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立ちか、座りか

ライブ本番は立って演奏するのか、それともイスに座って演奏するのか。弾き語りの練習を始めて、割と早い段階でそんな悩みにぶつかった。本番に即した状態で練習を重ねていくことで見えてくる課題、問題点があるだろうから、立ちか座りかは早めに決めたほうがいい

座りの場合は、イスの形状や高さによって、アコギを演奏しやすかったり、演奏しにくかったり、状況が変化してしまう。演奏しやすいイスを持ち歩ければ問題ないが、荷物が増えてしまうのは本意ではない。40代半ばからびっくりするぐらい体重が増え、体形的にも、座って演奏しようとするとお腹が邪魔でギターをちょうどいい位置で構えにくい。

立って演奏するなら、イスの形状に左右されず、ギターと自分の関係性は常に一定に保てる。座っているときより声も出やすい。そして、ロックバンドでエレキベースを弾くときも、サンバチームで打楽器を叩くときも、立った状態で演奏してきたので、座っているときよりもリズムが取りやすい気がする。そういえば、今回、弾き語りをやってみようと思うきっかけになった、知久寿焼さんも弾き語りライブでは立って演奏していた。

弾き語りだからこそ、座ってた状態で語り掛けるように弾くスタイルもありだと思ったけれど、自分にとっては「立ち」のほうが格段にメリットが多い。長々と思い悩むこともなく、弾き語りは立ってやることに決めた。

立って弾くことに決めたので、ギターにはストラップをつけて肩にかけて構えることになる。ストラップは、長くしたり短くしたり、1センチ単位で調整してベストな長さに調整した。ストラップの長さが定まると、アコギの構え方も定まる。

以前、フットサルに熱中し、技術を教わりにフットサルクリニックという、2時間完結型のレッスンに通った時期があった。基礎練習に特化したメニューを組んでくれるコーチに習ったので、ボールを蹴るときのフォームを徹底的に教わった。楽器演奏も大事なことは同じ。何よりフォームが重要である。基本フォームを体にしみこませて、そこに様々なニュアンスをつけ足していく。そのための基となるのがストラップの長さだ。完全に納得がいくまで何度も調整を繰り返す。

ロックバンドの場合、ストラップを長くして、ギターやベースを低く構えるのがかっこいい、みたいな風潮もある。しかし、今回の弾き語りは、弦高が思うように調整できないギターなので、握力が目いっぱい必要になるため、ネックをぎゅっと握りしめられる位置で構えなければならない。必然的にギターの位置は高めになる。かといって、位置を高くしすぎると、ピックを握る右手のストロークが窮屈になる。そのあたりを考慮して、絶妙なストラップの長さを探っていった。


メインギターもサブギターも、本体にピックアップ(マイク)はついていないため、本来ならスタンドに立てたマイクで音を拾ってもらわなければならない。でも、立って演奏すると、曲調によって上体が動くことになる。リズムをとったり、聞かせどころで自然とギターの角度が傾いたり。間奏の間は一歩後ろに下がってみたりも。すると、アコギの音を拾うマイクから、遠ざかったり近づいたりという現象が起こることになる。ライブ会場の音響さん泣かせだし、自分の特別上手ではない演奏を届けるうえでもマイナスになる。

座って弾けば、動き回ることもないのでスタンドに立てたマイクでアコギの音を安定的に拾うのも容易だ。だが、自分としては立って弾いたほうが絶対にいい

サウンドホールに取り付けるタイプのアコギ用ピックアップや、ボディに張り付けて使うピエゾマイクなどを使えば、ケーブルをつないでミキサーにアコギの音を送れるようになる。演奏中に動き回っても大丈夫。しかし、ピックアップもピエゾマイクも、性能や値段がピンキリで、ライブまでの間にあれもこれも試してベターな機材を見つけ出すのが難しそうだと感じた。

なので、打楽器用に入手してときどき使っていた、コンデンサマイクをアコギに取り付けられないかと考えた。打楽器に取り付けられるようなクリップ式で、かつ、グースネックで位置を調整できるタイプ。安ものだけど、ピックアップやピエゾマイクに比べてサウンドにクセがなく、楽器の鳴りをナチュラルに拾ってくれる。

このマイクを取り付けるためのアタッチメントは、市販品でちょうどいいものが見つけられなかったので、「作ったほうが早いな」と思いホームセンターでパーツを買い集めて自作した。L字金具とI字金具をねじでつなぎ合わせて、アコギのボディ幅に合う「コの字型」を作り、耐震用アイテム売り場で見つけた滑り止めマットを両面テープ代わりに使う。こうして完成したアタッチメントに、マイクのクリップを取り付け、グースネック調整してマイクでサウンドホールを狙う。きっと、これで大丈夫。

しかし、本当に大丈夫? と心配になり、ライブ会場のドマにて、サウンドチェックをさせてもらうことにした。その日は、ライブで使う予定の機材を一式持ち込んで「こんな曲をやる予定です」と確認してもらうことも兼ねた。

普通のライブハウスだったら、ここまではやらせてもらえないが、PAも担うマスターの廣井さんが「お店が忙しくない日なら」と、親身に対応してくれるからありがたい。カフェ営業している日に、積極的に利用して恩返しするしかない。コーヒーもうまいし、お店のオリジナルメニュー「タイカレーつけ麺」や「タイカレーまぜ麺(サラダ乗せ)」「ドマシェーク」がおすすめだ。

そして、マイクは何も問題なかった。機材のクオリティもセッティング方法も「これなら大丈夫」と、廣井さんからお墨付きをもらった。実際に本番を迎えたら、どんなトラブルが起こるかはわからないけれど、こうして事前に安心感を得られるのがデカい。ライブの成功率は上げるためには、この安心感が重要だ。


誰が言い出したのか「ステージは魔物がいる」と言われている。
自分自身、過去に何100回とライブをやってきたが、確かに本番では想像もしないことが起こる。普段の練習中には起こらないようなトラブル……、たとえば照明が暗くなって手元が見えない、ギタリストがテンション高めに暴れまわってアンプからギターのケーブルが抜ける、誰かが足をひっかけて機材のコンセントが抜けて音が出なくなる、などなど。

何かの拍子に、ベースアンプのヘッドがゴロンと落下し、その拍子にヒューズがはずれて音がでなくなったこともあった。アンプヘッドが落ちるだけでも事故なのに、ヒューズまではずれるなんて。何の呪いだ。奇跡的に「ヒューズがはずれてる」と気が付いたけど、普段のリハーサルでヒューズを気にしたことなんて一度もなかった。ボーカリストがバナナの皮で滑って転ぶ、ということもあったな、そういえば。なんでステージでバナナ食ってるんだって話なんだけど。

話が横道にそれたが、そういうトラブルが起こるのが当たり前だと知っているからこそ、本番前に問題をつぶし、安心できるポイントを積み上げておきたいのだ。マイクをクリップで取り付ければ大丈夫なら、上体を動かして、普段通りにリズムをとって、思いのままに演奏すればいいので、ほんとうに安心できる。

サブギターは、念のためにお試しで入手したピエゾマイクを取り付けて、本番中の不測の事態に備えてスタンバイさせることにした。サブはそもそも音がおもちゃみたいな感じなので「サウンドが……」とこだわる感じではない。サブギターの出番が来たら、じたばたせずに割り切ると決めた。これでじゅうぶん。


時間をかけてリハーサルさせてもらい、別の課題も見つかった。普段の練習は、立った状態で思うまま体を動かしてリズムをとりながら弾き語っているが、本番ではマイクに向かって歌う必要がある。弾き語りでは、バンドのボーカルが使うようなストレートタイプのスタンドではなくブームタイプと呼ばれる、途中で折れ曲がるマイクスタンドを使う。ブームスタンドなら、折れ曲がったところから斜めに口元へとマイクがアプローチするので、体の前に楽器があっても邪魔にならない。とはいえ、実際に目の前にマイクが立つと練習中とはちょっとした圧迫感がある。ギターに取りつけたマイクが、ブームにガツンと当たってしまわないように気を付ける必要もある。

などなど考慮して、マイクスタンドと自分の距離感やブームの角度、高さなどなど、適切にするのは簡単ではない。演奏中はギターで両手がふさがっている。マイクと自分の位置関係が整っていないと、腰をかがめたり、首を縮めたりしなければならない。それは難儀だ。本番までにマイクスタンドの位置、角度、高さを研究しなければ。

これからの練習では、ブームスタンドに取り付けたマイクの存在を意識して練習する。意識したところで、どうにかなる問題ではないかもしれないけど「マイクスタンドには気をつけろ」と分かっただけで、ライブの成功率を上げられたと思う。事前にこうして確認出来て良かった。


DOMAでは諸々の確認を兼ねていたので、ブルースハープを使う曲も演奏させてもらった。「まだまだ下手なので、ハープを使うべきか迷っている」と相談したところ、廣井さんから「やったほうがいいと思う」と背中を押してもらった。ブルースハープをやるとなると、それなりに練習時間を割く必要があるけれど、せっかくだからやってみよう。ハープを吹くのは1曲だけ。ライブ当日までにどれだけ練習できるのだろう。

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