佇むPearson Collegeの教室棟。毎朝橋を渡って、寮から授業へ。

4人1部屋、学年も国籍もバラバラ

キャンパスはビクトリア市内から、バスで1時間半、海辺の森の中に位置していました。このキャンパスに1年生、2年生それぞれ80人、先生とその家族を合わせて、約200人。4つある寮のうち、どこに住むかは他の生徒との出身地のバランスなどから決められます。どの寮も1階が女子寮、2階が男子寮。一部屋は4人で、学年も国籍もバラバラでした。

学校に初めて到着したときのベッドルーム。お互いのベッドに座って話をしたり、勉強の合間に一緒に休憩をしたのが思い出。

学校があった村でイベントをした時の一枚。世界中から学生が集まっていて、多様性に溢れている。

自分とは違う背景からくる友達と一緒に暮らすことから得られる学び

私の1年生の時のルームメイトは、アメリカ人、イギリス人とカナダ人でした。3人とも英語が母国語だったので、初めは気後れして思ったように会話ができなかったり、カナダ人の自由すぎるルームメイトについていけなかったり、自分と合わないところばかりが気になってしまって、毎日のように両親に電話をかけて、不満をもらしてばかり。それでも、日本とは17時間も時差があったので、いつでも両親に泣きつくわけにもいきません。

ある日、新しいことばかりの生活に思わず泣き出してしまった時に、イギリス人の先輩が部屋に帰ってきました。彼女はそっと隣に座ってくれて、何でも話したいことがあれば聞くからね、と温かく抱きしめてくれました。ほっとした私は、授業に思ったようについていけないこと、友達と一緒にいても自分を上手く表現できないこと、食生活にいつまで経っても慣れないことなど、次から次へと話してしまいました。彼女はどんな小さな話でもじっと耳を傾けて聞いてくれて、力強い言葉で励ましてくれました。この経験がきっかけになって、私はルームメイトや学校での友人に色んなことを相談するようになりました。自分とは違う環境で育ってきた友人からは、自分が思いもつかなかったようなアドバイスが返ってくることもしばしばで、何気ない会話をしていても、新しい考え方を教えてもらっていました。

一年生の時のルームメイトたちと部屋での写真(筆者は写真左)

また、一緒に生活していることで、友人の物事に対する姿勢、生活態度からも多くの影響を受けたように思います。自分を追い詰めすぎずに、森の中に散歩に出かけたり、お茶を淹れたりして、友達同士で過ごす時間を大切にしていたイギリス人とアメリカ人の先輩たち。自分が満たされた気持ちで毎日を過ごすにはトレーニングが欠かせないから、と朝時に起きて筋トレをして、食生活にも妥協をせずに自分を貫いていたカナダ人の同級生。敬虔なクリスチャンで、どんなときも感謝を忘れないことを教えてくれたルワンダ人の後輩。それぞれに格好いい生き方をしている友人を見ていて感じたことは、言葉で教わるよりも力強く、寮生活から得られた学びとして、今でも強烈に印象に残っています。

寮ごとに強い一体感

ピアソンカレッジでは、寮を"ハウス"と呼び、寮の生徒の面倒を見てくれる先生とその家族は"ハウス・ペアレンツ(House Parents)"と呼んでいました。毎週日曜日に全員が集まるハウスミーティングでは共用スペースの使い方など、寮での過ごし方について話し合います。それぞれの寮でスタイルや内容が少しずつ違うのですが、私のハウスでは、ハウスの友達への感謝を伝える時間がありました。

入学したばかりでまだ緊張していた頃に、先輩が私の名前を挙げて、褒めてくれた時には、「家族の元を離れていても、今までとは違う文化の中にいても、きちんと自分を見てくれている人がいるんだ、自分もこのハウスの一員として、貢献できているんだ」と、嬉しく思ったのを覚えています。

この全員絶対参加のミーティングで、きちんと毎週時間を共有していたからこそ、自分がそのハウスにきちんと所属しているという安心感を感じられるようになったんだと思います。みんな自分のハウスを家族のように大切に思っていて、寮対抗のサッカー大会やバスケ大会はハウスカラーのオリジナルTシャツを着て、プレーも応援も大盛り上がりでした。

土日の夜には森の中で焚き火を起こして、歌を歌うこともしばしば。

ここでの友達はみんな家族。
2年生から1年生へと文化を伝える

ピアソンカレッジには、80カ国以上の国から、母国語も文化も全く違う生徒が集まっていたにも関わらず、誰にも疎外感を感じさせない、という意識の高さがありました。英語が母国語ではない生徒も多いことを頭の片隅に置いて、話す時ななるべくゆっくりはっきりと話すことや、食堂のテーブルでは誰とでも一緒に座って、全員が参加できる話題について話すことをみんなが気をつけて行っていました。自分が1年生として入った時には、2年生が全校集会などで、誰も気後れをしないように、疎外感を感じないように思いやりを持って行動することの大切さを主張していました。また、実際に普段の生活の中でその場にいる全員に話題を振ったり、遊びに誘ったり、誰にでも分け隔てなく接してくれていることが感じられました。

このような文化の中で、誰とでも平等に接することで、性格や価値観が違っても、楽しい時間を共有することができて、お互いから学ぶことができるということも身を持って経験しました。寮生活という密度の濃い関わり方をする中で、自分と同じところも、違うところも、全部含めてお互いを受け入れられていました。自分をそのまま受け入れてくれる仲間を作れた環境だからこそ、それまで周りの評価を恐れてチャレンジできなかった演劇やダンス、カヤックに挑戦することができました。いつでも応援をしてくれて、どんな小さな成功でも一緒に喜んでくれた友人たちに本当に感謝しています。

昼食、夕食時のは全員が集まる食堂。キャンパスで働く大人や先生を含めて、どの机に誰と座っても楽しい会話ができた。

今でも私を支え続けてくれている寮生活の思い出と仲間たち

ピアソンカレッジでの寮生活からは、自分と全く育ってきた背景が違う同世代の仲間と密度の高い関わり方をすることを学びました。初めての家を離れての生活、課題に追われる毎日、大学受験など、難しい壁を乗り越えるときに側にいた友達にはいつも支えてもらっていて、自分も様々な場面で、友達にどう声をかけたらいいか、たくさん悩みました。

深い関係を築きながら、一緒にいろいろなチャレンジを乗り越えてきた仲間がいるということは、卒業後も私を強く支えてくれています。不安になったり、自信を無くしそうになったりした時には、いつもピアソンカレッジの仲間を思い出します。2年間の共同生活を経て、自分をそのまま受け入れてくれている友人がいるということは、何よりも心強いことで、これからも益々自分を支えてくれる大切な宝物です。

インドネシア人の友達の誕生日会。毎日のように誰かのサプライズパーティーが行われる。

浜田さんのPrinceton Universityでの寄稿はこちらからお読みください。


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