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AIゲームスタジオが切り拓く、ゲームのネクスト・フェーズ

忙しいあなたに 〜この記事で伝えたいこと〜

  • ゲーム内のコンテンツは、プロシージャル生成によるランダムなコンテンツから、Generative AIによるライブ生成コンテンツへと移行している。

  • ゲーム内アセットやストーリーにGenerative AIを活用している「AIゲームスタジオ」も出始めている。

  • さらなるゲームの進化には、生成コンテンツの一貫性と構造を維持することが必要。

  • Generative AIとゲームの親和性は高く、これから最も熱い領域である!


細分化しているゲーム関連のGenerative AIツール

前回の記事では、Generative AIがゲーム業界にどういった影響を与えうるかについて書きました。現状では、例えばコーディングにはGithub Copilot、画像にはStable Diffusion、ストーリーにはChatGPTなど、ゲームにおけるそれぞれの要素に対して異なる生成AIツールを活用することでより効率的にゲームを開発しています。

ゲーム関連のGenerative AIツールのカオスマップ:Andreessen Horowitz

3Dアセットやキャラクターの表情の生成など、よりニッチなツールを提供するGenerative AIのスタートアップも出てきましたが、やはりそれらを丸ごと統一してゲームを生成するスタートアップはまだ少ないです。

ゲーム開発ツールの進化の軌跡:Andreessen Horowitz

現在、Generative AIはあくまでもCo-pilot(副操縦士)として、開発者のある部分における作業の幇助をしている段階です。しかし近い未来には、AIと協業、もしくはAIによる開発を人間がチェックするといった、AIネイティブな開発に変化していくと言われています。

こうしたゲーム開発AIの進化のある一つの終着点として、ストーリー含む全てのゲームアセットをGenerative AIにより生成することで、エンドレスに続くゲームの実現も可能になると考えています。

そもそもGenerative AIによる生成は必要なのか?

前回からGenerative AIによるエンドレスゲームの可能性を話してきましたが、そもそも必要なのでしょうか?
実はGenerative AIブーム以前にも既に、エンドレスにワールドを生成できるゲームは存在しています。例えば「Minecraft」や「No Man's Sky」などです。

No Man's Skyのプレイ画面

特にNo Man’s Skyは、プロシージャル生成という技術により、1800京もの惑星をゲームワールド内に持っています。
プレイヤーは1800京もの惑星データをダウンロードすることはできないため(Googleのデータセンターでも難しいでしょう)、特定のシード値をキーとして、その都度その都度生成しているわけです。
同じシード値であれば、地形や生物や植物などは同じものが生成できるため、これにより膨大な惑星を実質的には保有することが可能になります。

プロシージャル生成はこれまでのゲームにおいて非常に重要な技術であるため、より詳しく知りたい方はぜひ以下の記事を読んでみてください!

こうしたオープンワールドゲームにおいてプレイヤーは以下の3つのニーズを満たしています。

1.探求欲 - ワールドにおける新しいものの発見し、コレクションを持つ
2.創造欲 - 建築物やキャラクターなど自分が好きなものをワールド内に作る3.社交欲 - 友人や他のプレイヤーとゲーム内で交流する

まずGenerative AIはこれら全てのニーズをより高い基準で満たすでしょう。探究欲に関しては、よりパーソナライズされたワールドにより様々なプレイヤーに探索の楽しみを与えます。

また生成AIにより簡単に自分が思い描いたものを想像できるようになれば、これまでゲーム内でのUGC(User Generated Contents)制作に手を出せなかったプレイヤーもプロンプトだけで個人のアセットを創造できます。
さらにキャラクターAIがより対話的になることで、リアルのプレイヤーとの交流だけでなくNPCとの交流もさらに満ち足りたものとなるでしょう。

また現在のプロシージャル生成では、あくまでもアルゴリズムによってランダムに生成しているため、生成にストーリー性を持たせることはできません。しかしGenerative AIの発展により、プレイヤーの選択に合わせて、それに適切なワールドを生成することができるようになります。

例えばプレイヤーが特定のキャラクターとの関係を深めることを望んだら、それに合わせて適切なサイドクエストやゲームアセット、音楽までもを生成できるといった具合です。ゲームのメインストーリーとの整合性などの問題は出てくると思いますが、間違いなくオープンワールドゲームにより深みを持たせるでしょう。

そこで今回は、そうしたゲームGenerative AI領域の最先端を行く、数少ないAIゲームスタジオについて紹介していきます!

業界の最先端を行く、AIゲームスタジオ

Latitude:AI-Generatedゲームのパイオニア

HP:https://latitude.io/
設立年: 2019年12月
拠点:アメリカ(ユタ州)
シリーズ:Seed
累計資金調達額:410万ドル

Latitudeは「AI Dungeon」を中心に、Generative AIを活用した様々なゲームを提供しているスタートアップです。

Latitudeの最初のプロジェクトであるAI Dungeonは、Generative AIを活用したテキストベースのアドベンチャーゲームであり、2019年5月から始動しています。GPT-2の頃からすでに、Generative AIとゲームストーリー生成に目をつけていたのは驚きです。

AI Dungeonでは、プレイヤーはまず世界観と自身のキャラクターを選択します。そこからは選択された設定に合わせてストーリーがテキストベースで自動的に生成され、またプレイヤーはプロンプトに自由に書き込むことでストーリーを進めることができます。

AI Dungeonプレイの様子

こちらは実際に筆者がプレイした画面で、月のパワーを借りて地球の平和を守るスーパーヒーロー「Moon Lighter」としてストーリーを進めています。

悪者を倒した後に、助けた市民にクールなセリフを言うように指示したところ、「君はもう安全だ。月の光がそなたに安らぎへと導くだろう」といったようなセリフを生成しました。想像以上に気の利いたセリフが生成され、感動です。
言語モデルにはGPT-4を使っているため、より精度の高いストーリーを生成できるのでしょう。

他のプレイヤーが設定したワールド

また他のプレイヤーが設定を与えたワールドを選択し、そこからストーリーを始めることもできます。確かにプレイヤーの探究欲や創造欲を満たしているかもしれませんが、大きな問題として根幹となるストーリーラインがないため、いくら生成をしてもなんだか雲を掴んでいるような感覚に陥ってしまいます。

AI Dungeonの他には、VoyageというGenerative AIを活用した実験的なミニゲーム群を提供するプロジェクトもあります。しかし今のところはまだアイデアベースといった印象が強く、しっかりとしたゲームの形を取れているのはAI Dungeonくらいでした。

しかし早期からGenerative AIとゲームの可能性に目を付け、様々なゲームを実験的に提供している、AIゲームスタジオの先駆者のような存在なので、ぜひ遊んでみてください。

Hidden Door : AI-Generatedゲームの期待の新星

HP:https://www.hiddendoor.co/
設立年: 2020年2月
拠点:アメリカ(ニューヨーク州)
シリーズ:Seed
累計資金調達額:900万ドル

Hidden Doorは、Gnerative AIを活用したマルチプレイのロールプレイングゲームを開発しているゲームスタジオです。
こちらはまだリリースされていないため、実際のゲームはプレイできませんが、5月に投稿されたサイト内の開発ブログを読むと、プレイヤーはまずいくつかのキャラクターやプロット、さらにはバイブス😎を混ぜ合わせることで、「魔法のように」ゲームの枠組みを生成できるようです。

ゲームの枠組みを生成した後は、 AIナレーターの提案を見ながらプロンプトを打ち込み、ストーリーを進めていきます。またフレンドの提案を見ることもできます。
ゲーム内容としては基本的にはAI Dungeonと同じく、Generative AIを活用したTRPGですが、大きな違いは、プロンプトを打ち込むたびにストーリーと共にイラストも生成されることです。

Hidden Doorの仕組み

またマルチプレイの要素を組み込もうとしていることも興味深いです。1人のプレイヤーではなく、友達と協力してストーリーを生成することで、より想像力豊かで幅の広いアイデア(プロンプト)を出すことができ、かつ一緒に何かを作るという社交欲の部分も満たせるでしょう。

しかし問題点としては、AI Dungeonと同じく根幹となるストーリーラインの欠如となります。TRPGのようなゲームの形態においては、レベルアップやストーリーにおける目的といった要素が重要になってくるため、ただの行き当たりばったりのストーリーではプレイヤーを満足させられません。

Hidden Doorはまだ開発途中であるため、リリース時にはこうしたGenerative AIの「自由すぎる」問題を克服するゲームシステムを構築できるか、注目したいと思います。

The Culture DAO : 謎に満ちた分散型自律AIコミュニティ

HP:https://www.theculturedao.com/
設立年: 2021年
拠点:アメリカ(デラウェア州)
シリーズ:-
累計資金調達額:-

最後に紹介するThe Culture DAOは、AIエンジニア、ゲームクリエイター、NFTコレクターなどのための、分散型自律ギルドです。AIコミックやAIゲーム、そしてAIムービーといったAIコンテンツ領域におけるディズニーのような存在を目指しています。

アメリカのミシガン大学にて神経科学や物理化学などを専攻していたAnna-Christina Nevisonや、オックスフォード大学出身で、現在はFable SimulationのファウンダーでもあるEdward Saatchiなどによって創設され、その実態に関しては未だ謎に包まれています。

AIムービーやゲームを作るといったプロジェクトをいくつか進めており、どれもGenerative AIを中心とした実験的な試みとなっています。
その中でも現在は2つのAIゲームのプロジェクトが進行中です。

「TALES OF SYN」はイギリスのクリエイターであるHACKMANSが開発している、Generative AIを活用したRPGゲームです。製作に至った経緯や、具体的にどのようにGenerative AIをゲームに活用しているのかは、HACKMANSのブログにて公開されています。

初めはHACKMANSは、Generative AIを活用したコミックを制作しており、そこに可能性を感じたために、同じ世界観を継承するゲームの製作に至りました。

TALES OF SYNでは、Stable DiffusionをGoogle Earthの航空写真によってファインチューニング(微調整)することで、立体的な背景の生成を可能にしています。
キャラクターもStabe Diffusionから生成し、他のツールの活用により3Dキャラクター化させています。またNPCキャラクターとの会話には、GPT-3言語モデルを組み込み、よりインタラクティブな対話を可能としています。

これら様々なGenerative AIツールをフル活用することにより、近未来ディストピア的な完成度の高いRPGゲームを開発しています。
またHACKMANSはUnityなどでコーディングする際にもChatGPTを活用しており、迅速な開発を可能にしています。

TALES OF SYNの取り組みは、Generative AIによるゲーム開発の未来を示しています。従来のゲームスタジオが大勢で何年もかけて開発するようなゲームを、たった1人のクリエイターがここまでスピーディーに開発していることはゲーム開発の新時代の訪れを感じさせてくれます。

もう1つのAIゲームプロジェクトが、Looking Glassです。まだゲームの詳細などについては公開されていませんが、ゲーム内のキャラクターがインターネット上に接続することで、ゲームの枠を超えてアクションを取るといったコンセプトを取り込んでいます。

これを可能にするのが、元OpenAI社員が設立したスタートアップ「Adept」の提供するAdept AIです。Adeptは人間の代わりにコンピューターを操作してくれるAGI(汎用型人工知能)の開発を目指しています。Adeptの最初の大型アクションモデルであるACT-1は、多数のソフトウェアツールにまたがってユーザーのリクエストを実行できる、Generative AIツールです。

おそらくLooking GlassはこのAdept AIを活用することで、ゲーム外でもプレイヤーのコンピューターに干渉してくるような、メタ的な要素の入ったゲームを作ろうとしていることが想像できます。

またThe Culture DAOは名前からも見て取れるように、Web3.0の技術も活用しており、独自のソーシャルトークン「$CULTURE」の発行も行なっています。AIクリエイターや投資家やユーザーのエコシステムをWeb3.0を活用して実現しようとしていることも興味深いです。

Generative AIとWeb3.0の関係性についても、これからの記事で触れていきたいと思います。

AI生成ゲームの進化と未来

以上3つのAIゲームスタジオを紹介してきましたが、Generative AIとゲームの大きな可能性を感じるとともに、特にストーリーの制御という部分においての課題を認識しました。

おそらくこの課題は、「ゲームとは何か」という根本的な問いにまで遡ってしまうため、深くは追及しませんが、ベースとなる完成度の高いストーリーにプレイヤーを導きながら、ある程度自由度を与えるといった仕組みが、AI生成ゲームには必要になってくると思います。

ゲームデザイナーであり、起業家であり、作家でもあるJon Radoffは、「ゲームにおけるGenerative AIの5つのレベル」という記事において、Generative AIのゲームへの活用を5つのレベルに分けています。

ゲームにおける5つのレベル:Jon Radoff

レベル0:変化のない静的なゲーム
レベル1:ユニークなマップを含むプロシージャルコンテンツ
レベル2:テキスト、画像、音楽、NLP認識キャラクターなどのライブ生成コンテンツ
レベル3:一貫性と構造を維持している生成コンテンツ
レベル4:プレイヤーが何を好むかを理解し、経験をパーソナライズ/適応させる、高度な生成コンテンツ
レベル5:人間にとっての楽しみを探求する、完全な創造性

MinecraftやNo Man’s Skyなどのゲームはレベル1のフェーズにいたと考えられます。しかし直近のGenerative AIのブームにより、ゲームにもライブ生成コンテンツを取り込めるようなツールも数多く出てきました(詳しくは過去記事参照)。そうして圧倒的なスピードでレベル1からレベル2に移行する中、まだレベル3の、生成コンテンツの一貫性に目を向けているゲームスタジオは少ないです。

がむしゃらにライブ生成されたコンテンツをゲームに取り込むのではなく、何かしらの構造・システムによってストーリー≒一貫性を持たせることが、Generative AIによってゲームを「レベルアップ」させることに必要だと考えています。
そしてこうした進化の先に、プレイヤーにパーソナライズされたゲームという未来の実現があるのだと思います。

ゲーム大国である日本においても、Generative AIを活用したAIゲームが多く出てくることを期待しています。特に最近では、 少人数でGenerative AIを活用したゲームを開発している日本のAIゲームスタジオ、「AI Frog Interactive」がシードラウンドの資金調達を完了させていました。

最後に 〜求む、ゲーム系スタートアップ〜

次回の記事では、YCのGenerative AIスタートアップについて紹介していきたいと思います。

またHAKOBUNEはGenerative AIとゲーム領域はもちろん、将来の時代を象徴する"変化"に積極的に投資していきます!
これからの社会を担う起業家や、アイデア段階にいる方々ともぜひお話をしたいと考えていますので、お気軽にご連絡ください!

HAKOBUNEのウェブサイト:https://www.hkbn.vc
記者のTwitter:https://twitter.com/shinichi815


<参考資料>