得点力を支えるディシプリン:パナソニックワイルドナイツ対ヤマハ発動機ジュビロ<1>
今日は緊急事態宣言に伴う無観客試合の決定で大騒ぎだけれど、こちらは平常運転でマッチレビューを。大分時間が経ってしまったけれど、4月10日のラグビートップリーグ パナソニックワイルドナイツ対ヤマハ発動機ジュビロを。
先発した五郎丸歩
この試合、五郎丸歩が先発。もしかしたら最後になるかもしれない試合でもあった。
得点機会でパナソニックが圧倒
最終スコアは55-19(前半21-12)でパナソニックの大勝。前半終了間際にヤマハが2トライを連取してスコアを詰めたが、後半早々に突き放されて大差がついた。
まずは得点機会、つまり22mラインを越えた回数とその結果を見てみよう。
パナソニック
0分:トライ
12分:トライ
18分:ノックオンでボールロスト
21分:トライ
34分:ラックでのターンオーバーでボールロスト
43分:タッチ
45分:トライ
54分:トライ
57分:トライ
64分:ラインアウトスチールでボールロスト
72分:トライ
78分:トライ
ヤマハ
8分:オーバー・ザ・トップでボールロスト
36分:トライ
41分:トライ
69分:ノックオンでボールロスト
68分:トライ
パナソニックの得点機会、実に12回。すさまじい数だ。そのうちのトライが8。つまり三分の二。一方ヤマハは5回と半分以下だ。そのうち3回をトライに結びつけているので攻撃としては悪くないが、いかんせん手数が違いすぎた。
パナソニックの圧倒的なキック戦術
この差が何でもたらされているのかと言うと、実はキックにある。
キックの数字を見てみよう。いつも通り、再確保、プレーエリア前進、後退、リターンキック、フェアキャッチおよびドロップアウトに分けてみる。
パナソニック
再確保:6回
プレーエリア前進:3回
後退:なし
リターンキック:1回
フェアキャッチ・ドロップアウト:2回(いずれもドロップアウト)
ヤマハ
再確保:2回
プレーエリア前進:なし
後退:4回
リターンキック:なし
フェアキャッチ・ドロップアウト:なし
このパナソニックの、12回蹴って後退ゼロと言うのもすさまじい数字だ(ドロップアウトは場合によっては後退になってしまうが)。しかも再確保が50%の6回。これはまさに山沢拓也の精度の高いキックのたまものだ。こうしてパナソニックは、効率よく陣地を稼いだ。
下の3枚は一連のプレー。山沢がリスタートから蹴ったハイパント、ヤマハがキャッチしたもののラックでボールロスト、ラックからパナソニックがアタックを仕掛けた状況だ。
一方ヤマハ。6回蹴ってそのうち3分の2の4回後退させられているというのもすさまじい数字だ。
しかもそのうち3回はトライされている。レビューをまだ書いていないパナソニック対日野自動車でも同じように、キックから切り返されてトライと言うことが多かった。これは、パナソニックの対戦相手が、不利な状況で「蹴らされている」と言うことだろうし、その状況からカウンターを仕掛ける方法論を、パナソニックとして確立していると言うことだろう。
パナソニック、ペナルティによるボールロストゼロ
もう一つ、最後にボールロストマップを見てみよう。
パナソニックのボールロストは合計で16。特徴は攻め込んでからのボールロストが多いこと。しかし、ペナルティでのボールロストはなんとゼロ。
特に、22mラインを越えてから4回ラックでターンオーバーされているが、その中で一度もノット・リリース・ザ・ボールがない。これは素晴らしい規律だ。
ノット・リリース・ザ・ボールを取られてしまうと、タッチに蹴り出されて押し戻された形でのユアボールラインアウトになる。けれど、単にラックでターンオーバーされただけなら、再度ターンオーバーを狙えるし、相手がタッチに蹴り出したらマイボールラインアウトでのリスタートになるので、同じラインアウトでも全く状況が異なる。そのあたりをきちんと理解しての、ディシプリンを重視したプレーだろう。
ヤマハの場合はボールロスト18回。やはりボールロストが多い方が負けている。そしてそのうちペナルティはなんと4回。このペナルティはマイボール時のペナルティ。つまりマイボールで攻めているときに、相手にペナルティを与え、押し戻された形でラインアウトと言うことになる。ここで失ったテリトリーは非常に大きい。パナソニックが同じ形で失ったテリトリーがゼロであることを考えると、この差が勝敗に結びついたことは間違いないだろう。また、自陣22mライン内でのボールロストが3回というのも目立つ。これは実は、パナソニックボールをターンオーバーしたあと、もう一路ボールロストをしているケースだ。
こうやって見ると、55-19は、お互いのボールロストの態様を正確に反映した点差だと言えるだろう。最速レビューでは、点差ほどの差はない、と書いたが、間違っていた。
あともう一つ。パナソニックの攻撃の柱は、正確なキックだけではなかった。アタックの仕方も非常に面白いものだった。次回はそれを見てみる。
(続く)