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早稲田の「伝統工芸」:ラグビー大学選手権準決勝 早稲田対帝京<1>

1月2日は大学選手権準決勝の日。秋の再戦となる早稲田対帝京戦はこの日の第一試合だった。結果は33-27で早稲田が勝利。速報レビューはノーサイド直後に書いたが、今日はもっと詳しく。

それぞれの得点機会

まずはお互いが22mラインを越えた回数を見てみよう。
(早稲田)
 6分(ラインアウトからモールでトライ)

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 23分(ラインアウトからモールでトライ)

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 27分(ラインアウトでボールロスト)
 29分(トライ)
 46分(トライ)
 60分(ドロップアウト)
 61分(トライ)
(帝京)
 8分(ノット・リリース・ザ・ボールでボールロスト)
 18分(PG)
 38分(トライ)
 48分(ペナルティからのタッチキックが長すぎてドロップアウト)
 50分(トライ)
 66分(スクラムでのペナルティでボールロスト)
 71分(トライ)

 ということで、早稲田、帝京ともに敵陣22mラインを越えたのは7回。

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 早稲田はそのうち5回(71%)でトライを獲得し、帝京はPGを含めて4回(57%)で得点。同じだけの得点機会があり、最終スコアが6点差ということは、早稲田の方が一回だけ多く得点できたということになる。

 たとえば、開始8分に帝京が犯したノット・リリース・ザ・ボールは早稲田8番丸尾が絡んでのものだが、これがなかったら結果はどうなったかわからない。

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 ただし、早稲田の46分と61分のトライは、22mラインの外側、ハーフライン付近から一気に突破してトライを取ったもの。現代ラグビーのハイレベルの試合では珍しいほどのクリーンな突破だったが、この2本を防げていたら帝京が勝利したことになる。そこでこのプレーを細かく見てみる。

帝京の「詰め」のディフェンスと早稲田の対応

 帝京のディフェンスの特徴は、外にパスされていくボールの動きに合わせて外側にスライドしていくのではなく、アタックラインに対して突っ込んで(「詰め」)、攻撃側にプレッシャーをかけ、できるだけ前でタックルすることだ。

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 これはラッシュアップディフェンスと呼ばれる防御法だが、帝京の場合、タックラーが一直線に並んでいないことが多い。おそらくタックラーができるだけ早く走ってタックルに行くことを優先したのだと思われる。しかしながら、タックラーが一直線に並ばずに「でこぼこ」になっていると、実は躱されるリスクが高まる。実際この日の早稲田はそうやって帝京のディフェンスを突破した。
 タックラーが一直線に並ばずに「でこぼこ」になってしまうと、背後にスペースができてしまう。そのスペースを利用するために、早稲田のレシーバーは、パスを受け取るときにほんの少し外側にずれる(内側の場合もある)。

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 パスを受け取ってからずれるのではなく、パスを受け取る直前にずれるのがキモだ。そうすることで、タックラーを躱し、彼の背後のスペースに出ることができる。

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 ラッシュアップディフェンスでも、タックラーが一直線に並んでいた場合は、レシーバーが外側にずれたら外側のタックラーが詰めてくる。しかし、でこぼこの特に「でこ」のところでずれられると外側のタックラーが詰めても躱されてしまう。早稲田はこのディフェンスラインの「でこぼこ」を上手く使ってすれ違いざまに突破した。33分、47分、62分のトライはすべてこのパターンによるものだ。

帝京ディフェンスのほころびは明治戦から

 実はこのパターンでの「すれ違いざま」の突破は11月22日の明治対帝京戦で明治が再三成功させていたものだ。早稲田はおそらくこの試合のスカウティングを踏まえて狙っていたのではないかと推測する。この3回のトライの時、あれだけ迷わず反対サイドまで展開したのは、何か根拠があったはずだからだ。

 ただ、この、パスをレシーブする寸前にレシーバーがずれてすれ違いざまに突破するスキルは、早稲田の「伝統工芸」だ。去年の大学選手権準決勝の天理戦で、やはり「でこ」と作ってしまうクセのあるフィフィタを狙ってすれ違いざまに突破していた。

 結果から言えば、この「伝統工芸」で突破した3回のトライで、早稲田はこの試合に勝ったことになる。

 次回はキックを分析してみよう。

(続く)


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