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米国トップVC 2023年10月の投資動向

こんにちは、HAKOBUNE有村です!
今回はアメリカの著名ベンチャーキャピタルが10月に投資したスタートアップを紹介するとともに、全体的な投資動向を追っていきたいと思います。現在アメリカでは、シードスタートアップのバリュエーションが上昇しており、アーリーステージ、特にAI領域への投資欲求がかなり高まっています。今回はその中でも、社会を根本的に変える可能性を持つ投資先をいくつかピックアップしました。

今回調査に使ったトップVCですが、こちらはいくつかのウェブサイトを参考に取り上げさせていただきました。細かいリストは本記事の最後に載せておきますので、ぜひご確認ください。


シリーズB

Iambic Therapeutics:AIを活用した創薬プラットフォーム

HP:https://www.iambic.ai
設立年: 2019年
拠点:アメリカ(カリフォルニア州)
資金調達額:1億ドル(約150億円)
著名投資家:Sequoia Capital

Iambic TherapeuticsはAIを用いて分子標的薬を発見・最適化するプラットフォームを開発しています。分子標的薬は、病気の原因に関わる特定の分子だけを選んで攻撃するため、従来の薬と比べて副作用が少ないという特徴があります。Iambic TherapeuticsはAIを活用することで、より素早く、大量に適切な分子標的薬の候補を発見することができます。
現在は既に発見した薬の臨床実験を進めており、それに際して新たに資金調達をしたようです。前の記事でもAQUEMIAという、同じくAIを活用し創薬を行うスタートアップを紹介しましたが、創薬×AI領域での競争は激化しており、多くのスタートアップが立ち上がっています。

Iambic Therapeuticsの創薬プラットフォームのイメージ(2021年)

今回のシリーズBの投資家の面々の中には、VC界のドンであるSequoia Capitalがおり、シリーズAからのフォロー投資となっています。投資金額も他スタートアップと比べて多額で、この領域における競争の勝者としての期待が感じられます。
共同創業者の3人はThomas MillerFred ManbyChao Zhangであり、化学の教授や薬学の研究者など、技術力の非常に強いチームとなっています。

Glydways:自動運転による新たな公共交通システム

HP:www.glydways.com
設立年: 2016年
拠点:アメリカ(カリフォルニア州)
資金調達額:5600万ドル(約84億円)
著名投資家:Khosla Ventures

Glydwaysは一人乗りの、自律走行する電気自動車を開発し、より手頃な価格で導入できる都市交通手段にしようとしています。Glydwaysにて都市が新しく公共交通システムを構築する際に必要なのは、交差点や他の車両がない専用レーンとGlydcars(車両)だけです。そのため設備投資費と運営費は既存の交通機関(電車やバスなど)に比べても数分の1で済ませることができます。また2.5キロほどの距離の場合、1時間あたり1万人を運ぶことができます。

専用レーンを走るGlydcars

今回は「大きなビジョン」に投資することで有名なKhosla Venturesを含む投資家からシリーズBの資金調達をしています。Glydwaysが社会浸透した場合、今までは交通インフラが整っていなかった国にもゼロ・エミッションかつ快適な交通手段が実現されることを考えると、なんともKhoslaが好きそうなビッグビジョンです。
創業者のMark SeegerはAppleでプロダクトデザインをした後に、2つスタートアップを立ち上げたシリアルアントレプレナーであり、Glydwaysには既に7年もの月日取り組んでいます。

シリーズA

Regent:近未来の電動シーグライダー

HP:https://www.regentcraft.com
設立年: 2020年
拠点:アメリカ(マサチューセッツ州)
資金調達額:6000万ドル(約90億円)
著名投資家:Founders Fund(リード)

Regnentは海上輸送機「シーグライダー」を開発し、沿岸沿いの交通をより高速にすることを目指しています。このシーグライダーは12人乗りで、時速300キロものスピードで海上を移動することができます。また完全に電動であり、ゼロ・エミッションです。民間への用途はもちろん、補給や捜索救難といった防衛領域での任務への活用可能性にも注目が集まっています。

シーグライダー内装のイメージ

こちらはピーター・ティール率いるFounders FundがシリーズAにてシード投資をしており、「海上輸送の領域を完全に変革してしまう力を秘めている」とコメントしています。
共同創業者はMichael KlinkerBilly Thalheimerで、二人ともMITにて航空工学を学んでいます。

FREC:ダイレクト・インデックスを手軽にできるプラットフォーム

HP:https://frec.com
設立年: 2021年
拠点:アメリカ(カリフォルニア州)
資金調達額:2640万ドル(約40億円)
著名投資家:Greylock(リード)

まず、インデックス投資とは、日経平均株価やS&Pといった株式指標自体に投資する手法です。ポートフォリオ効果によりリスクを減らしながら、安定したリターンを得ることができます。普通インデックス投資の際には、投資信託やETFなどを使い間接的に投資します。しかしそのため追加で信託報酬がかかり、また柔軟な投資をすることができません。
そこで注目されているのがダイレクト・インデックス投資です。こちらは株式指標を構成している株式に直接投資し、自分で管理してしまおうという手法です。この利点としては、特定の領域や会社の株式割合を増減でき、また損失が生じている株式を、似たような株式と交換することで、生じた損失を最終的な利益と相殺することができます。これにより課される税金を大幅に減らすことができるのです。

こうしたダイレクト・インデックスは利点が多いながらも、従来だと個人で管理するのに手間がかかるため実践する人は少なかったのですが、FRECは簡単に株式の管理や交換をできるようにすることで、より手軽なものにしています。
そんな個人投資家の救世主ともいえるFRECは新たにシリーズAにて、1965年に設立されたVC界の古株であるGreylockから出資を受けました。創業者であるMo Al Adhamは、Waterlooという理工系ではトップクラスの大学を卒業し、既に2社起業しているシリアルアントレプレナーです。

シード

rabbit:次世代の、自然言語による対話型オペレーションシステム

HP:https://www.rabbit.tech
設立年: 2021年
拠点:アメリカ(カリフォルニア州)
資金調達額:2000万ドル(約30億円)
著名投資家:Khosla Ventures(リード)

rabbitは人間とコンピューターの関わり方を根本から変えてしまうOSを開発しています。Generative AIの登場により、様々な作業を自然言語で対話しながら行うことが可能になりました。rabbitはこのAIをフル活用し、パソコンそのものを人間の言葉で対話可能にしてしまおうとしています。
rabbitのすごいところは、LLM(大規模言語モデル)やクラウドベースのインフラを、OpenAIやAWSからアウトソースすることで開発するのではなく、インフラ、LLM、OS、インターフェースまで全てを内製で作ろうとしている点です。またLLMの代わりにLAM(大規模行動モデル)と名付けており、よりユーザーの行動に基づいて対話できる基盤モデルを開発しています。

マイクで兎に話しかけると指示通りにパソコンを操作してくれる

そんなrabbitにリードでシード投資をしたのはまたもやKhosla Venturesで、このビッグ・ビジョンを支援するために約30億円もの破格の出資をしています。創業者はCheng LuJustin Orenの二人で、Chengは既にTuSimpleという自動運転トラックのスタートアップをNASDAQに上場させている手練れの起業家です。
rabbitのデモは、以下から体験することができ、まだただのイメージとしてのデモではあるものの、未来を感じさせてくれることができます。

Moonhub:AIリクルーター

HP:www.moonhub.ai
設立年: 2022年
拠点:アメリカ(カリフォルニア州)
資金調達額:1000万ドル(約15億円)
著名投資家:Google Ventures(リード)、Khosla ventures(リード)

Moonhubは人材採用のプロセスを全て自動化するAIを開発しています。企業はまずMoonhubと会話して採用したい人材の要件を定め、それをもとにMoonhubがLinkedInやX(Twitter)を含む様々なサイトから取得した10億人以上の公開プロフィールのデータベースを元に最適な人材をソーシングしてくれます。
現状は人材の提示までが自動化されていますが、ゆくゆくは面接の日程調整やフォローアップ、そして面接そのものすらも自動化していく予定です。企業と求職者、双方にとって負担がない採用プロセスが実現されるとともに、個人のインターネット上での言動全てが評価されるディストピアも感じられます。

10億人ものプロフィールのデータベースを持つ

Moonhubは既に2023年2月にシード調達を行なっており、今回は2回目のエクステンションラウンドとなります。どちらのラウンドでもGoogle VenturesとKhosla Venturesがリードで出資しており、このネームバリューにより複数回シードで調達しているのに他投資家からも資金が集まっているといえます。
創業者のNancy Xuは、学部から博士号まで全てStanfordでコンピュターサイエンスを専攻しており、その後はFacebookにてソフトウェアエンジニアをしたり、自分のベンチャーキャピタルを立ち上げたりとVCが好みそうな強力な経歴を持っています。

全体としての投資動向

投資領域の傾向

全投資先の領域の件数(被りあり)

今回の投資ステージはプレシード〜シリーズBまでと広い範囲の投資を見ていきましたが、全体としては当然ながらソフトウェアが多く、領域はAI、ヘルスケア、ファイナンスの順に多いことが見てとれます。AIへの投資の過熱はもちろんですが、ファイナンス分野への投資もフォローやミドルステージの投資にて盛り上がりを見せており、技術として安定期に入り始めたことが考えられます。

シード投資先の領域の件数(被りあり)

シード投資のみに注目すると、やはりAIがほとんどの投資を占めています。シードでのバリュエーションやディール数では、ほとんどの領域が今は落ち込んでいますが、AIだけは投資額、バリュエーションともに非常に高く、これによりシード全体の平均値すらも上げている状態です。シードの投資家が特に集中している領域と言えるでしょう。

投資額の傾向

シード投資額の散布図(Y軸は件数)

トップVCによるシード投資額は、250万ドル(3.8億)〜2000万ドル(30億円)のレンジとなりました。中央値は500万ドル(7.6億)、そして平均値は800万ドル(12億円)です。これに対し、米国の10月のシード投資全体の中央値は200万ドル(3億円)、平均値は300万ドル(4.5億)です。
ここから読み取れるのは、こうした著名VCの投資額がかなり上昇しており、また一部の投資先への大型投資が平均値を吊り上げていることです。ここにはAI領域の加熱やシリアルアントレプレナーの出現による投資競争の激化が推測できます。AI領域、かつシリアルアントレプレナーの場合、投資額やそれに応じたバリュエーションも急激に高まることが著名VCの投資動向から分かりました。

最後に

最後まで読んでいただきありがとうございました!
今回のような米国VCの投資動向に関しては、月ごとに継続して調査していきたいと思います。
またHAKOBUNEも、社会性を持つAGI(汎用人工知能)を開発するスタートアップ「EuphoPia」や、既存の食べ物より美味しいプラントベースフードを開発する「dishwill」など、社会を変えるビッグビジョンに投資しています。
これからの時代を象徴する不可逆な"変化"に積極的に投資していくので、起業家や、アイデア段階にいる方々はぜひお気軽にご連絡ください!

HAKOBUNEのウェブサイト:https://www.hkbn.vc
記者のTwitter:https://twitter.com/shinichi815


<著名VCリスト>

<参考資料>

全てのデータはCrunchbaseより取得しました。