荒木経惟セクハラ問題をまとめてみる。

 世間的にはこの春に一人のモデルさんによる告発で明るみとなった写真家・荒木経惟さんのセクハラ問題。
 関係者のコメントや報道など、記録の意味でまとめてみようと思う。

3人の告発

 まず確認できた告発を内容のまとめとともに挙げる。読み解けたことを中心にまとめているので彼女らの感情やニュアンスは本文を参照。相手方がいる場合の事柄に関しても、荒木さんや取扱ギャラリー、美術館など関係機関からの公的なコメントは現在のところなされていないため告発ベースの主観的事実を書いた。公的な裁判や第三者的な検証などは行われていない点は留意すべき。

1.  Kaoriさんの告発
 この告発は2017年8月に行われている。名前はKaoriと同名のモデルさんであるが、ミューズと呼ばれた方とは別の方だそうだ。話題は界隈の人たちにそれなりに広まったものの、ニュースサイトや雑誌が取り上げることはなかった。東京都写真美術館での大規模な展示の開催中であったが、展示関係でコメントは確認できなかった。

Kaori Yuzawa - What's about art ?  2017.8.5

・性的なハラスメントがあったこと
・それによりカウンセリングなど治療が必要な状態となったこと
・今でもフラッシュバックを起こすこと
・展示関係者、キュレーターにはその内容を伝えていること

2. ミューズと呼ばれたKaoRiさんからの告発
 2018年4月1日、 2001年から2016年まで荒木さんの撮影モデルを務めミューズと呼ばれたモデルKaoRiさんから告発が行われた。その内容は昨今のMetoo運動の機運もあり多くの拡散を起こし、メディアもこの問題を取り上げた。

KaoRi  - その知識、本当に正しいですか?

・同意書がなく、使用範囲やロイヤリティの同意なく撮影がされていたこと
・出版やDVDについても同意なく勝手に行われていたこと
・撮影報酬は撮影時に支払われたのみであったこと
・荒木さんの言動や作品での脚色や虚構がモデルさんのプライベートと同一視されプライベートが侵害されていたこと
・ストーカーなど実被害も発生していたこと(それに関し荒木さん側は積極的対応をしなかったこと)
・取材撮影などで性的なハラスメントを含むいくつかの強要が行われていたこと
・環境改善を求めたところ、実質的にクビになったこと
・有限会社アラーキーに対してネガティブコメントを出さない誓約書を強要されたこと
・弁護士を通じ作品の取り扱いの協議を申し出たが荒木さん有限会社アラーキーともに拒否、現在も妥結していないこと

3. 水原希子によるインスタストーリーでの告発
2018年4月9日、モデルの水原希子さんがInstagramのストーリー(24時間で消滅する投稿)に荒木さんとの仕事中に起きた出来事の告発を行った。スクリーンショットを撮った方のツイートより2件引用する

はあちゅうさんのツイートより
はあちゅうさんのツイートより

・企業広告の撮影でいわゆる手ブラを行った際「写真確認のため」という理由で20名ほどの男性社員(どこの社員かは記載なし)同席で撮影がなされたこと
・仕事だからと拒否できない環境であったこと

メディアの反応

次に報道を挙げる。告発文と重複する内容はまとめを省略。

4.  CINRA
荒木経惟の「ミューズ」だったKaoRiが告白文を発表 #MeToo に呼応

・4月7日の記事
・実質的にKaoRiさんの告発を第一報として伝えた

5. BuzzFeed
アラーキーの「ミューズ」と呼ばれた私のこれから。KaoRiさんが語る、告白後の心境

・4月12日の記事
・BuzzFeedは2017年11月から取材を行っており新たにインタビューをした上で記事にしている
・4月10日、KaoRiさんは荒木さんに電話をした。荒木さんはブログを読んではいたが謝罪などはなく、話し合いに至らず電話を切られた
・雇用の契約もなく、現金と領収書の関係
・取材などの同席に報酬はなし
・BuzzFeedは事実関係の確認をするため、4月2日と4月8日の2回、荒木サイドにメールを送信、返信がなかった
・4月9日自宅を取材し応答した女性は女性は「ブログについては昨日(4月8日)、人から聞きました。対応は事務所が一括して承っています。(事務所に)いる者が誰でも対応します」
・事務所を訪ねると、インターフォン越しに男性が対応。「ブログのこととか、ちょっとわからないので。わかる人がいないので」と話し、「コメントを出す予定はあるか」と尋ねると、「そういうのはありません」と答えた

6. 北海道新聞
「#Me Too」運動とアラーキーへの告発 アートは暴力の免罪符でない

・5月1日の記事 執筆:中島岳志=東京工業大教授
・写真史の研究者である戸田昌子さんのツイート(後述)に触れつつ、私写真とその被害の関係を伝えている
・”荒木経惟さんの事務所は今回の告発について、北海道新聞などでつくる新聞三社連合に対し「個別の取材には応じられない」としている。”

7. The New York Times
When an Erotic Photographer’s Muse Becomes His Critic

・5月5日の記事 Motoko Rich記者=NYT東京記者
・出版物の販売停止を求めたが断られた
・タカイイシイギャラリーから画像が削除された(どういった部分かは不明
・取材に対し、荒木側はコメント拒否

8. ナリナリドットコム
水原希子、アラーキーに「シンプルに残念極まりない」

・4月9日の記事
exciteへ記事提供されている

9. ビジネスジャーナル
水原希子、企業広告撮影でヌード強要告白が波紋…荒木経惟のヌード強要告発に賛同

・4月10日の記事
・KaoRiさんの告発と共に水原希子さんのストーリーについて記している

※水原希子さんに関しては直後から条件に合致する仕事として資生堂の元旦広告ではないかと指摘するツイートが相次いだが、資生堂はJ-CASTニュースの取材に"水原さんの所属事務所にも事実確認を依頼し、社内での調査も行いましたが、結果として、当社での広告撮影時に起きた出来事かどうかについては分かりませんでした"と回答している

研究者・出版関係者の寄稿・反応

 最後に関係者などの寄稿、ツイートを記す。投稿後に削除されたものなどもあり、その部分についてはKATO Kosei Ph.Dによるブログ、「カピタン・アラトリステと歌わない死神」の記事モンパルナス狂想曲さんのTogetterを参照元とするものもある。所感部分については必ずしも私の意見と同じではない。 またまとめに関しても、可能なものは要約となる箇所をなるべく原文コピーする(正直疲れた)、荒木作品に関する批評や分析も各所記載されているが、それについては原文を当たって欲しい。

10. 飯沢耕太郎さんによるREALKYOTOへの寄稿
写真批評家・編集者であり荒木研究者でもある飯沢さんの寄稿
編集長を務めた雑誌「deja-vu」では荒木経惟号も出している

アラーキーは殺されるべきか?
英訳版: A killer blow to Araki’s career? (発表当初は「#Arakitoo – a killer blow the photographer’s career?」というタイトルであった

・4月25日公開
・モデルたちはなぜ荒木に撮られるのか、森村泰昌のセルフポートレートの手段としての荒木経惟という主張を軸に、現代までのその変遷を考察している
・荒木が撮影したかったのは「娼婦」のイメージであり、(モデルの)”彼女たちの中にも、それに呼応できる身体的な記憶のようなものがまだ備わっていた”
・当事者間の問題に口を挟むつもりはない

公開後より写真研究者 小林美香さんや画家 永瀬恭一さんなどから疑問や反論のツイートがありTogetterにまとめられている

11. 元編集長 沖本尚志さん
写真雑誌PHOTOGRAPHICAの元編集長
KaoRiさんの告発にも記されている「KaoRi SEX Diary」と題した特集号を発行した

Facebookへのポスト(同内容がTwitterにも投稿されたが現在は削除)

・雑誌には、ヌードもストリートスナップも誰かのポートレートも作家が載せたいと思う作品はすべて掲載してきたので、いつかはこういう日が来るのだろうと覚悟はしていた
・でもまさか、KaoRiさんが声を上げるとは思っていなかった
・書かれていることはほぼ事実だろう。当事者にしか知り得ない話が多いからだ。つらかったんだろうな。モデルの傍らでバイトしているなんて知らなかったよ
・今回露呈した事実も、基本的には荒木さんとKaoRiさん二人の間の問題だ
・こういう状況を生んだのは、忖度の空気をつくったのは、僕らなのだろうなとも思っているし、責任の一端も多分にある
・雑誌は無くなったけれど、責任はまだ残っていると思っている

12. 元担当編集者 畑中章宏さん
平凡社月間太陽の元編集者「荒木経惟写真全集」の担当編集者
太陽は荒木のデビュー作「さっちん」以来関わりのある雑誌である

a.”アラーキーの元担当編集者として(中略)批判と擁護を含めて本1冊ぶんくらいは必要だからコメントしません”(ソース確認できず)
b.「アラーキーは殺されるべきか?」に付随する形での連ツイート

・私自身も編集者として、陽子さんの死以降の荒木礼賛の共犯者だったのだが。フェミニズムやジェンダーの文脈では、荒木の写真はたぶん時代遅れに過ぎるだろう
・もし今回の事態をもとに前向きなことが起こるとすれば、写真批評や写真批判が活気を持つことぐらいだと思うけれど、そういう期待はあまりしていないのである

アラーキーは、なぜ時代と乖離したのか? 元担当編集が明かす

・5月19日発表
・飯沢耕太郎さんの「アラーキーは殺されるべきか?」に同意
・それを元に荒木写真の人気の変遷(とその終わり)を解説している

13. 写真史家・戸田昌子さんのツイート(現在は削除されているものが多い)
写真史家・戸田昌子氏による荒木経惟の「私写真」批判(Togetter)

・Togetterがまとめである以上、既にまとまっているため省略
・先の飯沢さんへの批判ツイートの中には戸田さんへの言及もある

参考

写真研究者 小林美香さんによるまとめ
discussion_on_Araki

写真研究者の小林美香さんがこの問題を取り上げたメディア・雑誌を紹介するTumblrをしている

以上、私の感知した範囲で。
この問題に対して個人的に注視したいのは、1)専門メディアが今後どう扱うのか 2)各種業界団体(美術評論家連盟や日本芸術写真協会など)がどうアクションを起こすのか そしてなにより3)荒木サイド自体がどうコメントをするのか。何かあれば追記しようと思う。抜けがあったら教えてください。




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