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祖母と泡盛

地元紙に載るくらいの大雨だった沖縄への修学旅行。よく飛行機が飛んだな、と思う程。いくら制約が多くても、非日常感の中にいられるだけで嬉しく、その楽しさは、かわらず思い出に残っている。

どこで見つけたのか忘れてしまった。お土産売場で、きれいな瓶に入った泡盛があった。瓶は欲しいけれど、私には到底空けられないほど強いお酒。大きさも値段も手頃だったので、家内唯一の酒豪であった祖母へのお土産にした。赤い小さな珊瑚がついたネックレスも添えて。

祖母はきっと、何をあげても喜んでくれただろう。なにより私が、たくさん楽しんで、明るい顔をして、無事に帰宅したことが嬉しそうだった。

瓶を部屋に飾りたいので、中身を干してほしい旨を伝えて学校へ行ったら、もうその日のうちに空いていた。ちゃぶ台に、空になった瓶が置かれていて、祖母は酔っぱらってソファで爆睡していた。夕方はいつも、庭で草むしりをしているか、テレビで時代劇を見ているか、お仏壇に向かっているか、いずれかだったので、そこまで深く眠っているのは珍しかった。
夕飯前に炭酸入りの梅酒を1本、おやつ代わりによく飲んでいた祖母にとって、飲みなれない泡盛が、果たして美味しかったかわからない。それでも、きつい!とかなんとか独り言を言いながら、捨てずに私のために飲み干してくれたのは確かだった。嬉しいとは伝えられなかったけど、嬉しかった。

上京し家を出て、引越しを何度かしたどの部屋にも、いつもこの瓶を飾っている。自由に旅行にも行けるようになり、今年、旅先で同じ瓶を見つけた。変わらないきれいな青。こんなパッケージだったっけ。思っていたより安かったな。再会を喜びつつも、買うのはよした。宝物はひとつでいい。

祖母の遺品整理の際、泡盛と一緒にあげたはずの赤い珊瑚のネックレスは見つからなかった。きっとどこかに大事にしまいこんだまま、何かのときに捨ててしまったのだろう。そういうひとだった。大好きだった。今もかわらず大好きだ。


羽田空港国内線旅客ターミナルにて催されている「旅する日本語展2017」の一環、「私の『旅する日本語』」にて、優秀賞のご連絡をいただきました。思い出がこんな風につながってくれて、とても嬉しい。選んでくださってありがとうございます。
ばぁちゃん、私、なんか賞もらったってよ。


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