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偶然ではない同点劇 〜J2リーグ第17節 レノファ山口FC vs 横浜FC 振り返り〜

2019年Jリーグ第17節 レノファ山口FC vs 横浜FCの試合は,1-1で引き分けとなりました。今回はその試合の振り返りです。

前回の試合の振り返りはこちらです。


3バックの山口に対する対抗策

山口が3-4-2-1のフォーメーションで臨むのは,この試合が2試合目となりました。前節の水戸は,山口の変更になかなか対応できず,効果的な攻撃をすることができませんでした。しかし,2試合目ともなれば,対戦相手も準備することができます。さらに相手は下平監督の率いる横浜FCです。綿密な分析からの仕込みをやってくることが想定できます。

そしてやはり,この試合での横浜FCは,3バックの山口相手にどのように攻めることが効果的なのかということをある程度示したと思います。

その攻め筋とは,3バックの脇,WBの裏のスペースを活用することです。

前線から人数をかけてプレスを行う山口ですから,当然その裏には広大なスペースがあります。特に,WBの瀬川・高木が前に出てくれば,その裏のスペースが空き,山口の3バックを外におびき出すことができます。すると,横浜は山口の3バックと自分たちの3トップで1vs1の状況を作り出すことができますから,後は1vs1に勝つだけで決定機を生み出すことができます。

選手起用からもスピードのある選手でサイドのスペースを切り裂いていきたいという意図が読み取れました。左サイドに松浦ではなく草野を起用したのは,そういった狙いからではないでしょうか。

横浜は前半,山口の左サイドを特に狙っていました。横浜の右SB北爪があまり高い位置を取らずに,伊野波や真ん中でボールを受けた松井からパスを受けます。この瞬間に,右WGの中山がディフェンスラインの裏に抜けてパスを引き出すという動きを見せていました。

38分20秒からのシーンはまさにこの形でした。伊野波からパスを受けた松井が大外の北爪にパスを出します。すると,北爪に瀬川がアプローチに行きます。そして,ここで中山が瀬川の裏のスペースに向かって走り出し,北爪もワンタッチでパスを送ります。しかし,ここは菊池が見事なカバーで対応し事なきを得ました。

このように,瀬川を引き出して,その裏を中山に使わせるというプレーは横浜の狙いの1つにあったのではないかと思います。

しかし,山口もこのプレーを予測していて,それに対応する策を準備していたと思います。なぜなら,瀬川が北爪にアプローチに行く回数はそれほど多くなかったからです。瀬川を簡単に前に出さずに菊池と2人で中山を抑えたいという思惑があったと推測します。それは,北爪に佐藤健太郎がアプローチに行く場面から読み取ることができます。

9分,16分,24分ごろのシーンはいずれも北爪に佐藤が出ていっています。そして,瀬川は後ろに残って中山に対応しようとしています。ただ,3回中2回は結局裏を取られてしまい,クロスからシュートまでいかれてしまいました。もちろん個人戦術の部分で瀬川になんとかしてもらいたかった場面だったかもしれませんが,この試合で言えば,瀬川が北爪に行って菊池がカバーして中山に対応することをはっきりさせた方が良かったかもしれません。

この攻め筋で横浜はチャンスを生み出していましたが,時間とともに菊池に対応され始めたり,山口を自陣に引き込んだ後のイバへのロングボールを楠本に防がれ始めたことで,前半の終わりぐらいから今度は山口の右サイドから組み立てていきました。

まずは,ヨンアピンや中里からの高木大輔の裏へのロングボールです。57分はこのプレーからイバの決定機を作り出しました。小野原の後ろへの対応が少しおぼつかないところを突いたプレーだったと思います。

そして,山口を左に寄せといてから右で仕留めるパターンも出てきました。前半はなかなか高い位置を取らなかった北爪が高い位置からフリーでクロスを上げたり,インナーラップからシュートを打ったりというプレーを出し始めました。前半は右の大外の低い位置に北爪,高い位置に中山という配置が多かったのですが,後半は大外に北爪が立つと内に中山が立ったり,大外に中山が張ると内側に北爪がポジションを取ったりすることで北爪がより攻撃的にプレーに関与していきました。

このように,前からくる山口に対して,サイドのスペースをスピードのある選手で活用し,前線にポストプレーができるフォワードを置きロングボールでプレスを無効化にするという攻め筋は,今後多くのチームが試みて来る可能性があると思います。ただ,イバほど強い選手はそう簡単にいませんし,中山ほど速くて上手い選手も多くいるわけでもありません。

山口もそんな選手たちがいる横浜に,ある程度対応できていたと思います。ですから,今後対戦するチームがこの攻め筋を頭に入れながら,どのように攻めてくるのかに注目していきたいです。


2トップ脇の健太郎さん

では,逆に山口のボール保持はどうだったのかを見ていきましょう。この試合の横浜は前節の琉球戦と同じように,多くの時間でボール被保持では4-4-2のフォーメーションを採用していました。琉球戦を見た印象では,横浜のボール被保持での1つのウィークポイントは自分たちからボールを奪いに行くアクションをかけられないことでした。

琉球戦では初めは4-1-4-1で守っていたのですが,その時も4-4-2に変更してからもボールを奪いに行くアクションをかけられず,間を取られてズルズル下がっていってしまうという場面が多くありました。(例えば38〜39分にかけてのシーンでは,中から外,外から中と自在にボールを回されて,最終的に徳元のクロス,クリアボールを拾われてまたライン間を使われ,西岡のクロスを鈴木孝司という形を作られました。)琉球のポジショニングと間を使うタイミングが絶妙だということもあるかとは思いますが,前線から連動して奪いに行くアクションがかけられないことは少し気になっていました。

山口もこの問題を把握した上で狙いを持って試合に臨んだようでした。試合後の霜田監督のコメントからそれが読み取れます。

-前貴之選手の代わりに出た小野原和哉選手への指示は?
 普通に考えれば、ツボ(坪井)の経験とか、守備の安定、がセオリーかなと思っていましたが、やはり貴之(前)が攻撃参加する、攻撃の起点になる、そして向こうのトップは脅威ですが、プレッシャーを掛けて来ない、ボールを持ち運べる機会が多いので、今日の3バックはどちらかというと相手を守るというよりも攻撃の起点にしたいということで、しっかりボールを蹴れる、つなげる、攻撃参加できる小野原にしました。

これは小野原の起用の意図を聞かれたものに対する回答です。その中で横浜がプレッシャーをかけてこない部分を意識していたことを挙げています。

一方で横浜の方も,その部分はある程度折り合い済みで,山口のダブルボランチから展開されないように意識をしていました。下平監督のコメントです。

--山口に対して、どのような守備を徹底させていたか。
われわれの2トップとボランチの間で、三幸(秀稔)選手と佐藤(健太郎)選手が本当に良い選手で、彼らからの配球をなるべくさせないようにというところで、まずはそこをコンパクトにする。彼らに自由に配給させないようにというタスクを与えて、そうなれば大きくサイドチェンジしてくるので、サイドの選手はそのサイドチェンジにしっかり対応する。あとはバックパスに対して連動してアップする。そういった守備のタスクを話していました。

横浜が,2トップがむやみに山口の3バックにプレスをかけに行くのではなく,2トップを低い位置からスタートさせ,2列目との距離を短くすることで三幸と佐藤に自由を与えないことを意識していたことが読み取れます。

お互いの狙いがはっきりしている攻防なわけですが,そんな中でも山口は狙い通り小野原のパスから前進することができていました,特に後半は,小野原・三幸・高木・池上が横浜ディフェンスの間に立ち,パスをつないで前進し,右サイドの奥をとってクロスという場面を何度も作り出していました。

そして,もう1つ右サイド以外からも横浜の狙いを打ち破る攻め筋を見せていました。それは,横浜の1列目と2列目の間のスペースから三幸と佐藤がいなくなるというものです。横浜は,1列目と2列目の間のスペースから三幸と佐藤に展開されることを嫌がって,その距離を短くしようとしていることを逆手にとった攻撃です。

山口は時より,三幸が横浜の2トップの手前に立ち,佐藤が2トップの脇のスペースに立つことでボールを前進させようとしていました。つまり,横浜が使われたくないと思っているスペースからではなく,その周りのスペースを活用しようとしたのです。

8分の高井のドフリーのヘディングシュートはまさにこの形から生まれました。この場面は1度相手を押し込んだところから始まっていますが,その後のスタートは池上からのパスを三幸が横浜の2トップの手前,最終ラインで受けたところです(8分35秒)。そして,三幸から2トップの脇に立っている佐藤にパスが出ます。この瞬間に相手の足が止まり,ハーフスペースと呼ばれる4-4のブロックの間に立っている池上にパスが通り,そこから大外の瀬川がフリーでボールを受け,クロスから高井のヘディングとなりました。

これは完璧でした。相手の狙いを逆手にとった見事な崩しでした。このシーン以外にも佐藤が2トップの脇で受けるプレーは,特に前半に再三見られました。しかし,この8分の場面以外は佐藤から大外の瀬川にパスが出るだけで,横浜に対応されてしまう場面もありました。画面からは見えない場面も多いのですが,大外の瀬川だけではなく,内側の選手がボールを受けるアクションを起こして,ボールを受けることが必要になってくるのではないかと思います。

次節の相手の岡山も4-4-2の相手なので,この2トップの脇で受ける佐藤からの展開はチャンスになり得るプレーだと思います。


相手のライン間を使う意識がもたらした勝ち点1

お互いの戦術的な駆け引きが見ごたえのあったこの試合ですが,結果は87分にPKで失点を喫したものの,最後の最後に吉濱のFKで追いついての引き分けでした。土壇場も土壇場で勝ち点1を掴み取った形でしたが,これは決して偶然ではなかったと思います。やるべきことをやりきったからこその同点劇だったと思います。

そのやるべきことというのは,横浜ディフェンスの間を使うことです。これまでの試合は,ビハインドの状況で終盤になると前線の選手たちが前に残るだけになって,効果的な攻めを全くできないまま終わってしまうということがありました。栃木戦のように明確にパワープレーにいくという意識があればロングボールでも何も問題はないのですが,ヴェルディ戦や京都戦はボールをつないで前進しようとする意識はあるものの,多くの選手が最前線に張り付くだけになって,パスミスが起こったり,セカンドボールを回収できなかったりになっていました。ヴェルディ戦の最後のドストンから高木へのパスミスはその象徴だと思います。

しかし,この試合は失点した後も「前線に選手が張り付いてあとはパウロ任せた状態」にならず,パウロからライン間の池上や吉濱にパスが通ってからの展開が出せていました。このように,横浜のライン間を使う意識を持ち続けられたからこそ最後のFKを獲得できました。試合後の選手のコメントからもこのことは読み取れます。

ピンチはあったと思いますけど、90分間通して自分たちがやらなきゃいけないことだったり、アグレッシブに戦うことだったりは前節同様にできました。今日は(吉濱)遼平くんの個人の能力ですけど、それでもちゃんとああやって点を取られたあとにゴール前までボールが運べていることと、(田中)パウロ(淳一)といった後から入った選手が特徴を出してゴール前まで行けていたので、そういう意味ではちゃんと勝点1を取れて悲観する内容でもないと思います。ここ2試合良い流れが来ていて、監督もまず6月は絶対に負けないと話していたので、それくらい強い気持ちを持ってまた1週間準備していけたらと思います。

これは三幸のコメントです。ボールをゴール前まで運べたことについて言及しています。吉濱も同様にコメントを出しています。

--相手にリードされたが、追いつくことができた。今までとは違う感触はあったか。
負けられないという空気で1週間練習やっていますし、試合でもみんな「絶対に負けたくない」という気持ちが出ていました。ああいうPKも小野原(和哉)の負けたくないという気持ちが出てしまったところだと思うので、そのミスをカバーできて、僕だけではなくて、FKを取った(池上)丈二と(山下)敬大の絡みもあって、みんなで取ったゴールなので、そうやってみんなでカバーできて良かったなと思います。

横浜のライン間を使った池上と山下の絡みについての言及があります。


このように,チームとしてヴェルディ戦,京都戦の反省を生かしてビハインドの状況でも攻撃していたことが推測できます。それがしっかり実った同点劇となったわけです。ですから,偶然ではなく必然の勝ち点1だったと思います。

やはりチームは1歩1歩着実に前に進んでいます。ですから,前に進んでいるという実感とこの試合に勝ちきれなかった現実と向き合いながらもやるべきことをやり続けていくだけだと思います。そして,その1歩が大きなジャンプに変わる時が来ることを信じて応援し続けたいと思います。


*文中敬称略
*レノファ山口公式サイトhttp://www.renofa.com/archives/result/19yokohama-h/)


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