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決定力という言葉に逃げていいのか!? 〜J2リーグ第7節 ギラヴァンツ北九州vsレノファ山口FC 備忘録〜

2016年ぶりの関門海峡ダービーでした。

J2リーグ第7節ギラヴァンツ北九州vsレノファ山口FCの試合の備忘録です。


山口の阻害方法と北九州のスタンスの攻防

まずこの試合で注目したかったのは、北九州のビルドアップを山口がどのように止めに行こうとするのかでした。なぜなら、北九州は4-4-2のシステムからボランチの加藤が左のCB-SB間に下りて3バック化する形を持っており、そこからの前進はどのチームに対しても見せる基本的なスタイルです。それに対して、山口も基本は2トップでプレスに行くので北九州が数的有利を得ることが考えられたからです。そういった意味で山口のプレスの掛け方には注目していました。

結論として、山口はそれを止める術を1つ持っていたと思います。それは小松がトップ下的な役割を担いアンカーの國分をマークし、3バックに対してイウリ・高井・池上でプレスをかける形です。開始直後2分の北九州のキーパーからのビルドアップに対し、山口はこの形を見せボールを奪いました。4分のイウリのパスから小松がシュートまで持ち込めそうだった場面の直前も、小松はまず國分を意識した立ち位置を取って守備を行い、スローインを獲得しています。

このように、山口は北九州のビルドアップを阻止しようという形を見せ試合に入ることができていました。

ただ、それに対する北九州も「簡単には奪わせないよ」というスタンスを見せました。7分のドロップボールからプレーが再開した場面では、3バックの真ん中の村松がイウリから離れたポジションを取ることで小松を引きつけ、國分に時間を作って前進したり、そのほかの場面でもゴールキックなどでキーパーがロングボールを蹴ったり、山口のミスから素早く敵陣に進入し相手を押し込んだりすることで、山口の形を出させないようにしていたと感じます。こうした攻防によって試合は一進一退の展開となりました。

互いに敵陣進入後にパスミスが出たり、最後のクロスの質が足りなかったりなど決め手に欠く展開の中、先制点を奪ったのは北九州でした。きっかけは山口の攻撃で、川井のパスを高が敵陣深くまで追いかけたところでした。そのボールを村松がクリアせずに加藤に繋ぎ、永田、國分と渡ったところで山口の最終ラインと4vs4の状況が生まれ、椿がペナルティエリア内に進入してから逆サイドの高橋へパスが出てゴールとなりました。山口としては川井が永田のところに出て行って剥がされたところでだいぶ厳しい状況となりました。高にパスを出したポジションを考えると川井はステイでも良かったかもしれません、高井もいたので。ただこれも結果論ではあるので次に生かすしてほしい気持ちとともに北九州を誉めたいと思います。

この後、山口は北九州の攻撃の裏返しで福森の裏を取った高井の突破から2度相手ゴールを脅かすもゴールは奪えず、北九州リードで折り返します。

後半は基本的には北九州の試合だったと思います。同点に追いつきたい山口も56分にサイドからのクロスの折り返しに反応した高のシュートで決定的な場面を作るも決めきれず、途中投入のディサロのポストプレーでうまく時間と陣地を取られて決定機を多く作られました。北九州としては、このディサロが追加点を奪うのですが、彼はゴールだけでなく菊地とのマッチアップでもファウルを貰うなどほぼ全勝でチームに貢献していました。彼のプレー無しでは勝利はなかったと思います。

山口は途中投入の河野のシュートや吉濱のクロスでゴールには迫りますが、ゴールを奪うには至らず北九州が2-0で勝利を収めました。

ここまでが試合全体の大まかな流れとなります。
ここからはこの試合で気になったことをいくつか述べていきたいと思います。


北九州が山口を上回った部分とは

試合終了後、実況解説のお二人は山口は再三チャンスを作り、3.4点取れてもおかしくなかった、最後の精度が足りなかったのだというようなコメントをされていました。私もそれを聞いて「確かに決定力がね・・」と一瞬思いました。試合後のTLもそんな雰囲気が漂っていたように思いました。しかし、一度冷静になってこう思いました、「決定力がね・・と言えるほどチャンスがたくさんあっただろうか」と。敗因を決定力という言葉で済ませてしまうのは、なんだか危険な気がしたのです。印象として北九州の方が決定的なチャンスが多かったような気がしますし、山口の決定機も56分の高のシュートが思い浮かぶぐらいだったからです。

そこで、「決定力」という言葉に集約できるほどチャンスを作れたのかどうかに注目して試合を見返してみました。そしてここでは私の手集計ではありますが、この試合で生み出されたチャンスの数を北九州と比較してみたいと思います。

以下の画像にシュート本数と決定機の数を主観に基づく手集計ですが、まとめました。

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こちらが90分での数字になります。DAZNの中継では北九州がシュート13本(うち枠内が5本)、山口もシュート13本(うち枠内が6本)となっています。多少誤差はありますが、枠内シュートの数が北九州は一致、山口は1本の誤差ですのでそこまで問題はないと判断しています。念のため、記事の最後に何分のシュートシーンをカウントしたかを載せておくので、それを参考に差分を発見した場合は指摘いただけたらと思います。

シュート数を比較すると12-10(DAZN中継内では13-13)と大差が無く、それは枠内シュート数でも同様です。これだけを見るとチャンスの数に差はないように感じますが、その下を見ると「チャンスの質」に差があることが読み取れます。ペナルティエリア内からのシュートが9-5と北九州の方が4本多く、それに伴い決定機の数も北九州の方が多かったです。当然、ゴールに近い距離からのシュートの方が得点の可能性が高いはずですから、そういったチャンスを北九州の方が多く作れていたということになります。

前後半それぞれの数字はこちらです。

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前半は山口の方がシュート数は多いですが、エリア内からのシュートや決定機の数は北九州の方が多いことが分かります。北九州の決定機としてカウントしたのは得点シーンと35分の池元のシュートシーンです。一方山口の方はシュート自体は打ち、枠は捉えているもののほとんどがエリア外からのシュートでした。決定機としてカウントしたのは36分のイウリのシュートシーンです。4分の小松の当たり損なったシュートシーン34分の高井のミドルも決定機としてカウントするか迷いましたが、総じて北九州の方が得点可能性の高いシュートを打っていました。

後半は全ての指標で北九州が少しずつ上回りました。山口はこの試合で最もゴールに近づいた56分の高のシュートシーンはありましたが、それ以外では効果的な場面を作りきれませんでした。一応、70分の高井91分の浮田のヘディングも決定機としてカウントしましたが、北九州のそれと比べると得点の可能性は低いシーンでした。

これを改めて見た私は、北九州の方が得点の可能性の高いシュートシーンを数多く作っていたし、山口の方は56分の高のシーンぐらいだったのではないかと感想を持ちました。どちらかと言えば決定的なシーンを外していたのは北九州の方だったと思いますし、それをチャンスの質と数で補った2得点だったと思います。

結論、この試合の山口に対して決定力不足という言葉をもって片付ける気にはなれません。あとは決めるだけというシーンをいくつか作って決まらないのであれば決定力不足になると思いますが、それだけのチャンスの数と質が足りていないと思います。この試合はチャンスの数と質を考えても北九州が勝つべくして勝った試合だと言えるでしょう。


昨年のチームとの比較から今年のチームの課題を探る

では、山口視点で見たときにチャンスを増やすためにはどのようにしたら良いのでしょうか。まず、ラストパスやシュートの質を上げることがあると思いますが、それだけの要因ではないことはこれまで述べてきました。もちろん、外から見ている自分が明確な答えを出せるわけではありません。ただ、そのヒントぐらいは見つけられると思いましてFootball-LABのスタッツを見てみることにしました。すると、昨シーズンの山口の攻撃に関するスタッツに大きな違いがあることに気がつきました。

以下のFootball-LABさんのサイトにある画像をご覧ください。

スライド4

見比べていただくと分かると思いますが、昨年のチームとはかなり違う数字になっています。ゴールは琉球戦の4得点があったこともあり変化がありませんが、攻撃に関する数値は軒並み低下しています(タックル数が大きく減っているのは中継でも言及されていましたね)。

チャンスの数をどう増やすかという観点で注目したいのは下の4つの数字です。下から2番目の攻撃回数が昨年より19回減っているのは、相手のボールを奪いに行く回数が減ったからだと考えられます。なぜなら、支配率とタックル数の低下から相手にボールを持たせた状態で奪いに行かず時間を過ごしていることが示唆できるからです。これは夏場のリーグ再開によって攻守の入れ替わりを増やして体力を消耗したくないという思いが関係しているかもしれません。

ただ、ここでより重要なのは30mライン進入回数とペナルティエリア進入回数の減りようです。1試合の中で昨年より敵陣深くへの進入が10回減っており、ペナルティエリア内への進入が3回減っているということです。このままではチャンスの数は増やしようがありません。ここの改善が今のチームに必要不可欠だと思います。

こうなっている要因は攻守両面にあると思います。守備面では先ほども言及したように、ボール相手に持たせた状態で奪いに行くアクションが少なくなっていることによって自陣でのプレーの時間が増え、ボールを奪う位置が低くなっていることが影響していると考えられます。ただ、今年の状況で闇雲に奪いに行けとは言えません。実際、前からのプレスで奪うシーンは作れているので、試合の中でのメリハリが大切になるだけでそこまで大きな問題ではないと思います。

それよりもボール保持でのプレーが問題だと思います。これまでの備忘録でも言及してきた通り、やはり自陣からどうやって敵陣深くまでボールを運ぶのかが今年のチームの課題なのでしょう。いない選手のことを言ってもしょうがないのですが、三幸と前の存在の大きさを痛感するところであります。

今年のチームの前進方法は基本的にCBからサイドへのロングボールだと思います。まず考えるべきはその長いボールを蹴った後にどうするかでしょう。26日のマリノス戦のコンサドーレの1点目のようにサイドの選手(ここではルーカス)への長いボールに対して内側を走る選手(ここでは駒井)の関係が、今年の山口ではどのくらい見られているでしょうか。ボランチの高が内側を走る場面はよく見ます。それから高井が大外で受けた時に安在が内側を走るのもよく目にします。しかし、ここの関係の精度はもっと高められると思います。

ただ、そうは言っても山口に対してサイドへのロングボールと内側のランニングはどこのチームも警戒してきます。ですから、いかに中を使えるかも今後の大きなカギになってくるでしょう。中を使えていないと相手を中に密集させることができず、サイドへのロングボールの恩恵を十分に受けることができないからです。そのためには、相手のファーストプレスラインよりもプラス1を作り、ボールを運ぶフェーズに入ることがやはり必要なのではないかと思います(「相手が2トップなら3枚で」のような)。

はじめに述べたロングボールを生かすためには吉満と楠本の存在が重要になってくると思いますし、後に述べた中を使うためにはボールを持って捌ける高や池上、吉濱などの活躍が個人としては不可欠になってくるでしょう。


改めて、決定力だけではなくその手前のチャンスの構築にも課題があることは感じ取ることができたのではないでしょうか。決めるべきところは決める、決められないのなら同じようなチャンスをたくさん作るという言葉ではあまりにも簡単だがですが、実際にやるのは相当難しいことがどのくらい表現できるようになっていくかを追っていきたいと思います。

そして、今年の山口のサッカーを追ってく上で、今回述べたようなことを頭の片隅に入れてFootball-LABのスタッツを追っていくのも面白いのではないでしょうか。


*文中敬称略
*画像はFootball-LAB(https://www.football-lab.jp/r-ya/)のサイト内の物を使用しています。

*今回言及したチャンスの数を増やすためのサイドへのロングボールは、この記事の内容が実践できているかに注目してみると良いと思います。自分も注目します!

*チャンスの数の手集計の詳細は以下の通りです。

北九州
[シュート](*は決定機)
・21分福森のシュート
・28分高橋のゴール*
・35分池本のシュート*
・48分椿のシュート*
・58分高橋のシュート*
・64分加藤のシュート
・66分町野のシュート
・75分ディサロのヘディング
・82分ディサロのゴール*
・86分内藤の裏抜け出し*
・87分町野のヘディング*
・93分川上のシュート
山口
[シュート](*は決定機)
・4分小松のシュート
・10分高のシュート
・18分高のシュート
・19分イウリのシュート
・34分高井のシュート
・36分イウリのシュート*
・56分高のシュート*
・70分高井のシュート*
・85分河野のシュート
・91分浮田のヘディング*

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