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鹿児島の今後の戦い方を展望する 〜J2リーグ第37節 鹿児島ユナイテッドFC vs レノファ山口FC 振り返り〜

2019年Jリーグ第37節 鹿児島ユナイテッドFC vs レノファ山口FCの試合は,0-0で引き分けとなりました。今回はその試合の振り返りです。

この試合のプレビューはこちらです。


この試合はお互いにチャンスを作りながらも得点が奪えずスコアレスドローとなった一戦でした。山口は京都戦で見せたような前線からのプレスが序盤は特に嵌らなかったという印象を受けました。そして山口陣内深くまで入られボールを奪ってもすぐに奪い返されるという展開でのピンチがありました。一方で奪ったところから前線にボールが渡ればカウンターで決定機を作ることもできており一進一退の試合だったと思います。

さて今回のnoteでは私がDAZNの中継を観ていて気になったことを検証してみようと思います。もしかすると普段の振り返りと異なる雰囲気になるかもしれませんが最後までお付き合いいただけると嬉しいです。イメージとしては前節の京都戦と似ていると思います。

ではまず私が気になったことを発表したいと思います。それは「鹿児島の戦い方に変化は見られているのかそして変化があるとすればそれは効果があるのか!?」です。この試合のDAZNの中継を観ていると鹿児島のゴールキックの場面で「今日は自陣からつなぐことをしませんね」「リスクを回避してロングボールを多くしています」「後ろでのビルドアップはあまり見られませんね」といった実況解説の方の会話がありました。

確かに試合の中で鹿児島が使うロングボールは山口に対して有効だったと思います。前線からのプレスが嵌らなかった要因としてプレスに行ってもアンジュンスや堤のロングボールでひっくり返されてしまうことがあったと思います。

また山口の霜田監督の試合後のコメントでも似たような見方がありました。

— 前回対戦との違いはあったか

 前回の時の方が細かくボールをつないでくる印象はありました。前線に高さやパワーのある選手が入って、攻め方が変わってきているとは思いますが、鹿児島さんがやりたいサッカーを予測をして準備をしてきました。やれた部分もやられた部分もあったのでイーブンなゲームだったと思います。イーブンなゲームをものにできる勝負強さがチームに必要だと思います。

いつも鹿児島の試合を観ているだろう実況解説の方や対戦相手の霜田監督のコメントから鹿児島がスタイルを変化させていることが読み取れます。

自陣からでもボールを大事にして相手ゴールを目指すスタイルからリスクを回避してロングボールを使いながらもつなぐところはつないでゴールを目指すスタイルへ変化しているのではないかと思われます。

その上で私は,鹿児島のスタイルの変化が印象ではなく本当なのかということと鹿児島が残留するためにこの変化は効果的なのかという点が気になりました。ですから,この点を検証していきたいと思います。

今回これを検証するために用いる指標はパス本数ボール支配率の2つにします。リスクを回避するために前線への長いボールが増えているとすると1試合のパス数は少なくなることが推測できます。またロングボールが増えるとミスをする可能性が増えたりこぼれ球なんかでの五分五分の局面が増えたりすることが予測できます。すると相手ボールになる可能性が高まりボール支配率も低くなることが予想されます。

以上の考えからこの2つの数字を見ていきたいと思います。

まずDAZN中継のスタッツを見てみると鹿児島のパス数は459本でボール支配率は47%でした。この数字が多いのか少ないのかを判断するために直近4試合との比較をしてみましょう。

レノファkagosima

直近4試合にこの山口戦を含めると山口戦のパス本数は3番目,支配率も多い方から数えて3位タイとなっています。つまり山口戦の数字は多くもないし少なくもないと言えるでしょう。強いて言えば鹿児島よりもシーズン平均のボール支配率が低い町田と山口相手2試合続けて支配率が50%を下回っているところから多少スタイルの変化が読み取れるぐらいです。

直近の試合だけでは判断ができないのでシーズントータルの数字で捉えてみましょう。ここで頼りになるのがFootball-LABさんです。今回もFootball-LABの鹿児島の試合結果からパス本数と支配率を手集計しました。ちなみに,Football-LABのスタッツによれば,山口戦のパス本数は410本支配率は46.3%でした。

では鹿児島の今シーズンのパス本数の推移を見てみましょう。

レノファkago

これを見ると明確な傾向は見られません。多い試合もあれば少ない試合もあるといった感じです。ただ32節の山形戦を境に減少傾向が見られていると言えるかもしれません。

次にボール支配率の推移です。

レノファかご

このグラフからは全く傾向は見られないと言ってよいでしょう。5節から13節あたりは減少傾向が見られているかもしれませんが,最近はありません。

(*グラフの試合(節)の部分は23節の岐阜戦が延期された分が反映されておらず〜試合目と表現するのが正しいです)

つまり,パス数と支配率の推移からは鹿児島のスタイルの変化は読み取れないと言えるでしょう。ですからそのスタイルが変化しているのだとすれば,もっと別の数字を見る必要があるのだと思います。例えばパスの距離とかボールロストの位置などを見るとスタイルの変化が読み取れるかもしれません。

ただ,パス数に関していえば今後の試合を追いかけることで32節を境に減少していることが読み取れる可能性があります。また支配率も36節の町田戦を境に低くなっていく可能性もあります。

本当にスタイルが変わっているのかどうかは読み取ることは難しかったのですが,個人的に面白いことが分かったので一旦そのスタイルが変化している可能性が高いとして話を進めたいと思います。

では次にスタイルの変化が効果を発揮するのかどうかです。

私の意見では鹿児島が残留をするとするならば,上に書いた減少傾向が今後見られると思っています。具体的に言うとパス数は1試合平均で多くても450本,支配率は50%を下回ると予想しています。

つまり,山口戦で言及されていたようなスタイルの変化が残留のためには効果的であると思っています。

なぜここまで言い切れるのでしょうか。これは手集計の結果見えてきたものがあるからです。

手集計の後,今シーズンの鹿児島のパス本数とボール支配率を勝ち点を獲得した試合と獲得できなかった試合で分けそれぞれの平均値を出してみました。簡単に言うと負けた試合と勝ちもしくは引き分けの試合でパス本数と支配率に差があるのかという検証です。その結果がこちらです。

「負けた」試合・・・・・・1試合平均パス数523.4本
「勝ち」もしくは「引き分け」の試合・・1試合平均パス数436.9本
「負けた」試合・・・・・・1試合平均ボール支配率56.1%
「勝ち」もしくは「引き分け」の試合・・1試合平均ボール支配率47.1%

この結果を見てみると勝ち点を獲得した試合と獲得できなかった試合ではパス本数に約90本の差があり支配率にも9%の差があることが分かります。勝ち点を獲得した試合の方がパス本数が少なく支配率も相手より低いということです。先ほどの予想はこの結果に基づいているわけです。

だからと言って相手にボールを持たせた方が良いと一概に言えるわけではないかもしれませんが,この差は統計的に偶然ではない差であることは事実です。

おそらくボールの支配率が高くパス本数が多い試合では相手にブロックを敷かれて敵陣深くに入り込めず後ろで回しているだけになり,中途半端な位置でボールを奪われてカウンターで失点というパターンで勝ち点を失っていたのではないでしょうか。

これを踏まえて敵陣にいかに進入するかということを突き詰めた結果,後方ではリスクを回避してロングボールで敵陣に進入しても良いしそのこぼれ球を拾っての進入でも良いとなっていくのだろうと思います。先ほどの結果に基づけばこの戦い方になるのはある意味で必然だと思います。

私の結論としては山口戦の中継および監督コメントで言及されていた鹿児島のスタイルの変化は残留のためには効果的であるということになります。今後の戦い方も町田戦や山口戦のようなものになっていくと思われます。

このように残り6試合では試合の内容とともにパス数や支配率といったスタッツにも注目していくと良いのではないかと思います。鹿児島の残りの対戦相手は甲府・岐阜・岡山・柏・水戸・福岡です。柏以外の5チームは今シーズンのボール支配率の1試合の平均が50%を下回っている相手です。こういった相手にボロックを敷かれてボールを持たされるだけの展開でここまで勝ち点を落としていることが推測されるだけにボール保持に固執せずゴールに迫る意識が見られるかどうかが残留のポイントになると思われます。その意識が見られた場合にはこの相手に対しても結果としてボール支配率が50%を下回って残留を成し遂げられるのではないかと思います。今後の鹿児島の戦いおよびスタッツに注目したいと思います。


以上が今回の振り返りとなります。今回は試合の中で気になったことを指標を用いて分析しこれまでの戦いを振り返り今後の戦い方を展望するという内容になりました。鹿児島の話になりましたが山口でも似たようなことができるはずです。スタッツで何かを語ることは特にサッカーでは難しいことではありますが,残り5試合ぜひスタッツにも注目して観戦を楽しんでいきましょう。


*文中敬称略
*データは以下のサイトを参考にしました。
Football-LAB(https://www.football-lab.jp)

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