一つ進んでまた一つ進む 〜J2リーグ第4節 ジュビロ磐田vsレノファ山口FC 備忘録〜

2020年J2リーグ第4節ジュビロ磐田vsレノファ山口FCを振り返ります。今週は水曜日にも試合があるので、さらっといきたいと思います。

今節取り上げたシーン
17分16秒〜44秒 楠本から森へのパスを石田にカットされたシーン
28分41秒〜29分30秒 池上が左からクロスを上げたシーン
34分34秒〜48秒 イウリのシュートシーン
39分03秒〜35秒 大森のシュートシーン
54分46秒〜55分8秒 高井の突破を小川大貴が止め、山口のコーナーキックとなったシーン
55分54秒〜56分23秒 パウロがクロスを上げたシーン

ボール保持の次のステップ

さて前節の愛媛戦でも上がったビルドアップについてですが、今節では改善が見られたと思います。試合の入りから相手の2トップに対してボランチの選手が1枚下りてサポートに入り、数的優位を作って前に運びたいという狙いは見えていました。それによってボールを保持する時間が作れたのは進歩なのかなと思います。ただ、これはジュビロがあまり前から奪いに来ず、持たせる意識でプレーをしていたことも大きく影響しているとは思いますので、一概に良かったとは言えません。

一概に良かったとは言えないのも、今節のプレーからはボールを保持した後どうしますか?という課題も出たと思うからです。ボールを保持したもののそこからスピードアップして相手のゴールに迫るシーンはそれほど多く作れませんでした。

そこで気になる点が大きく分けて2点ほどあります。1点目はチームとして狙うべきスペースや展開の共通認識が持てているかという点です。この試合では、ボールは保持しているもののパスを受けてから次を探して、また横に出すという場面がありました。パスを受けてから次を探しているからスピードが上がりません。これはもちろんジュビロが奪いに来るの待っているのに、なかなか出てきてくれないことに影響していたとは思います。ただ、ジュビロが本当に奪いに来たときに、山口側がその後の絵を描けていたのかというと描けていたり、いなかったりだったのではないかと感じています。

まず、描けていた場面だと28分から29分にかけてのシーンです。吉満のゴールキックが高井に入った後、高井がボールを後ろに下げたところでジュビロが奪いに来ます。安在から菊地、吉満下げていくとルキアンと小川航基が詰めてきます。ただそこで冷静に吉満から菊地へと繋ぎ、楠本にボールが出てジュビロのプレスを剥がすことに成功しました。そして前に出てきたジュビロの選手を尻目に楠本から最終ラインの背後への長いボールが出ます。イウリには合わなかったものの、そのこぼれ球は当然山口の選手の方が拾いやすくなります。ジュビロの中盤の選手はその前の場面でボールを奪いに前に出てきていたからです。

ということでこぼれ球を高井が拾い、相手の最終ラインとの勝負になりかけましたが、そこはジュビロの戻りも速く、池上にパスが出た場面で一度止められます。ただ、安在がヘルプに入ってボールを回収し池上のクロスまでいけました。このシーンは惜しかったと思います。

一方で、気になったのはCBからサイドのWGの選手への長いボールの使い方です。時より、「それサイドに蹴った後どうするつもりなの?」と思うような場面がありました。例えば、17分のシーンです。左の菊地から受けた楠本が右の森へパスを送る場面です。このシーン、結果として石田にヘディングでカットされ、こぼれ球をジュビロに回収されてしまうのですが、そうなるのも必然だと思うプレーでした。

注目したいのは選手たちの、特に池上のポジションです。

初めに、左へ展開しかける時にトップ下の池上も左に流れてボールを受けようとしています。菊地がボールを持っている時の前線の選手のポジションを見てください。以下のような形になっています。スクリーンショット 2020-07-12 12.09.38

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これを見ると池上が左に流れてきていて山口の選手がボールサイドに密集していることが分かります。山口の右サイドは森が1人でポツンといる状態です。この状態で楠本にボールが渡ると森へ向かって長いボールが蹴られました。

ここで石田がヘディングでカットするのですが、その時にこうなっています。

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当然左サイドで密集を作っていたわけですから、山口は森の周りに誰もいません。磐田は左SHの大森がいてこぼれ球に反応できるポジションを取っています。またボランチの上原も戻ってきている、イウリより伊藤の方がボールサイドにいることを考えると磐田が圧倒的に優勢の局面だと思います。石田にパスカットされればこぼれ球は当然磐田の方が拾いやすく、仮にパスが通っていたとしても武岡のサポートは遠く(これはおそらくです。正確なポジションは画面外でわからないのですが17分45秒のポジションを見るとこうなっていたかなと思います)、イウリも全く反応してない状況では、森と石田・大森の1vs2の数的不利の局面ができていたはずです。

これが良しとされているのかどうかは外からでは判断が難しいのですが、個人的には良いとは思えません。イウリが斜めに走っているなどのように誰かが反応していればいいのですが、この状態では森に突破してもらうしか術がないからです。同じようなシーンが34分や46分にもあり、これがデザインされているのかどうかが気になりました。

このような場面が今後も出るのかどうかで、良しとされているプレーなのかどうかの判断としたいと思います。ただこの試合の中では、これらのプレーは相手に防がれていたので、良いプレーとは言えないだろうと思っています。

そして2点のうちのもう1点がチャンスになりかけたシーンでのプレー選択や精度です。これらが足りず得点を挙げるまでなかなかいきませんでした。例えば、34分の前線からのプレスで奪ったボールを高が拾い、最終的にイウリがペナルティエリアの外からシュートを打ったシーンです。高井のパスが少し流れたことが影響しているかもしれませんが、池上からのパスはイウリで良かったのでしょうか。映像を見る限り体の向きやバランス的にそこしかパスが出せないようにも思えますが、同時に右足でちょんと触れば完全に裏へ抜け出した高井へパスが出せるようにも思えます。結果論では高井にパスが出ていた方が最も得点の可能性が高かったと思います。池上が高井に出す選択ができていれば、もしくは自分にリターンが返ってくるような精度で高井から池上へパスが出ていればというシーンでした。

そして55分、池上との関係で高井が小川大貴の背後を取ったシーンです。ここで高井は切り返しを選択して戻ってきた小川に守られてしまいました。縦突破からクロスの選択もあったでしょう。もちろん小川がよく戻ったこととイウリへのクロスのコースを伊藤がちゃんと戻って切ろうとしていることも見逃せませんが、結果的に何も起こせないシーンとなってしまいました。

また、その直後のコーナーの流れからそのままビルドアップに入り、56分9秒で菊地がセンターサークル内でフリーでボールを受けた場面もチャンスになりそうなシーンでした。菊地から大外のパウロにパスが出て、その内側を高がサポートするようにランニング、これは山口がやりたい形です。パウロからスペースへ走った高へパスが出ると、またパウロに戻します。この瞬間ペナルティエリア内は3vs3になっています。もっと言うとイウリへのマークの部分で小川大貴と藤田の動きが被ってしまい、大外で石田に対して高井と池上の2人がいるという数的優位の形ができています。そしてクロスを上げるパウロはフリーです。ただ、パウロのクロスは池上の頭の上を越え、これまた何も起こらないというプレーになってしまいました。

このように大チャンスになりかけたシーンを決定期に結びつけられず、チャンス未遂で終わらせてしまうと、得点を奪うにはなかなか至りません。これはプレーしている選手個人の判断とプレーの精度にかかってくる部分なので、応援するしかありません。これが得点になるように応援しましょう。

この試合では、ボールを持った後どう得点まで結びつけるのかという部分で2点挙げさせていただきました。今後これらのプレーがどう変化していくのか、それとも変わらないのかを見守っていきたいと思います。


奪いに行けない時に生まれる隙

最後に守備について少しだけ。この試合では磐田のビルドアップを阻害するためのプレスを見ることができました。山口のWGの高井と森が磐田のCBの藤田と伊藤に突撃する形です。その際、イウリは真ん中にいてボールサイドのCBを見ながら縦のパスコースを切り、トップ下の池上は下りていこうとするボランチの選手(特に上原)をマークしていました。この形が出せる時はボールを奪うこともできていて、先ほど挙げた34分のシーンもこのプレスでした。

ただ一方で、試合が進み少しずつ疲労が溜まってきた時の待ち構える守備には課題が見られました。試合の中で攻守の切り替えが頻発し、3トップが守備のポジションに戻れなくなった時の話です。

1失点目は連続で与えた2本目のコーナーでやられた訳ですが、その1本目を与えることになった大森のシュートシーンはまさにこの課題が顕在化したシーンだと思います。

磐田のビルドアップに対して、まず山口は守備の立ち位置が取れていません。選手間の距離感が遠く、ファーストディフェンダーも決まっていない状況です。実際、イウリのポジションは左サイドから始まりセンターサークルの外にずっといます。磐田が右から左、左から右へボールを動かしている時にも中を締めることはできておらず、39分17秒で上原がボールを持っている時に縦のパスコースが空いています。

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この時にまず考えることは正しいポジションに戻り、中を締めることだと思っています。前に出ていくよりも先に戻ることが重要だと思います。それは選手間の距離が遠い状況で誰かが前に出てしまうと、他の選手の連動が出来ず逆に動いた後のスペースを空けてしまうことになるからです。

この局面では、磐田のボールが右サイドに出てきた時に左の高井が前に出ます。ただ、ボールを持つ藤田のパスコースを限定するには至っておらず、内側の松本と外側の小川大貴にパスが出てしまう状況になっています。さらに、内側の松本に対してボランチの佐藤のカバーも遅れており、かつ逆の高や森も絞れていません。ただでさえファーストディフェンダーが決まっていない場面で高井がアクションを起こしたことにより、完全に後追いの状況になってしまいました。

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結果的には藤田から内側の松本にパスが出てそこから山本を経由し左に展開、大森のシュートとなりました。このシーンはまず戻る、そして自分たちの体制が整ってから前に出るということができれば、もう少し抵抗ができたのではないかと思っています。それだけに、一瞬の隙を突かれたような形となり悔やまれるシーンだと思います。

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ここで課題と思われるのが、試合が進んでいった際イウリが真ん中に戻れなくなった時の守備です。どうするのが良いのでしょうか…

磐田をヒントにしてみましょう。磐田は時より少し開いた相手CBに対して2トップが圧力をかけ、真ん中に下りていこうとしたボランチにはボランチの上原か山本が出ていく形を見せていました。その際中盤には残ったもう片方のボランチ1枚になり、中盤に大きなスペースが生まれてしまいそうですが、SHの大森と松本が少し内へ絞ったポジションを取ることでバランスを取っていました。4-3-3気味になる訳です。

これも1つの方法だと思いますが、山口としてはWGの高井と森はあまり下げたくないはずなので、現実的ではないかもしれません。そうなるとやはり、「まず戻る」、戻る時は「まず中を使わせない」、そして外回りにさせているうちに体制を整え、整ってから前に出るという形が良いのかもしれません。

再開後3試合を振り返るとまだまだ山口の守備は相手に依存する部分が大きいと思います。SHが中にポジションを取り、SBが外側のスペースを使う形でどちらかと言えば中に密集しがちな岡山に対してはコンパクトな陣形を保って守備ができていました。ただ、磐田のように立ち位置でピッチを広く使おうとする相手にはまだまだコンパクトさが保てていないのではないかと思います。

その辺りで相手関係なくプレスと撤退守備が使えるようになるかどうかがこの先のポイントになるのではないでしょうか。次節の徳島は立ち位置でピッチを広く使ってこようとする相手です。メンバーも変わると思いますがその中でどのような対応を見せるのか注目しましょう。



*文中敬称略

*明日がもう試合なので一旦アップしましたが、本日夜に一部図を追加したり追記したりするつもりですので、またよろしくお願いいたします。


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