それでも、前へ 〜J2リーグ第14節 レノファ山口FC vs 東京ヴェルディ 振り返り〜
2019年Jリーグ第14節レノファ山口FC vs 東京ヴェルディの試合は,2-3で東京ヴェルディの勝利となりました。今回はその試合の振り返りです。
前回の試合の振り返りはこちらです。
1.前半で見られた両者の駆け引きを追う
この試合は,前半の攻防の中で,相手の策に対して効果的な1手を打ち合うという戦術的な展開となりました。その展開を3つの大枠の中で追っていきたいと思います。
1-1.試合の入り方に成功した山口の守備
前半の入りは,山口が流れを掴みました。その要因は,前向きの矢印でヴェルディにガンガン襲い掛かることができたことです。それは,相手がボールを持ったら,前線からボールを奪いに行き,ボールを取ったら素早く前に運ぶというサッカーです。
このサッカーは,山口が目指すものに近いということもありますが,vsヴェルディということを考えても非常に有効でした。ここからは,「なぜvsヴェルディに対して,有効だと私が考えていたのか」そして,「実際,立ち上がりの山口がどのようなプレーを見せていたのか」を見ていきたいと思います。
まず,「なぜvsヴェルディに対して,有効だと私が考えていたのか」という点についてです。それは,ヴェルディの持つスタイルと山口のスタイルとの違いにあります。
Football-LABのスタッツを見てみると,ヴェルディは攻撃回数がリーグで5番目に少ない122.9回であり,被攻撃回数はリーグで6番目に少ない123.9回となっています。さらに,「奪取」の数値はリーグで2番目に低いものとなっており,自陣での守備機会が多いほど高い数値が出やすい「守備」の値は,リーグで2番目に高いものとなっています。
ここから,推測できるヴェルディのスタイルは「ゲームを攻守にコントロールした,スローなテンポのサッカー」です。具体的に言うと,「ボールが相手にある時は,自分のポジションにつくことを優先し,相手が攻めてくるのを待ち構え,ボールを奪ったらまずは大事にしビルドアップを丁寧に行いながら前に運んでいく」ということです。
山口は常に前に早く攻撃することを目指しているわけではありませんが,どちらかといえばヴェルディとは逆のスタイルだと言えます。ですから,この試合は,スローなテンポでサッカーを行いたいヴェルディとテンポを上げ矢印を前に向けたい山口の戦いとなることが予想できたのです。つまり,どちらが自分たちの土俵に相手を引きずり込んでサッカーができるかという勝負だったのです。
だから,私はいつも以上に矢印を前に向けて,積極的にガンガン行くことが有効だと思っていました。山口の土俵でサッカーを展開するためにこのことが必要だと思ったからです。
では次に「実際,立ち上がりの山口がどのようなプレーを見せていたのか」という点についていきましょう。
立ち上がりにペースを掴むことが出来た要因は,前線からの守備がハマったことだったと思います。ヴェルディがやりたいビルドアップを自由にやらせていませんでした。
そこにはいくつかの要因があると思っているのですが,1つは山口のフォーメーションです。山口は前節の大宮戦と同じスタメンでこの試合に臨みましたが,中盤の3人の配置が異なっていました。大宮戦では中盤の底に佐藤と三幸を置き,その前に池上という形でした。しかし,この試合では中盤の底には佐藤が1人だけで,その前に三幸と池上が配置される,いわゆる逆三角形の形でした。
これは,相手のフォーメーションが異なることなど多くの理由があると思いますが,1つは前方にアプローチをかけやすくなるからでしょう。特に三幸は中盤の底に佐藤がいることによって前方に出て行きやすいということがあったと思います。
このように,プレスをかけやすい形で臨んだ山口が意識していたことは,「自分たちの右サイドにヴェルディを誘導すること」ではないかと思います。
基本的にこの試合は,ワントップの岸田がヴェルディのアンカーを務める井上を見ていました。そして,相手のCBが持った時には井上へのパスコースを消しながらアプローチをかけます。左サイドの高井は,ヴェルディの右SBの若狭へのパスコースを消しながら近藤に規制をかけます。この高井のアプローチの仕方によって右SBの近藤は,左CBの平にパスを出すことが多くなります。
すると,今度は高木が平に縦パスのコースを消しながらアプローチをかけます。これで,平は左SBの奈良輪にパスを出すことになり,高木が2度追いするか,前貴之がスライドしてきてその奈良輪に対応するかによってヴェルディの前進を防いでいました。
このように,山口が自分たちの右サイドに誘導したこととして考えられることは,ヴェルディの右ウイングである小池の存在です。正直この試合で小池が右サイドで出場するかどうかをどこまで予想できていたのかはわかりませんが,山口は小池を意識していたと思います。なぜそう言えるのかは後述するとして,ヴェルディに右サイドから運ばれて,小池に仕掛けられることを嫌がっていたのではないかと思います。
それから,ヴェルディの左サイドの奈良輪と河野のポジションバランスがうまくいっていた訳ではなかったことも1つの要因として考えられます。ここはDAZNの映像ではよく見えない部分もあるのですが,大外で幅を取る奈良輪に対して,河野が同じ外のレーンに立ってしまい前進できないシーンがありました。これによって,山口の前貴之が河野を捨てて奈良輪にアプローチできていたのではないかと思います。
こうして,山口は,準備してきた守備が見事にハマり立ち上がりに流れを掴み,そのまま先制点を挙げるという素晴らしいスタートを切りました。
しかし,このままの展開で試合が進むことはありませんでした。先制点の後に修正を施したことで,ヴェルディがそれまで誘い込まれていた山口の右サイドから効果的にボールを運んでいくことになるのです。
1-2.山口の右サイドから制圧を図るヴェルディ
山口の先制点を奪われたヴェルディが施した修正とは,「小池と河野のポジションを入れ替える」ということです。この修正によって,ヴェルディは山口の右サイドからボールを運ぶことができるようになりました。
なぜ,そうなったのでしょうか。
結論から述べると,「左CBの平がフリーでボールを運び,配給することができるようになったから」です。
では,これまで高木のアプローチを受けていた平が,どのようにフリーになっていったのかを見ていきましょう。
まず,小池が左サイドに移ったことでヴェルディの左サイドの配置が整理されたのだと思います。「大外の奈良輪,内側の小池」というはっきりした形がよく見られました。
これに対して,山口は三幸を左サイドから右サイドに移動させました。これが,先ほどさらっと書いた「山口が小池を意識していた」と考える根拠の1つです。小池がいるサイドの方に池上ではなく三幸にする理由は,池上の意識を後ろに持たせたくないからだと推測します。
さらに,内側にポジションを取る小池に,山口の右SBである前貴之が引っ張られ,彼も内側を締めるポジションを取ることが多くなりました。
これも小池を意識しているが故のことだと思いますが,奈良輪に前貴之がアプローチをかけることが難しくなってしまいました。これによって,奈良輪が空くことになります。そして,大外の高い位置にポジションを取る奈良輪を高木が意識せざるを得なくなります。よって,高木の守備時のポジションが低くなります。
すると今度は,高木が平にアプローチをかけづらくなり,平がフリーになる状況が出来上がるのです。
では,「平がフリーになるのであれば,ワントップの岸田が平にプレスをかければ良いのでは?」となるかもしれません。しかし,それは難しいのです。なぜなら,岸田にはアンカーの井上を見るという役目が与えられているからです。
ビルドアップの時に平と井上のどちらをフリーにさせたくないかを考えると,井上になると思います。ですから,平に規制をかけるということの優先順位は高くなかったのではないかと思います。
さらに,平が孤立しそうになると,佐藤優平がディフェンスラインに下りてきます。これも非常に大きなポイントでした。山口に先制点を奪われた後,佐藤優平は山口の中盤の選手に掴まれないように,度々ディフェンスラインに下りて,ビルドアップに参加するようになりました。すると,高木は奈良輪と佐藤優平と平を意識することになり,そうなると必然的に平の優先順位は低くなります。
これで,平がフリーでボールを持てるという状況が生まれました。そして,平から小池に縦パスが入ったり,平が運んで山口のディフェンスラインを押し下げてからの展開が生まれたりなど,かなりやりたい放題となりました。
簡単にまとめると,「小池が左に移り内側にポジションを取る→前貴之が小池に引っ張られる→大外の奈良輪が空く→高木が奈良輪を意識するポジションを取る→佐藤優平も高木の近くに下りてくる→平が空く」といった感じです。
山口が前からプレスに行けなかった要因は,メンタルの問題も確かにあったとは思いますが,ヴェルディの修正による変化も大きかったと思います。
ただ,山口もただ黙ってやられ続けるわけではありませんでした。前半のうちにさらなる修正を施し,流れを引き寄せました。
1-3.平に自由を与えるのは,もうやめよう
山口は15分ごろから35分ごろまでヴェルディに流れを持って行かれてしまいました。そこで,37分ごろにフォーメーションを変更します。逆三角形の形だった中盤を三角形に変えました。つまり,大宮戦と同じ形に戻したのです。この変更によって,前線からプレスをかける時はトップ下の池上と1トップの岸田の2トップの形でプレスをかけていくようになりました。
この変更の意図はどこにあるのでしょうか。それは「ヴェルディのCB,特に平にアプローチをかけるため」です。
これまで岸田1人で井上とCBを見なければならなかったわけですが,2トップになったことによってボールサイドの選手は相手のCBにプレスをかけ,ボールサイドと反対の選手が井上をケアすることが可能になるのです。これがハマりました。
これまで自由にボールを運べていた平に規制がかけられることによって,それぞれの選手が前方にスライドしてアプローチをかけることが可能になりました。
すると,前半残り5分ごろから前でボールを奪ってゴール前というシーンを作り出すことができるようになり,ヴェルディの流れを止めることに成功しました。
そして,前半は1-0山口リードで終了しました。
ここまで見てきたように,互いの試合前の狙い,それに対する修正によって前半の流れは「山口→ヴェルディ→山口」と移っていきました。両チームの戦術的な修正合戦は見応え十分でした。
2.紙一重の試合での敗戦
後半も山口は,2トップでプレスをかける形を採用し,流れを渡してはいなかったと思います。そういった展開の中で試合は2-3での敗戦となりました。
これで,ホーム2連戦で1勝もできなかったという結果となりましたが,この試合は紙一重でしたし,ポジティブな点が多い試合だったと思います。
紙一重だと考えるわけは,後半も決して流れを渡していなかったこと,そして,1失点した後に前からのプレスでボールを奪い,2点目を取るチャンスを何度も作り出していたことにあります。もっと言えば,1失点したシーンも山口が2点目を取っていてもおかしくないプレーから生まれたものでした。
それは,47分50秒前後の山口が中盤でボールを奪い,川井から池上にパスが渡ったものの井上に奪い返された場面です。このシーン,池上が川井からボールを受け,ターンして前を向けていたらどうでしょう?
一気にヴェルディの選手を,井上の含め6人も置き去りにできたシーンなのです。すると,4vs4の数的同数でカウンターを発動でき,うまくいけば山口の得点が生まれてもおかしくありませんでした。
しかし,実際は井上が1人で池上からボールを奪いきり,そのまま運んでシュートを打ってスローインを獲得,そのスローインからコイッチのゴールが生まれました。
この試合ではこのシーンだけでなく,何度かここでターンできていたらというシーンがありました,そこで井上潮音と渡辺皓太が立ちはだかりました。この2人のボール奪取力が素晴らしかったということではありますが,ここで勝てていればとは思わずにいられない紙一重の攻防がなんどもあり,そこでヴェルディが上回ったことが勝敗を分けたと思います。
また,ポジティブな点は,前半に見せた修正です。これまでは,その修正・対応が,愛媛戦のように相手にリードを許してからだったり,新潟戦のように後半になってからだったりしました。これは,相手に対して後手を踏んだ状態の対応なので,時すでに遅しということもあります。
しかし,この試合は1-0でリードした状態,そして前半のうちに相手の変化に対して対応し,流れを引き戻すことに成功しました。これは1つ前進した部分であると思うので,ポジティブに捉えたいと思います。
こうして見ていくと,山口は良い試合をしたと言えると思います。ただ,だからこそ,この敗戦は辛いものとなったのではないかと思います。(私には結構辛い敗戦でした。)
しかし,冷静に振り返れば,試合中の修正や岸田・高木のゴールなどポジティブな面が非常に多い試合でした。ですから,前を向いて次の試合に気持ちを向けることが大切だと思います。そして,やるべきことも変わらず,矢印を常に前に向ける,この試合の前半のようなサッカーだと思います。
まだまだシーズンは3分の2残っています。応援する私も前へと気持ちを向けていきたいと思います。
*文中敬称略
*データは全てFootball LAB(http://www.football-lab.jp/tk-v/)のものを参照しています。
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